ひっそりと静まりかえる
ジャングルの暗い奥地に
静かにひびく人びとの歌ごえ
彼女がそっと指をふれて
小さなテープをまわす
静かな
なんと静かな歌ごえだろう……
彼女の心の中に
どんな歌があったのか
わたしはもう知ることはできない
彼女をここへ導いた
かずかずの歌のしらべも
もうきくことはできないのだ
ジャングルの茂みが
彼女にゆるした旋律(うた)は
モールス信号と
胸に波打つ鼓動だけだった
応答の信号を待ちわびるいま
彼女が愛するこれらの旋律を
もう二度と口ずさむことはなくなった
けれどいま
彼女はそのうたをきいている
ジャングルの
死んだような静かさの彼方へ導かれ
彼女だけにきこえる
勝利のうたをきいているのだ
(桃井健司・訳)
タニア:1937年11月19日ナチスに迫害されアルゼンチンへ移住したドイツ人一家の2番目の子どもとして出生。キューバ革命に感激し、東ドイツで、キューバ支援の運動に加わる。ドイツを訪れたゲバラの通訳をつとめる。キューバに渡航、通訳・翻訳などに従事、ゲバラの下で働き、またハバナ大学の学生となる。キューバでゲリラ活動の訓練ののち、地下工作の使命をおびてボリビアに入国。合法的に滞在するために結婚。1967年ドブレたちを案内してゲリラキャンプに合流。8月31日、行軍中ボリビア政府軍の待ち伏せにあい死去。享年29歳。その死の1ケ月半後、ゲバラも捕らえられ銃殺される。チェ・ゲバラは、39歳だった。
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