京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート『貧困の中の子ども 希望って何ですか』

2015年04月02日 | KIMURAの読書ノート
『貧困の中の子ども 希望って何ですか』
下野新聞子どもの希望取材班 著 ポプラ社 2015年3月3日

『貧困の中の子ども 希望って何ですか』
下野新聞子どもの希望取材班 著 ポプラ社 2015年3月3日

この読書ノートでも「子どもの貧困」や「虐待」についての著書を幾つか取り上げている
。今回もまた「子どもの貧困」について書かれた本を紹介する。

本書は栃木県にある下野新聞社の取材班が県内における子どもの貧困について追いかけ、
連載記事にしたものを、更に修正加筆し1冊にまとめている。本書の特徴は先にも書いた
ように自分たちが住まう地域での出来事を取材したことにより、栃木県内の人にとっては
日本における「相対的貧困」というものが具体的に理解でき、より身近に感じることがで
きるということではないだろうか。

第1章ではそもそも「相対的貧困」というのはどのようなものなのかということを、用語
説明だけでなく、実際に児童養護施設で育った子ども(現在は成人している)の生の声で
綴っている。例えば、小学校や中学校における文房具品。一般家庭の子であれば、親と一
緒にお店に行って、自分のお気に入りのものを買ってもらうことができる。しかし、施設
にいるとそれは皆無で、事務的な緑色の同じ鉛筆が筆箱の中に納まり、他の筆記用具もま
た然りである。傘も支給された黄色い傘で、カラフルなものとは無縁の世界であると教し
えてくれる。もちろん、施設ではなく家庭にいながらも、相対的貧困世帯にいた子の事例
も取り上げている。

第2章、3章では教育についてまとめられている。高校に合格しても制服代が用意できず、
このような支援をしている人と出会い、用立てしてもらった例。親が身動きできず、働き
ながら学費と生活費の確保をしていて体を壊したり、奨学金といいながら今の日本ではこ
れはローンと同じなので、返せないから借りないという選択肢をする高校生。可視化され
にくい現状を目の当たりにすることになる。

第4章、5章では、その貧困家庭や児童に対して支援しているケースについて触れられてい
る。縦割り行政では差し伸べることのできない部分を民間やNPOが請け負っている事例
や、縦割り行政を超えて、行政内部だけでなく、民間やNPOが一つのチームとなって動
いているケースなどを紹介している。

第6章においては、なぜ「相対的貧困」が起こっているのか。本人の怠慢なのか。「母子
家庭 就労8割・貧困5割」をキーワードにそれをひも解いている。

第7章では、英国でのブレア宣言がどのように英国の貧困問題を解決に導き、かつ課題が
残ったのかということを分析し、8章においてこの子どもの希望取材班が取材して感じた
こと、分析したことを「5つの提言」としてまとめている。

同じような内容の著書でも、その地域性だったり、視点によって新たな発見が見つかる。
とりわけ、子どもの貧困が国内においてクローズアップされつつあるが、案外身近に感じ
ているという人は少ないのではないだろうか。

本書は栃木県という一つの県における事例である。
しかし、栃木県だけでも1冊にまとめられるほどの重たい現状がそこから浮き彫りになって
いることを考えれば、残り46都道府県同じようなことが起こっており、それをトータルする
と多くの子どもたちが貧困に苦しんでいることが想像できるのではないだろうか。
本書を手にする人は少なからず「相対的貧困」には当てはまる人ではないだろう。
せめて、読了後はサブタイトルにもなっている「希望って何ですか」に向き合い、応えら
れる人でありたい。

本書は、
2014年貧困ジャーナリズム大賞、
第14回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞
19回新聞労連ジャーナリズム大賞優秀賞受賞作品である。


          文責 木村綾子















































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