明け方、久々に金縛りにあいました。
身体がどうやっても、動かない……。
連日、酒席が続いているし、仕事では非情な仕打ちもやっているんで……。
どうなる事かと思ったら、突然、フワッと浮いて奈落の底に吸い込まれそうになり、目が覚めました……。
なんだかなぁ……。
ということで、本日は何の脈絡もなく、これです――
■Born To Be Blue / Grant Green (Blue Note)
オリジナル盤は1980年代に、ひっそりと発売された没テイク集ながら、その内容の良さと意想外な新鮮味で、忽ちジャズ喫茶の人気盤になった逸品です。
そしてCD時代になり、さらに曲を追加した改訂盤が、本日の1枚です。
録音は1961年12月と翌年3月のセッションからで、メンバーはグラント・グリーン(g)、ソニー・クラーク(p)、サム・ジョーンズ(b)、ルイス・ヘイズ(ds)、そしてアイク・ケベック(ts) という、超豪華な名人が参集しています――
01 Someday My Prince Will Come / いつか王子様が (1961年12月11日録音)
モダンジャズではマイルス・デイビス(tp) の決定的名演があり、またビル・エバンス(p) も取上げていることから、それらを凌ぐ演奏は滅多にありませんが、これは、その「滅多」の中のひとつです。
とにかくイントロから調子の良いノリが最高で、楽しいテーマをリードするグラント・グリーンに絡むアイク・ケベックのテナーサックスが、ジャズの醍醐味です。
アドリブパートでも、グラント・グリーンが「思い出し笑い」のような得意のフレーズを繰り返しますし、もちろん原曲のメロディフェイクも鮮やかに、素晴らしい展開を聴かせてくれます。
現在、この人はコテコテのイメージが先行気味ですが、こういう小気味良い洒脱な演奏も流石の素晴らしさだと思います。
また相方のアイク・ケベックは、やや古いスタイルのシブイ存在ですが、歌心を大切にした力強く、押出しのあるブローは、確実にジャズ者の琴線にふれる人です。
そして、やっぱりソニー・クラーク! 一抹の哀愁を含んだそのアドリブフレーズは、ここでも絶好調の魅力満点です♪
02 Born To Be Blue (1961年12月11日録音)
アイク・ケベックの「泣き」のテナーサックスが魅力です。
サブトーンと豪胆なノリ、まさにテナーサックスの王道! つまりストリップの伴奏~日活映画のキャバレー場面という下世話な味は、やっぱり捨てがたいですねぇ~♪
もちろんグラント・グリーンも、そのあたりは心得たもので、控えめな単音弾きの中に、しっとりとした情感をこめたフレーズを綴り、平素とは違った顔を見せています。
しかし、それを粉微塵にしてしまうアイク・ケベックのラストテーマの吹奏は、本当に強烈なのでした。そして最後のサブトーンは、お約束♪
03 Born To Be Blue (別テイク / 1961年12月11日録音)
前曲の別テイクで、このCDが初出となります。
ここではアイク・ケベックが、いっそうアクの強い吹奏で、それにつられたか、サム・ジョーンズのベースからもエグ味が出ています。
ちなみにアイク・ケベックは、当時としてもジョン・コルトレーンどころかハードバップ以前のR&Bスタイルが強いプレイヤーですが、ブルーノート・レーベルのスカウトマンとして縁の下の力持ちだったとか! もちろん演奏者としても一流で、このアルバムの名演によって、我国では1980年代に入って局地的に人気が沸騰したのですが……。
04 If I Should Lose You (1961年12月11日録音)
和み系のスタンダード曲で、全く穏やかにテーマを弾き、アドリブに入っていくグラント・グリーンの素直なジャズ感覚に惹かれます。
しかも、そのバックではルイス・ヘイズのドラムスがドドンパのリズムですから、そのイナタサがたまりません♪
さらに続くアイク・ケベックがサブトーンと力んだダーティな音使いで、ジャズの本質を聴かせてくれるんですから、気分はすっかりキャバレーモード♪
ただしソニー・クラークの存在が、それをしっかりとハードバップに繋ぎ止めていますし、もちろん全員の歌心は満点です♪
05 Back In Your Own Back Yard (1961年12月11日録音)
これも調子の良いハードバップで、テーマを快適に吹きまくるアイク・ケベックが魅力たっぷりです。
そしてグラント・グリーンは、単音弾きで独特の歌心を披露し、荒っぽいながらも十八番の「針飛び」フレーズや「思い出し笑い」を連発してくれます。
また快調にアドリブするアイク・ケベックのバックでは、珍しくもグラント・グリーンのコード弾きやエグミのあるリフまで聞かれます。
さらにソニー・クラークは、ワザワザ地味なスタイルに纏めようとして、途中からファンキーフレーズを出してしまうあたりが、ご愛嬌♪ たまりかねたグラント・グリーンがアドリブを引き継ぎ、怖ろしいノリを展開する後半が最高です!
