『だから日本はずれている』
古市憲寿 著 新潮社 2014年4月
著者の古市氏は1985年生まれ。若手の社会学者の論客としてあちこちの紙媒体をはじめとしたメディアで引っ張りだとなっている。その著者が自分自身が思う「日本のズレ」について語ったのが本書である。この「ズレ」は世界と対比しての「ズレ」でもあり、著者や著者の周辺にいる「若者」が「何かがおかしい」と思っている主観的な「ズレ」も含まれている。
しかし、冒頭で著者は、自分自身が若者代表のように騒がれているが、それは自分が初めてのことではないと、釘を刺す。古くは、昨年末政界を引退した石原慎太郎氏もそうであったし、村上龍氏も然り。そして、大人は「若い人のことは分からない」というが、著者曰く、「大人の方がもっと分からない」。そして、更には「今の日本を仕切っている偉い人」はもっと謎に包まれていると一蹴する。このようなことを心に抱きながらも彼が綴った日本の「ズレ」を明らかにしている。
奇しくもこの読書ノートを書いている日が、統一地方選挙当日。誰もがこの混沌とした日本、いや日本と言わずとも自分が住んでいる地域くらいなら、何とか住みよいものにしてくれないであろうかいう希望をもち、「リーダー」となるべく人を投票する。しかし、最初の章で、彼は「リーダー」なんていらないと一蹴する。そもそも、「強いリーダー」が何とかしてくれると思うことに「ズレ」があると著者は語る。その例として挙げられているのが、iPhoneを発明したスティーブ・ジョブズ。確かに彼の発明のおかげで世界各国が身近になり、生活が大きく変わっている。そして何よりも彼が築いたアップル社が今はなくてはならない存在となっている。そのアップル社がここまで大きくなったのは、間違いなく優秀であったジョブズのトップダウンによる経営が大きく関わっている。しかし、ジョブズを語るときに、この成功事例だけを取り上げてしまうのは危険だと著者は言う。この影に隠れてしまっているが、ジョブズはここにたどり着くまでにいくつも会社をつぶしている。会社はつぶれても影響は限定的であるが、これが国だったらどうなのかと著者は疑問を投げかける。国は何回も潰すわけにはいかないし、ジョブズのような変人に任すにはリスクが大きいと彼は明言する。また、歴史的にも「強いリーダー」がもたらした悲劇を知っているはずであるとも綴っている。この第一章だけ読んでも、著者が冷静な目で日本の「ズレ」を暴いていることが分かる。他に今日(地方選)を軸に読み解いていくと、第3章の「ポエム」じゃ国はかえられないという視点も面白い。文科省が公立学校へ配布している道徳の副読本「心のノート」や憲法改正の草案が全て「ポエム」であると指摘しているのである。
後半はこの「ズレ」の中で若者がもがいている様子、そして最終章では、「ズレ」を放置したままにしていると、今後国はどうなっていくのか2040年の日本を予測している。ゆるくジョークをとばしながら書いているが、真面目に読むとこれが案外笑えない。「格差社会」はすでに前提になった上で、それぞれの階層の中で日本人は幸せに暮らしているだろうというのである。それを97歳の田原総一郎や90歳になった柄谷行人は非常に満足そうだったと揶揄する。
著者の予測は果たしていかがなものなのだろうか。本書の初版が1年前。それから年末での衆議院選ではその両氏の笑い声が聞こえたような気がしないでもない。果たして今回の選挙結果はどのようになっているのであろうか。
古市憲寿 著 新潮社 2014年4月
著者の古市氏は1985年生まれ。若手の社会学者の論客としてあちこちの紙媒体をはじめとしたメディアで引っ張りだとなっている。その著者が自分自身が思う「日本のズレ」について語ったのが本書である。この「ズレ」は世界と対比しての「ズレ」でもあり、著者や著者の周辺にいる「若者」が「何かがおかしい」と思っている主観的な「ズレ」も含まれている。
しかし、冒頭で著者は、自分自身が若者代表のように騒がれているが、それは自分が初めてのことではないと、釘を刺す。古くは、昨年末政界を引退した石原慎太郎氏もそうであったし、村上龍氏も然り。そして、大人は「若い人のことは分からない」というが、著者曰く、「大人の方がもっと分からない」。そして、更には「今の日本を仕切っている偉い人」はもっと謎に包まれていると一蹴する。このようなことを心に抱きながらも彼が綴った日本の「ズレ」を明らかにしている。
奇しくもこの読書ノートを書いている日が、統一地方選挙当日。誰もがこの混沌とした日本、いや日本と言わずとも自分が住んでいる地域くらいなら、何とか住みよいものにしてくれないであろうかいう希望をもち、「リーダー」となるべく人を投票する。しかし、最初の章で、彼は「リーダー」なんていらないと一蹴する。そもそも、「強いリーダー」が何とかしてくれると思うことに「ズレ」があると著者は語る。その例として挙げられているのが、iPhoneを発明したスティーブ・ジョブズ。確かに彼の発明のおかげで世界各国が身近になり、生活が大きく変わっている。そして何よりも彼が築いたアップル社が今はなくてはならない存在となっている。そのアップル社がここまで大きくなったのは、間違いなく優秀であったジョブズのトップダウンによる経営が大きく関わっている。しかし、ジョブズを語るときに、この成功事例だけを取り上げてしまうのは危険だと著者は言う。この影に隠れてしまっているが、ジョブズはここにたどり着くまでにいくつも会社をつぶしている。会社はつぶれても影響は限定的であるが、これが国だったらどうなのかと著者は疑問を投げかける。国は何回も潰すわけにはいかないし、ジョブズのような変人に任すにはリスクが大きいと彼は明言する。また、歴史的にも「強いリーダー」がもたらした悲劇を知っているはずであるとも綴っている。この第一章だけ読んでも、著者が冷静な目で日本の「ズレ」を暴いていることが分かる。他に今日(地方選)を軸に読み解いていくと、第3章の「ポエム」じゃ国はかえられないという視点も面白い。文科省が公立学校へ配布している道徳の副読本「心のノート」や憲法改正の草案が全て「ポエム」であると指摘しているのである。
後半はこの「ズレ」の中で若者がもがいている様子、そして最終章では、「ズレ」を放置したままにしていると、今後国はどうなっていくのか2040年の日本を予測している。ゆるくジョークをとばしながら書いているが、真面目に読むとこれが案外笑えない。「格差社会」はすでに前提になった上で、それぞれの階層の中で日本人は幸せに暮らしているだろうというのである。それを97歳の田原総一郎や90歳になった柄谷行人は非常に満足そうだったと揶揄する。
著者の予測は果たしていかがなものなのだろうか。本書の初版が1年前。それから年末での衆議院選ではその両氏の笑い声が聞こえたような気がしないでもない。果たして今回の選挙結果はどのようになっているのであろうか。