■Naturally! / Nat Adderley (Jazzland)
歌は世につれ、とか言われますが、ジャズのアルバムにだって様々な思い出がついてきて当然ですよね。
例えば私にとって、本日ご紹介の1枚であれば、例によってガールフレンドにバカにされ、不貞腐れて入ったジャズ喫茶で鳴っていたなぁ、とか……。
で、主役のナット・アダレイはご存じ、キャノンボール兄貴に連れられてニューヨークにやってきた弟ということで、いっしょにバンドをやっていても、それほど一般的に認められていたとは言えないでしょう。なにしろキャノンボール・アダレイが偉大な存在ですからねぇ。
しかし作曲能力は兄貴以上に素晴らしく、例えば大ヒットした「Work Song」を筆頭に名曲をいろいろと書いていますし、トランペット&コルネット奏者としても決して侮れない実力者だと思います。
そしてこのアルバムは、そうした魅力にスポットをあてたワンホーンの快演盤!
もちろんナット・アダレイが主役ですが、リズム隊がこれまた強力で、1961年6月20日に録音されたA面にはジョー・ザビヌル(p)、サム・ジョーンズ(b)、ルイス・ヘイズ(ds) という、当時のキャノンボール・アダレイのバンドレギュラーが勢ぞろい! 所謂ボス抜きセッションというわけです。
また同年7月19日に録音されたB面には、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という、マイルス・デイビス所縁の面々が起用されていますから、既にゾクゾクされると思います。
A-1 Naturally
ビンビンビンと唸るサム・ジョーンズのペース、疑似ジャズロックというルイス・ヘイズのドラムス、ビル・エバンス色が強いジョー・ザビヌルというリズム隊が巧みに導くイントロからして快適なジャズムードが横溢し、そこに聞こえてくるラッパの雰囲気はマイルス・デイビス? いえいえ、これがナット・アダレイなのです。
幾分の綱渡がスリルにも繋がるという、全く得な資質がニクイほどではありますが、その作曲能力を証明するかのようなアドリブフレーズのシンプルさが持ち味でしょうか。決して難しいフレーズは吹かずとも、素敵なハードバップの魅力がいっぱいです。
また既に述べたようにエバンス派モロ出しのジョー・ザビヌルが、途中からファンキーな色合いを強めていくあたりも最高♪♪~♪
当然ながらドラムスとベースはハードエッジな4ビートを忘れていません。
A-2 Seventh Son
ジョー・ザビヌルが書いたクールで熱いモード曲! ダークなファンキー魂が滲むテーマアンサンブルから全篇を通してグイノリのウォーキングベースを響かせるサム・ジョーンズが、見事にバンドをリードしているようです。
そしてナット・アダレイがミュートでジワジワと盛り上げていけば、気分はすっかりマイルス・デイビスというか、実にたまりませんねぇ~♪
するとジョー・ザビヌルが何時の間にかウイントン・ケリーへと寝返ったような最高のアドリブを聞かせてくれるんですよっ! あぁ、思わずニヤリのクサイ芝居が自然体なんでしょうねぇ~♪ 賛否両論も関係ねぇ~~♪
またサム・ジョーンズのエグイ音色による強烈なペースソロだって、これは正統派の自己主張ですから、続く終盤にかけてのバンドの熱気は完全に本物だと思います。
A-3 Love Letter
有名な歌物スタンダード曲のスローな演奏ということで、ミュートを聞かせるナット・アダレイは尚更にマイルス・デイビスっぽくなっています。
ただし巨匠のようなクールな繊細さはそれほど滲まず、むしろシミジミとした情感を何の衒いもなく表現したところに好感が持てます。
このあたりを物足りないと思うのは確かですが、まあ、これはこれで……♪
A-4 This Man's Dream
キャノンボール兄貴のバンドレギュラーだったドラマーのスペックス・ライトが書いたオリジナルのファンキー曲だけあって、ここでも豪快にグルーヴしまくったハードバップが楽しめますが、そのキモはもちろん、ハードエッジなリズム隊の活躍です。
