ガソリン、高くなりましたですね。地方で生活していると車は必需品ですから、受け容れる他はないのですが……。
ということで、本日は――
■Chet Baker In New York (Riverside)
1950年代で一番大衆受けしていたジャズメンは、多分チェット・ベイカーでしょう。カッコ良いルックスに西海岸派特有のスマートな演奏、そしてアンニュイなボーカル♪
トランペッターとしても、マイルス・デイビスより人気があったと言われています。
さて、このアルバムは人気絶頂時にタイトルどおり、ニューヨークで吹き込まれた1枚で、録音は1958年9月、チェット・ベイカー(tp)、ジョニー・グリフィン(ts)、アル・ヘイグ(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という、興味津々のメンバーが集いましたが、ジョニー・グリフィンの参加は3曲だけです。また憂愁の白人ピアニストとしてマニアにはたまらないアル・ヘイグの参加も、味わい深いところでしょう――
A-1 Fair Weather (Quintet)
ベニー・ゴルソンが書いた人気のソフトバップ曲で、同時期にはアート・ファーマーが「モダン・アート(United Artists)」という名作アルバムに残した演奏が有名ですが、このバージョンも捨てがたい味わいです。
まず不穏な空気のようなイントロが素晴らしく効果的! 続けて演奏される素敵なテーマメロディが一層、引き立っています。力強いビートを作り出すリズム隊も、最高ですねぇ♪
アドリブ先発のチェット・ベイカーは、もちろん歌心の塊ですが、何となく力みも感じられます。すると続けて出るのがポール・チェンバースのベースソロ! この意表をついた仕掛けにはゾクゾクしますし、バックには的確なコードワークのアル・ヘイグとヴィヴィッドなフィリー・ジョーのシンバルが気持ち良い限りです。
そして、お待ちかねのジョニー・グリフィンが熱血のブロー! バランスの崩れもお構いなしのジコチュウなんですが、やっぱりグッときます。
さらにアル・ヘイグの柔らかなピアノの後には、この曲の最高の場面である魅惑のセカンドテーマが出てきますから、私のような者は涙そうそう♪ 全体的にアート・ファーマーのバージョンよりもゴリゴリした雰囲気が、憎めない仕上がりだと思います。
A-2 Polka Dots And Moonbeams (Quartet)
チェット・ベイカーのワンホーンで演奏される、これも魅惑のメロディというスタンダード曲です。まずアル・ヘイグが作るイントロが良いですねぇ~♪ もちろん伴奏のコードワークとアドリブも素晴らしいと思います。
そしてチェット・ベイカーが、ちょっとハスキーな音色で吹奏してくれるテーマの甘さ、せつなさは絶品♪ ポール・チェンバースの控えめな絡みも結果オーライだと思います。
さらにアドリブパートでは、力強いフレーズも出るんですが、やはり滲み出る儚さがジンワリと胸に迫ってくるのでした。
A-3 Hotel 49 (Quintet)
如何にも全盛期というハードバップの雰囲気が存分に楽しめる名曲です。アップテンポで真っ黒なテーマメロディの合奏、さらに燃え上がるジョー・グリフィンのアドリブには大満足! ブレイクから炸裂するフィリー・ジョーが独特のクッションを効かせたバスドラとシンバルのコンビネーションにも心底、シビレます♪
そしてアル・ヘイグのピアノが顔で笑って、心で泣いて……♪ ちょっと迷い道もありますが、それすらも企図されたものかと納得してしまいます。
肝心のチェット・ベイカーも十八番のフレーズを出しまくったアドリブで熱演していますが、ちょっと押され気味……。ポール・チェンバースとフィリー・ジョーのコンビが凄すぎるのかもしれません。特にフィリー・ジョーはドラムソロでも大暴れです。
B-1 Solar (Quartet)
マイルス・デイビスのクールなオリジナル曲ですから、チェット・ベイカーの演奏となれば興味深々! リズムパターンは、これもマイルス・デイビスが当りを取った「Dear Old Stockholm」からの引用まで使います。
しかし全く自己のペースで歌心満点のトランペットを鳴らすチェット・ベイカーは流石です。アル・ヘイグも力まない好演ですし、それが物足りなくもありますが、フィリー・ジョーのブラシとポール・チェンバースのブンブンベースが良い感じ♪
最終パートのドラムス対トランペットも、上手く纏まっています。
B-2 Blue Thoughts (Quintet)
これまたベニー・ゴルソンが書いた哀愁のメロディがたまらない、イカシたハードバッブになっています。ミディアムテンポで例の「ゴルソンハーモニー」が使われているんですねぇ~。ジョニー・グリフィンの意外な器用さに驚かされます。
チェット・ペイカーの演奏も素晴らしく、思わせぶりと歌心のバランスが秀逸です♪ ちょっと聴くと地味な感じなんですが、味わい深いです。
またアル・ヘイグが本領発揮の仄かな煌き♪ 煮え切らなさを逆手に取った名演ではないでしょうか。続くジョニー・グリフィンもテナーサックスの音色の魅力を存分に活かした吹奏で、飽きません。
B-3 When Lights Are Low (Quartet)
これもマイルス・デイビスが十八番にしているスタンダードの歌物曲で、このセッションを支えたポール・チェンバースとフィリー・ジョーが参加のバージョンも残されていますから、これは大いに気になる演奏です。
そして結論から言うと、チェット・ベイカーの歌心が独特の上手さ発揮した名演だと思います。ただし正直言えば、ちょっと不安定で、決して凄いアドリブではありません。あくまでも「味」の世界でしょう。それがグルーヴィなリズム隊によって活かされている感じです。
そのあたりは私のような素人が云々しても不遜になるばかりですが、そういうマイナス面すらも魅力になっているのが、このアルバムの良さではないでしょうか……。
ということで、ご承知の通り、チェット・ベイカーは当時から悪いクスリに中毒状態……。このセッションでも、ちょいとそうした弊害が感じられますが、それはフィリー・ジョーやポール・チェンバースあたりも同様でしたから、そういうジャンキーの仲間意識が良い方向作用した、と書いたら問題でしょうか?
チェット・ベイカーはこのセッションの後、ほどなく渡欧して孤高の道を歩むわけですが、ここで本場のど真ん中というハードバップを演じてくれたのは暁光でした。
そして独り、居心地の悪そうなアル・ヘイグが、なんとも気になるアルバムでもあります。