京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

『世界はこんなに美しい』

2023年01月15日 | KIMURAの読書ノート



『世界はこんなに美しい』

エイミー・ノヴェスキー 文 ジュリー・モースタッド 絵 横山和江 訳
工学図書 2020年

この本にはリーフレットが付録として付いています。しかし私は知人から本書よりも先にこのリーフレットのみを資料の1つとして頂きました。それを手にした時の衝撃と言えば、なかなか言葉に表すことができません。私事ですが、私は中型二輪免許を持っており、若かりし頃バイクに乗っていました。そして、ひとりで北海道に渡り、1週間余り道内をバイクで行き当たりばったりの旅をしたことがあります。本書はアンヌ=フランス・ドートヴィルが1973年に女性初のバイクによる単独世界一周を成し遂げた時のことを基にして描かれた作品だったのです。私がバイクに乗っていた当時でもまだまだ女性がそれに乗ること自体少なく北海道ではとても珍しがられたのですが、それよりも約30年前に、しかも世界一周。その勇気と羨望と尊敬が入り混じった何とも言えない衝撃でありました。

本書は絵本という形で構成されており、その際に彼女が巡った国の感想やつぶやきを救い上げ、絵と文章で表現されています。彼女は世界一周を終えようとした時に「世界は美しくあってほしい。そして、世界は美しかった。人間はよいものであって欲しい。そして、人間はよき人びとだった」と感じています。実際に、その美しく、そしてよき人びとが作品では描かれています。しかし、いやだからこそ、とあるページでは胸が詰まってしまいました。それは「バーミアン遺跡」。彼女は1600年前に彫られた巨大な仏像の中に入り、その高いところからバーミアンの秋の空気を感じ、「人生で一番美しい瞬間かもしれない」と思っています。この場面の美しいこと。私にとってはどのページよりも素敵なシーンでした。しかし、この場面の下にこのように文章が記されています。「二度とたずねることはかないません。仏像は、21世紀のはじめにこわされたのですから。」。彼女が感じた布がこすれる音、虫の声、息づかい、自分の心臓の音。バイクでとは言いませんが、私もこの地に立ち、彼女と同じようなものを感じたかったとこの場面を見て、強く思ってしまいました。

この作品の最後には彼女の経歴が記されており、そしてリーフレットには現在の彼女が邦訳に際し、日本人読者にメッセージを綴っています。世界一周ではもちろん日本にも上陸していること。彼女が世界一周した時のバイクが「KAWASAKI」であり、それが日本で故障した時には「KAWASAKI」が修理してくれたこと。その間「KAWASAKI」が別のバイクを貸してくれ、日本国内を巡っていること。日本という国を堪能していたことに私は日本人として、かつてライダーだった人間として約50年前のことであれ、少し嬉しく思いました。しかし、続けて彼女はこのように綴っています。「50年の間には、一変して不幸におそわれてしまった地もあります。日本のほかにも私を魅了してやまなかった人びとの地がありましたが、その世界は今では閉ざされてしまいました。」まさに、その1つがバーミヤンの遺跡のことを語っていると思いました。また、この作品の作者は実際に彼女に出会い会話を交わしていますが、その時の共有した考えは「世界を旅し、好きなように行き来し、かんたんに国境を越えられるのは、いかに幸運であるかということ」。そして、作者はその後に「彼女が旅していた当時、世界は今とはちがっていました」とあとがきに綴っています。この言葉を私自身に置き換えた時、今簡単に北海道を巡ることができるのだろうかと考えてしまいました。コロナ禍では少なからず、ライダー達がライダーハウスに集って男女お構いなく雑魚寝で所狭しと寝るということはできなくなっているはずです。彼女たちの言葉で私自身もあの時北海道を単独で巡ることができたのは幸運だったのだと気付かされました。

本書の最後やリーフレットには彼女が当時世界を巡っていたライダーとしての写真や現在の写真が掲載されています。かつても今も「かっこいい」ことと言ったら、それだけでも眼福です。本書を手にして彼女の勇士を是非一目見て欲しいと思いました。

======文責 木村綾子

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