『日本戦後史論』
内田樹 白井聡 著 徳間書店 2015年
私がファンである内田樹さんの著書は今でも年間10冊以上出るため、現在残念なことに2~3年遅れで読んでいる状態である。彼の著書はリアルタイムの社会情勢を綴っているものも多く、本来は新刊が出るごとに読みたいのが本音である。本書は政治学者の白井聡さんと戦後日本がどのように歩み、どの過程でねじれが起こってきたのかということを検証すべく対談したものであるが、そこで、「なかなか」興味深い記述を見つけることになった。それは、今話題となっている「森友学園」及び「加計学園」問題である。もちろん、この対談が行われた会話に両学園が語られているわけではない。しかし、それはまさにそのことを暗示するものであった。
2014年内田さんが護憲集会に呼ばれて、講演を行うことになったが、これまで護憲集会で後援していた神戸市と神戸市教育委員会がその後援を降りるという連絡がきた。そのことに対して、彼はこのように語っている。「(これらのことが)役人の主体的意思であるにせよ、地方議員の恫喝があったにせよ、(中略)そもそも安倍晋三は僕のことなんか知りもしないわけだし、僕が何かしゃべったって、彼の政治基盤が揺らぐはずもない。だから『内田の言論活動を制約しろ』なんていう指示を出すはずがない。そういうことをするのは全部『小物』なのです。『お上』はこういう人間をきっと嫌うにちがいないというふうに『忖度』して、頼まれていないことをする。こういう『忖度する小物』たちが今では日本の政治機構を機能不全にしている。トップダウンでさえない。(中略)『上の人』はそんな指示を出した覚えがないわけですから、もとより責任を取ることなんかしない。つまり、『忖度システム』が作動し始めると、機構の中のどこにも責任者がいなくなるのです」(p105、106)
現首相に対する興味深い話題はもちろんこれだけではない。彼の二重人格性から、彼の「嫌米感」など、幅広く言及している。そして、とどめは、今年5月の憲法記念日に読売新聞に憲法改正のインタビューが掲載されたことで、同月8日の予算委員会でこのことを追及された際、安倍首相がこの新聞を読むように発言し、物議を醸しだしたことに関して。本書では、彼の祖父岸信介氏と元読売新聞社の経営者だった正力松太郎氏の関係が語られ、更にはそれが「特定秘密保護法」にまでつながっていることに言及している。もはや、本書は安倍首相に話が脱線するレベルではなく、安倍家の戦後史論ではないかと錯覚してしまう程である。これらのことが、その時点で話題になっているのなら、さほど驚かないだろう。しかし、ここに挙げた事例は今年に入ってからのものである。それがあたかも見てきたかのごとく、約2年前に語られていることが「興味深く」もあり、「驚き」となっている。
私の中で、本書は「予言の書」の位置づけとなってしまった。「予言の書」と言えば、この4月に取り上げた『海に向かう足あと』も「予言の書」である。「予言の書」に出会うのは読書をする醍醐味でもあるが、このような不穏な空気、あまり芳しくない方向を示唆する「予言の書」は勘弁してもらいたいものである。 文責 木村綾子
内田樹 白井聡 著 徳間書店 2015年
私がファンである内田樹さんの著書は今でも年間10冊以上出るため、現在残念なことに2~3年遅れで読んでいる状態である。彼の著書はリアルタイムの社会情勢を綴っているものも多く、本来は新刊が出るごとに読みたいのが本音である。本書は政治学者の白井聡さんと戦後日本がどのように歩み、どの過程でねじれが起こってきたのかということを検証すべく対談したものであるが、そこで、「なかなか」興味深い記述を見つけることになった。それは、今話題となっている「森友学園」及び「加計学園」問題である。もちろん、この対談が行われた会話に両学園が語られているわけではない。しかし、それはまさにそのことを暗示するものであった。
2014年内田さんが護憲集会に呼ばれて、講演を行うことになったが、これまで護憲集会で後援していた神戸市と神戸市教育委員会がその後援を降りるという連絡がきた。そのことに対して、彼はこのように語っている。「(これらのことが)役人の主体的意思であるにせよ、地方議員の恫喝があったにせよ、(中略)そもそも安倍晋三は僕のことなんか知りもしないわけだし、僕が何かしゃべったって、彼の政治基盤が揺らぐはずもない。だから『内田の言論活動を制約しろ』なんていう指示を出すはずがない。そういうことをするのは全部『小物』なのです。『お上』はこういう人間をきっと嫌うにちがいないというふうに『忖度』して、頼まれていないことをする。こういう『忖度する小物』たちが今では日本の政治機構を機能不全にしている。トップダウンでさえない。(中略)『上の人』はそんな指示を出した覚えがないわけですから、もとより責任を取ることなんかしない。つまり、『忖度システム』が作動し始めると、機構の中のどこにも責任者がいなくなるのです」(p105、106)
現首相に対する興味深い話題はもちろんこれだけではない。彼の二重人格性から、彼の「嫌米感」など、幅広く言及している。そして、とどめは、今年5月の憲法記念日に読売新聞に憲法改正のインタビューが掲載されたことで、同月8日の予算委員会でこのことを追及された際、安倍首相がこの新聞を読むように発言し、物議を醸しだしたことに関して。本書では、彼の祖父岸信介氏と元読売新聞社の経営者だった正力松太郎氏の関係が語られ、更にはそれが「特定秘密保護法」にまでつながっていることに言及している。もはや、本書は安倍首相に話が脱線するレベルではなく、安倍家の戦後史論ではないかと錯覚してしまう程である。これらのことが、その時点で話題になっているのなら、さほど驚かないだろう。しかし、ここに挙げた事例は今年に入ってからのものである。それがあたかも見てきたかのごとく、約2年前に語られていることが「興味深く」もあり、「驚き」となっている。
私の中で、本書は「予言の書」の位置づけとなってしまった。「予言の書」と言えば、この4月に取り上げた『海に向かう足あと』も「予言の書」である。「予言の書」に出会うのは読書をする醍醐味でもあるが、このような不穏な空気、あまり芳しくない方向を示唆する「予言の書」は勘弁してもらいたいものである。 文責 木村綾子