京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート『工場猫物語』

2015年12月18日 | KIMURAの読書ノート
『工場猫物語』
三島正 著 河出書房新社 2009年

早いもので今年も後半月。読書ノートも本年最後となりました。我が家に猫の息子がやってきて以来、猫本を読む比率が高くなり、この読書ノートでも何度か取り上げるようになりました。今年締めくくるのもその猫本。どうぞ、私の趣味にお付き合いくだされば幸いです。

猫本と言えば、コミックエッセイや、写真集。写真付きエッセイというもので多く占められています。この本を手にした時も工場地帯に住む猫たちを画像に、ゆるいエッセイが書かれたものだと思っていました。完全なる癒し系の本だと。しかし、それは明らか間違い。この工場地帯に勤める宮城夫妻による野良猫の保護活動を記すルポタージュでした。

平成25年度時点での犬、猫の殺処分は環境省の発表によると、犬……約三万匹。猫……約10万匹。圧倒的に猫の頭数の方が多いのが現実です。その中で殺処分を減らすために、里親を探すだけでなく、地域で猫を育てる「地域猫」の活動があります。「地域猫」は主に住宅地など人が集まるところで行われていることが多く、その活動には多くの人たちの手が加わっています。しかし、本書に出てくる猫たちは、工業地帯。昼間は働く労働者がいますが、夜は全く人気がない場所。宮城夫妻はその中で自分たちも働きながら、猫たちをこの工業地帯での「地域猫」に育てるべくひっそりと、しかししっかりと活動をしているのです。

この本の特徴は、ここで生活をしている猫たちの姿を大きく画像に収められていることです。それは、取材文章と同じくらいに圧巻で、それだけで猫たちの現状がひしひしと伝わってきます。人を寄せ付けない眼光。よくある猫の写真集のようにゆったりとした空気はそこにはありません。宮城夫妻の活動によって体つきはしっかりとしていますが、明らかに猫たちの目は読者に対して威嚇している目です。それは野生化したそれとは違い、これまでの彼らの境遇から身についてしまったもの。かえってそれを目にするたびに切なさを感じてしまいます。また、それだけではありません。この工業地帯は人工島であり、休日には魚釣りを楽しむために足を運ぶ人もいるようです。しかし、その人たちのモラルを問われる出来事が猫たちに襲い掛かります。その現実もしっかりと画像に収められています。猫の一般的なイメージは「自由・気まま」。それを覆す彼らの姿がそこにはあります。

私事になるのですが、このルポタージュの舞台となった工業地帯は、私が社会人となってすぐに勤めていた場所でもあります。本書を読みながら当時のことを思い返すのですが、そこに猫の姿というのは記憶にありません。当時は無関心だったために、猫の姿が見えなかったのか、それともその後野良猫が増えていったのか、今となってはその事実を確かめる余地はありません。しかし、人が日常生活を送っていない場所にも今、この時を放置された猫たちが営みをしているという現実。そこにも手を差し伸べている人がいるという事実。今はしかとそのことを胸にきちんと留めて、今後の息子との生活と、息子たちの仲間たちにもっと目を向けていくべきだと教えてもらった1冊となりました。

それと同時に息子が我が家にやってきてくれたことで目をむけることができるようになった、ペットと言われる動物たちの現状。息子に感謝しつつ、来年も動物たちの動向に関心を持ちながら、自分ができることを少しずつ実行していきたいと思っています。

それでは、みなさん良いお年をお迎えください。

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