■Erroll Garner Plays Misty (Mercury)
これがジャズだと知らずに聞いていたメロディのひとつに、エロル・ガーナー作曲の「Misty」があります。おそらく誰もが一度は聞いたことがあるんじゃないでしょうか、この美しき夜のムードの名曲を。
私が初めて「Misty」を聴いたのは、黒人男性歌手のバージョンでしたが、残念ながらそのボーカリストの名前は失念しています。もちろんその時は、アメリカンポップスの大衆ヒットだと思っていたわけですが、しかし後年、作曲者が高名な黒人ジャズピアニストであり、もちろん自らのバージョンもヒットさせていたと知って、かなり驚きました。
何故ならば当時、中学生だった私は、黒人ジャズといえばジャズロックかファンキー、あるいはサイケロックと一脈通じるフリー&モード系の感じと思いこんでいたのですから! これがデイヴ・ブルーベックあたりだったら、さもありなんで済んだでしょう。
さて、このアルバムは、その名曲「Misty」の初演バージョンをウリにした人気盤♪ しかし決してアルバム単位の企画として録音制作されたものではなく、1940年代後半から1950年代中頃までのピアノトリオ演奏を中心に集めたものです。つまり以前にSPやEP、そして数枚のLPに収録されて発売済みの音源を再収録した、ある意味ではベスト盤だと思います。ちなみに発売されたのは1960年代初頭ではないでしょうか――
A-1 Misty (1954年7月27日録音)
これが前置きで述べた名曲で、現在ではジャズを超えた周知のメロディでしょう。歌詞がついたボーカルバージョンも星の数ほどありますが、これが録音された当時にはメロディだけのトリオ演奏になっています。
しかしアドリブなんか無いんですねぇ~~♪
ゆったりとしたムードの中、魅惑のメロディを作者自らの思い入れで弾くピアノの素晴らしさ♪ まさに夜のムード、大人の時間ですね。わずか2分46秒の桃源郷が、たまらない世界です。
ちなみにこの曲はクリント・イーストウッドが初監督作品で主演もこなした「恐怖のメロデイ(1971年)」のプロットにもなっていますが、私がエロル・ガーナーの自作自演バージョンを聴いたのは、そこが初めてでした。それまでは確かにエロル・ガーナーのピアノバージョンを聞いたこともありましたが、実はオーケストラをバックにした再演シングルバージョンだったのです。
A-2 Exactly Like You (1954年7月27日録音)
ゆったりとしたテンポで和みのメロディフェイクを聞かせてくれるエロル・ガーナーは、しかし左手に特徴的な所謂「ビハインド・ザ・ビート」が絶妙のスパイスになっています。これはコードを4ビートで刻むという温故知新の得意技で、そのビート感が微妙に遅れているというか、極端なアフタービートというか、とにかくクセがあってヤミツキになりそうな魅力がジャズの面白いところでしょうねぇ。
そしてエロル・ガーナーが本当に良いのは、アドリブパートさえもメロディを大切にしていることです。この演奏は、そうした良い面がじっくりと楽しめると思います。
A-3 You Are The Sunshine (1954年7月27日録音)
さらにエロル・ガーナーが凄いのは、強烈なドライブ感を持っていることでしょう。この曲のように良く知られたメロディを強靭にスイングさせていくのは荒業といって過言ではないと思います。その力強いピアノタッチ、歯切れよく転がっては跳ねるフレーズの楽しさ、さらにフックの効いたアドリブフレーズの妙♪ 実に楽しい世界ですねっ♪
しかしそのあたりの快楽性が、我が国のジャズ者からは軽視される要因でしょうか……。この名人ピアニストの諸作が、あまりジャズ喫茶じゃ鳴らないのは、そこいらの事情?
