京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート 読む パンダ

2018年05月03日 | KIMURAの読書ノート
『読むパンダ』
黒柳徹子 選 日本ペンクラブ 編 白水社 2018年1月1

昨年6月に上野動物園にてパンダの赤ちゃん(シャンシャン)が誕生して以来、にわかにパンダブーム到来となっている。事あるごとに、ニュースに取り上げられ、お店にはパンダグッズが並び、書店でもパンダに関する書籍が目に付くようになった。本書はその中の1冊である。パンダファンの著名人のエッセイ。パンダの飼育に関わった人の記録。そして日本パンダ保護協会名誉会長である黒柳徹子さんと関係者との対談と盛りだくさんの構成となっている。

 中でも私が興味惹かれたのは、東京大学総合研究博物館教授の遠藤秀紀氏の手記である。手記のタイトルは「パンダだけの返事」。彼の肩書と手記のタイトルだけでは、どのようにパンダと関わった人物なのか想像しがたい。手記の冒頭彼は、「死体の声を聞くのが、あたしの仕事だ(p128)」と綴っている。彼は上野動物園で死んだパンダ4頭を解剖し、パンダという動物の謎に挑んでいる。そして、その一つ、パンダがなぜ上手に笹をつかめるのかという問いの答えを見つけ出すことに成功したのである。しかしその過程はただパンダを解剖したら分かるというものではない。彼曰く、「死体に這わせた指が、とんでもない事実をあたしに告げる。尋ねる自分。応じる死体(p137)」。死体からの声に導かれなが
ら、答えを手繰り寄せていくその様子にはパンダに対する畏怖の念が伝わってくる。科学者は論理的に物事を割り切って考えていくイメージを払拭してくれる記録である。

また、本書全体を通して注目すべき点は、中国の研究員の方々のサポートである。パンダは中国のみ生息する動物であり、中国がその研究のトップであることは間違いない。そして、そのサポートなしには日本でパンダが生活することはできない。本書においてそのサポートのみを特化して綴った手記はないものの、あらゆる場面で研究員の姿が散見しており、そして、そこから知ることになるのは、部分的なサポートではなく、1年を通して研究員が常駐して日本の飼育員と共同でパンダを見守っているということである。だからと言って中国のやり方を押し付けるのではない。一例としては和歌山のアドベンチャーワールドで双子の赤ちゃんが生まれた時のこと。中国では双子が生まれた場合、一方を人工保育で
育てるのが通常のようであるが、母親のメイメイが子育て上手だったことから日本の飼育員の意見を採用して双子をそのままメイメイに託すことにしたという。その後もメイメイはもう一組の双子を含む4頭(計6頭)の赤ちゃんを産み、アドベンチャーワールドをパンダ王国としている。パンダを国通しの駆け引きに使われているとしばし耳にするが、実際パンダが中国を離れると民間レベルではそうも言ってはいられない。一つの命をどう支え、向き合っていくか、そこに国境はないことをパンダを通して伝わってくる。

と、シャンシャンブームでパンダ本を取り上げることになったが、関西に住む私としては少々不満がある。前述した和歌山のアドベンチャーワールド。現在までに16頭の繫殖実績があり、これは、中国国内を除くと世界最多である。また双子のパンダを共に成長させた施設としては中国国外では初めてである。確かに上野動物園は日本に最初にパンダが来た施設ではある。しかし、もっとアドベンチャーワールドも注目されてよいのではないだろうか。少なからずシャンシャン同様に継続して全国ネットでこのパンダ王国を取り上げてもらいたいものである。
=====文責 木村綾子





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