京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURA の読書ノート『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』

2020年08月02日 | 大原の里だより

『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』
ピエロの母 著 KKベストセラーズ 2019年11月
 
「道化師様魚鱗癬 はい? 道化師…、ピエロ? 魚鱗…魚のウロコ? ピエロのような魚のウロコ ……。 偏差値の低い頭をフル回転させて考えた。 …うん。 いくら考えても訳がわからない。(p24、25)」
 

 上記は著者が我が息子、陽くんを産んですぐ、陽くんの病気について説明を受けた時の感想である。もう少し、この病気について本書からそのまま引用する。
 
「『魚鱗』とは皮膚が魚のウロコやサメ肌状になって生まれてくる病気です。 ~略~ そのため肌は保湿機能がほとんど失われており、四肢や体幹の広い部分、あるいは全身がゴワゴワして厚い皮膚で覆われています。なかでももっとも重い症状を持つのが、この本の主人公である陽くんが罹患した『道化師様魚鱗癬』です。重症者では硬く厚い鎧状の皮膚に覆われています。マブタや唇は真っ赤にめくれ、耳たぶは変形し、まるでピエロが着る道化衣装のような『膜』をまとまって生まれてくることが多いことから、この病名がついています」(p54)
 

 1か月前くらいのことだろうか。ネットニュースを何気なくスクロールしていたら、著者と著者の夫のインタビュー記事を目にした。この病気を持って生まれてきた息子に対する様々な感情を吐露していた。そして筆者は息子に関するブログを開設しており、このブログがかなり反響を呼んでいること、そしてこのブログを元に構成された本(つまり本書)が刊行されていることを知り、手にしたのである。そもそも陽くんが抱えている病気に関しては、今回初めて知ったわけだが、本書の中で医師が解説しているところによると、魚鱗癬の中でも陽くんが抱えた道化師様魚鱗癬は50~100万人にひとりと言われているが、昔からあった病気であることは医師の中では知られている。しかし、調査や研究が始まったのは最近だそうで、専門家の数は少ないという。このような中で、著者の言葉を借りれば陽くんは「奇跡の子」である。陽くんが生まれる前、様々な出来事が重なり、偶然この病気を知っている医師が勤務する病院で産まれたため、出産後の対応が早く、陽くんは命をつなぎとめたのである。
 
 本書は筆者のブログの内容だけでなく、筆者の夫のコラム、医師の解説、そして陽くんとはタイプが異なるが同じ疾患を持ち現在社会人となっている患者のこれまでの状況も掲載されており、この病気を多角的な視線で捉えられるように構成されている。
 
 あとがきに著者は「少しでも多くの方に、この難病を知っていただきたい」と綴っている。著者だけでなく、これまでも我が子が難病にかかった親の手記は数多く出版されており、それを手にするたびに、自分が今持っている苦悩と葛藤とは全く異なるそれらに多くの気づきを与えてもらう。そして何よりも人の体について解明されていることは、ほんのわずかしかないことを毎度のことながら教えられる。自分の体で起こっていることが分からない以上、このような手記を手にして、1つずつ「知識」を得ていくことしか、人は出来ないのかもしれない。


  本書だけでなく、著者のブログを拝読すると、現在陽くんは幼稚園生になったようである。これからも私たちが想像できない様々な困難が待ち受けているだろうが、健やかに成長して欲しいと願う。


====  文責  木村綾子


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