サム・ジョーンズの豪胆な4ビートウォーキング、メリハリの効いたルイス・ヘイズのドラミング、そしてツボを押さえたジョー・ザビヌルのピアノ! あぁ、これがモダンジャズの王道だと痛感させられますねぇ~♪
そしてナット・アダレイの飾らないアドリブには、シンプルなフレーズの積み重ねが高得点! なんだかキャノンポール兄貴が登場しそうな雰囲気も濃厚ですが、それを言ったらお終いということで、ご理解願います。
B-1 Chloe
B面に入ってはケリー、チェンバース&フィリー・ジョーというマイルス直系のリズム隊が共演ということで、ますますその味わいが深くなっていきます。
まずは古い歌物スタンダードを如何にものイントロからミュートで演じるナット・アダレイの、その心酔しきった表現が面映ゆいほどですよ。ミディアムテンポで力強いサポートに徹するリズム隊も、それは百も承知なんでしょうねぇ~♪ ウイントン・ケリーのアドリブに続いてナット・アダレイが登場してくれば、もはやそこにはマイルス的世界の桃源郷が現出♪♪~♪
実は告白すると、冒頭に書いた不貞腐れの私が聴いたのがこれでしたから、冷静さ幾分失っていたとはいえ、てっきりマイルス・デイビスの演奏だと思いこんでしまったほどです。
この手のスタイルは、例えばダスコ・ゴイコビッチあたりにも顕著ですが、やはりこのリズム隊があればこそという本物度数の高さが、実に素敵です♪♪~♪ ポール・チェンバースのペースソロもリバーサイド系の録音でハードに楽しめますよ。
B-2 Images
そしてこれがほとんど「So What」と「Impressions」の中間的モード曲! ポール・チェンバースが唯我独尊の4ビートウォーキングならば、フィリー・ジョーのリムショットにビシッとキメるスネアの気持良さ♪♪~♪ さらにウイントン・ケリーの颯爽としてスカッとするピアノが聞こえてくれば、当たりは完全に疑似カインド・オブ・ブルーですよっ♪♪~♪ 実際、前述した曲と同じモードを使っているんでしょうねぇ~、サイケおやじにすれば、もうシビレが止まらんほどですよ。あぁ、クールな熱気が素晴らしい!
肝心のナット・アダレイも完全に「もどき」の世界から脱しようとすればするほど、本家に近づいてしまうという、最高に好ましい結果を聞かせてくれますが、やっぱりリズム隊の直伝グルーヴがあればこそでしょうねっ♪♪~♪
B-3 Oleo
さらに、これまたやってくれるという演目は、もちろんモダンジャズ期のマイルス・デイビスが十八番にしていた聖典曲! フィリー・ジョーのドラムスを要としたテーマのアンサンブルから白熱のアドリブまで、ナット・アダレイがミュートで突進するアップテンポの演奏です。
あぁ、このリズム隊の爽快感! 完全に「分かっている」んでしょうねぇ~♪ 各人のパートの熱演は、所謂お約束と言えばそのとおりなんですが、これこそヒッチコックの提唱する「全て分かっている楽しみ」だと思います。
B-4 Scotch And Water
ジョー・ザビヌルが書いた、キャノンボールのバンドでは定番の演目ですが、それを「マイルスもどき」で演じるきれるのは、まさにこのリズム隊の至芸♪♪~♪ ナット・アダレイが本当に嬉々としてミュートを吹き鳴らせば、ウイントン・ケリーのピアノはスイングしまくって止まりません。
ハードバップの一番美味しいところを提供するドラムスとベースのコンビネーションも絶妙にして細心ですから、もっと聴いていたいという贅沢が残るのでした。
ということで、これそこ「もどき」の名演集!
しかしナット・アダレイ自身に決して個性や実力が無いというわけではありません。本来の資質を意図的にモロ出しにした企画セッションだったのでしょう。他のリーダー盤や兄貴との共演盤等々と比較しても、それは明らかでしょう。そして、それゆえのノビノビとした感じが、アルバム全体を聴き易いものにしているのかもしれません。
マイルス・デイビス好きの皆様には激オススメ! もちろん全てのジャズ者がニヤリとするに違いないアルバムだと思います。