京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURA の読書ノート『阪急電鉄殺人事件』

2019年11月16日 | KIMURAの読書ノート

『阪急電鉄殺人事件』

西村京太郎 作 祥伝社 2019年10月

鉄道ミステリーの大家である西村京太郎氏が関西ではお馴染みの私鉄の一つ「阪急電車」を舞台に執筆した。

写真家の菊地実は出版社の依頼を受け、阪急電車を撮ることになる。その仕事の合間に大学時代にサークルで一緒だった木内えりかと会うことになった。その約束の時間に阪急電車は人身事故で遅延。その事故に遭い、死亡したのが木内えりかだった。木内えりかの死に不信をもった菊地実は阪急電車の仕事で助手を務めた津村美咲と真相を探るが、その美咲も東京で殺害される。二人の死が関連していると考えた兵庫県警と警視庁(このシリーズではお馴染みの十津川警部)が合同捜査本部が立ち上げられる。そして合同捜査本部と菊地実が事件に挑む。

この作品は、鉄道ミステリーよりは歴史ミステリーの要素が濃い。それでも、鉄道ファンがたいくつしないように、前半に「阪急電車」の雑学的要素を盛り込んでいる。コアな鉄道ファンには当然の知識かもしれないが、この電車を日常生活の足としてただ「利用」している私にとっては、とても新鮮な話題に最初から釘付けである。例えば、梅田駅。ここは、京都線、宝塚線、神戸線の始発点となる駅であるが、なんとこの3本は9時から24時までの00分に同時発車しているとのこと。これは3本のホームがあるだけでなく、駅を出ても継続して線路が3本あるために可能であり、他の鉄道では駅から電車が出ると、線路は1本に集約されてしまうため、このような構造はなかなか見ることができないらしい。と、このような阪急電車の特徴が登場人物の菊地実に語らせながら、事件が起こるまでの序章として物語を引っ張っていく。しかし、事件が起こると一転、話は戦中、戦後すぐの話題に誘っていく。そこに出てくるのは、阪急電車の創業者、小林十三であったり、石原莞爾、吉田茂となる。それだけで何となくきな臭い感じがしてくる。今回殺害された2人とこの3人とのつながりは何なのか。そして犯人は誰なのか。あくまでも、フィクションであり、この3人がこの作品に書かれたような行動を起こしたかどうかは定かではないが、戦後の様々な混乱の中、こんなことがあってもおかしくないという史実とは離れたわくわく感を醸し出してくれるのが本書の醍醐味だと感じた。

しかし、私のわくわく感とは裏腹に作者は自身の言葉としてカバーの折り返した袖の部分に密かに綴っていたのを読後に発見した。
「ここにきて、戦争に絡むミステリーを書きたいと思うようになった。すでに戦後74年。人々の思い出から、戦争の匂いが消えかけている。しかし、今もなお、戦争の傷が、何処かに残り、戦争を知らない人にも、影響を与えている筈である」

1930年生まれの作者。再度作者の気持ちを汲んで読み直してみようと思う。歴史ミステリーとしての阪急電車の顔が見えてくるような気がした。

=====文責  木村綾子
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