A-4 What Is Thing Called Love (1949年9月8日録音)
これも良く知られたスタンダード曲ですから、左手のチョンチョンチョンチョンという4ビート、美メロ製造機ともいうべき右手の妙技が最高のバランスで楽しめます。
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A-5 Frantenality (1946年4月9日録音)
このアルバムの中では最も古い録音ですが、スイングもビバップも超越した楽しいピアノ演奏という本質は変わりません。
共演のペースとドラムスは、あくまでもビートのキープだけが仕事という役割分担も、エロル・ガーナーには必要十分条件! 時期的にパド・パウエルようりも早くベースとドラムスを従えたピアノトリオを結成していた実績も、研究対象としての価値よりは、楽しさ追及の手段として正解じゃないでしょうか。
ちなみに曲はエロル・ガーナーのオリジナルで、この哀愁路線も良い感じ♪
B-1 Again (1949年9月8日録音)
ゆったとした美メロの世界は高級ホテルのカクテルラウンジという雰囲気♪ ここでもほとんどアドリブは出ませんが、メロディフェイクと上手すぎる装飾フレーズの至芸に酔わされます♪
B-2 Where Or When (1946年7月14日録音)
これまたカクテルモードの和みの世界ですが、確かにこれじゃ、ジャズ喫茶ではお呼びじゃない……、ですね。しかしこれを自分だけの楽しみとして聴くには贅沢過ぎると思います。
まあ、誰にも教えたくない楽しみかもしれませんね。
B-3 Love In Bloom (1955年3月14日録音)
さらに続くのが、この和んで楽しい名曲名演です。
完全なエロル・ガーナーのソロピアノですが、強力なピアノタッチと独特のビート感がありますから、ベースとドラムスが居ないことがちっとも気になりません。
しかし、それを言えば、なんでエロル・ガーナーがピアノトリオを率いているのか、ちょいと分からなくなりますが、それにしても凄いピアニストだと思います。
B-4 Through A Long And Sleepless Night (1949年9月8日録音)
これも甘くて虫歯になりそうな演奏なんですが、こうした雰囲気はレッド・ガーランドやアーマッド・ジャマルにも確実に受け継がれた世界だと思います。その意味で、エロル・ガーナーはやっぱりジャズピアニストだと思いますが、最も大衆的な路線を大切にした姿勢は最高♪
B-5 That's Old Feeling (1955年3月14日録音)
これもソロピアノなんですが、強靭なスイング感が素晴らしいですねぇ~♪ タイプは違いますが、このあたりはオスカー・ピーターソンとは似て非なる物凄さかもしれません。
ということで、ピアノトリオの個別のメンバー構成は勉強不足でわかりませんが、とにかく楽しい演奏集です。そして聴き飽きることがないんですねぇ~♪ 曲の流れもLP片面毎に上手く構成されていると思います。
そして何よりもメロディを大切したエロル・ガーナーの素敵な世界♪ その唯一無二の個性という「ビハイド・ザ・ビート」の「ずれた快感」も存分に楽しめますし、同時に凄すぎるドライブ感も!
ちなみにエロル・ガーナーは古いタイプのピアニストだと思われがちですが、1940年代後半には最も新しいスタイルだったようで、当時の最先端だったチャーリー・パーカーが全盛期のセッションにも起用されているほどです。
しかし本質はやっぱり楽しさや和み優先の姿勢なんでしょうねぇ。それに素直に惹きこまれてしまうのはジャズ者の冥利かもしれませんが、この色気のあるジャケットも再発盤の美点なのでした♪
これまた懐かしいアルバムです。学生の頃、行きつけの飲み屋のオヤジがかけてくれてその存在を知りました。
オヤジの外見はセシル・テイラーにクリソツなのですが、音楽に関して言えば分け隔てない扱いをしてくれて。こういう大衆路線系のレコードもかければ、アルバート・アイラーのゴーストまで登場していました。
アルバムには録音年月日のクレジットがないので、いままで判りませんでしたが、録音の質からすると曲によってはかなり古いものだと推測していましたが、そうなんですね…
コメントありがとうございます
それにしても素晴らしい、おやじさんですね♪
もし自分もそんな店をやるならば、お手本にしたいと感じいりました。
エマーシーの録音は明るくてパンチのある音なんで、録音年月日が異なっていても統一感があります。多分、1940年代後半から逸早くテープ録音を使っていたのでしょう。
このアルバムも全然、その「音」に古びた感じが無いんですよ。それが何時までも愛される秘密のひとつかもしれません。