06 My One And Only Love (1961年12月11日録音)
モダンジャズでは幾多の名演が残されているスタンダードですが、これも快演のひとつでしょう。まずグラント・グリーンが自然体でイントロを作り、そのまんま、美しいテーマメロディを弾いていく展開が素敵です。
バックのサム・ジョーンズのベースも冴えていますし、ソニー・クラークは言わずもがなの好演ですが、こういうスローな演奏になると、またまたアイク・ケベックのキャバレーモードが全開♪ それゆえに忘れ難いバージョンに仕上がったようです。
07 Count Every Star (1962年3月1日録音)
この曲だけが、別セッションからの演奏です。
しかし、その完成度は同じ味になっており、グラント・グリーンは極めて正統派のノリで、洒脱なギターを聴かせてくれます。あぁ、この歌心♪ スローな展開でダレないピッキングの上手さ! やはり凄い人だと思います。
そしてお待たせしました! アイク・ケベックのキャバレーモードが、またまた最高ですねぇ~♪ このアルバムは、こういう、ある種の「しつっこさ」が魅力なんです!
08 Cool Blues (1961年12月11日録音)
このCDが初出となったブルース演奏ですが、原曲がビバップなんでコテコテにはならず、極めて真っ当なハードバップです。
小型フィリー・ジョーの趣が強いルイス・ヘイズのドラムスも力強く、サム・ジョーンズも攻撃的というリズム隊も素晴らしい! しかしソニー・クラークは、アドリブに入ると、珍妙なフレーズというか、スケール弾きに走り出して??? 一応、十八番のファンキー・フレーズは聴かせてくれるのですが……。
またアイク・ケベックも、イマイチ煮えきりません。すると、なんという事か! ソニー・クラークが爆裂のコード弾きをやったりして、またまた???
このあたりが、没テイクになった要因かもしれません。
肝心のグラント・グリーンは可も無し不可も無し……。
09 Outer Space (1961年12月11日録音)
グラント・グリーンが書いた新感覚のハードバップで、もちろんモードの味付けが入っています。そしてグラント・グリーンは無難にこなしていますが、それ以上の燃え上がりが無いのが残念……。
しかし、意外にもアイク・ケベックがスジの通った快演! さらにソニー・クラークが絶好調のノリで黒い雰囲気! ただし最後が両者共に迷い道ですから……。それでも、まあ、許せます。
おまけにグラント・グリーンのコード弾きの伴奏がダーティな音使いで、個人的には大好きなのでした。
ということで、確かに没になる要因が随所に散見される演奏集ですが、なんとも言えない調子の良さは、大いに魅力です。
特に初っ端の「いつか王子様が」のアレンジは、当時プロアマを問わず、大いに流用された素敵なものですし、演奏そのものが魅力たっぷり♪
そして全篇で、グラント・グリーンの固定観念を覆す、洒脱な部分が楽しめます♪
さらにアイク・ケベックの持ち味の良さとか、ソニー・クラークの参加が目玉という、一度は聴いて損の無い作品だと思います。ぜひ、どうぞ!