風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

「文士」のいた銀座

2007-04-26 23:59:23 | コラムなこむら返し
Dazailupin_1 昨日書いた『銀座ルパン』の太宰治のエピソードでうっかり書き忘れたが太宰治、織田作之助をこの『LUPIN(ルパン』で撮り、ゴミ箱のような部屋での執筆中の坂口安吾などを撮ったカメラマンは、林忠彦(1918~1990)である。押しも押されもせぬ写真界の重鎮だったが(現在、林の名を冠した写真賞がある)、これらの「文士シリーズ」の写真は「小説新潮」の依頼で、昭和23年から24年にかけて撮影されたものだ。ちなみに『ルパン』は昭和3年開店と言う長い歴史を持ち、一時は「文士」が好んで集う「文壇バー」だった。

 さて、現在は「文士」の滅亡した時代だそうで、いわゆる「文壇バー」というのも死滅したのかも知れない。以前、「文壇バー」らしきところへ足を踏み入れたことはあるし、いまでも時たまジャズを聞きに行く「ナルシス」は、先代のママの頃は有名な文壇バーだった。ゴールデン街のいくつかの店は、映画人や、演劇人があつまる「文壇バー」に近い様相を呈していたが最近は知らない。
 ボクは自虐的に酒を飲むということに、怒りを感じるタイプで、客よりも偉そうにしている亭主やママのいるところでは酒がマズイのだ。要するに、自虐的に酒が飲めない。というより、どうしてそのようにして飲めるのか理解できない。

 話が、とんでもなく脱線してきた。林忠彦の著書も1冊ほど持っていたはずだが、見つからず材料もない。これくらいにしておこう。
 そうそう、これだけは言っておく。ボクは、「文士」としてでなくひとりの小説家として太宰が好きだ。そのだらしなさ、おんなの心を盗むあざとさもふくめて好きだ。
 林の撮った写真で、太宰はめずらしく洋服姿でベストを着込み、ネクタイもしている。足を椅子にまでもちあげて行儀悪く座っているその視線の先には、織田作之助がいる。
 ボクは、この写真でいつも気をとられるのは太宰がはいた靴である。その靴はお世辞にもきれいな靴ではない。革靴ではないし、むしろ良くてバックスキンか、布靴であろう。
 ボクには、どうもボクが愛用しているキャラバンシューズのように見える。銀座の出版社か、新聞社への所用の帰りなのだろうか、いつになくめかした割りには太宰の靴のみすぼらしさが、ボクの胸を打つ。ああ、ボクと同じキャラバンシューズをはいている、と……(笑)。