OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

春風のハードバップ

2006-05-16 15:59:47 | Weblog

ようやく春らしいというか、初夏前の、私が一番好きな季節になりました。長閑なんですよ、とにかく気持ちが良い天候です。

そこで聴いたのが、これです――

South American Cookin' / Curtis Fuller (Epic)

モダンジャズに暗い情念は付物かもしれませんが、そればっかりでは身が持ちません。私は逆に陽気なノーテンキ盤が、けっこう好きです。

このアルバムは、リーダーのカーティス・フラーが1961年夏に南米巡業をした際の印象から作られた、心底楽しい1枚です。

メンバーはカーティス・フラー(tb)、ズート・シムス(ts)、トミー・フラナガン(p)、ジミー・メリット(b)、デイヴ・ベイリー(ds) という、ジャズ者にはお馴染みの面々♪ 実際、前述の南米巡業にはズート・シムスとデイヴ・ベイリーが同行していたという事から、意志の疎通もバッチリのセッションです――

A-1 Hello Young Lovers
 いきなり無謀な選曲! しかもカーティス・フラーのワンホーン演奏なので、ますます暴挙としか思えません。何故ならば、この曲はトロンボーンの神様=J.J.ジョンソンが「ブルー・トンロボーン(Columbia)」という極みつき名盤で、決定的な演奏を残しているからです。
 当時のカーティス・フラーは、そのJ.J.ジョンソンを追走する一番手とはいえ、これは??? となるのですが、しかし逆に興味津々! もしかすると……、という部分が、聴く前からジャズ者の魂を熱くさせるのです。
 で、肝心の演奏はテンポもJ.J.ジョンソンのバージョンに近く、ご丁寧にもピアニストが同じトミー・フラナガンなので、雰囲気はそっくりです。う~ん、かなりの重圧になるはずですが……。
 結論からいうと、楽しい快演です♪ カーティス・フラーのトロンボーンは、そのハスキーな音色と長閑なフレーズの妙、さらに陽気で大らかなノリというスタイルがウリですが、それが全開しています。
 なにしろテーマ吹奏からして陽気な雰囲気♪ アドリブ・パートに入っても単純なフレーズしか吹いていません。単音のモールス信号とリズムへのアプローチを主体にして演奏を進め、ここぞっ! という瞬間に早いパッセージを入れ込むという手法です。とてもJ.J.ジョンソンのようなメカニカルなフレーズは吹けていませんが、それ故に、とても良い味を出しまくりです。
 それはサポートのリズム隊、特にトミー・フラナガンの存在が限りなく大きいと思います。そして何度聴いても憎めない演奏です。

A-2 Besame Mucho
 アート・ペッパー(as) を筆頭にモダンジャズでは幾多の名演があり、その全てが日本人は大好きという名曲です。
 ここではボサ・ビートで演奏されますが、全体のリズム処理がジャズロックに近くなっているところが面白いと思います。
 ちなみにアメリカにおけるボサノバ・ブームは、このアルバム録音の翌年=1962年からですし、ジャズロックはさらに次の年=1963年になって本格化するのですから、ここでのリズム・パターンは興味深いところです。
 肝心の演奏はズート・シムスが登場するや、ハードバップの4ビートに転換するのですが、それがまた、最高なんですねぇ♪ あぁ、ズート・シムス、あんたは何時だって最高だぜっ! その歌心、絶妙のウネリ、ソフトな音色とハードドライブなノリには、毎度、感涙です。
 そして再びカーティス・フラーが登場、負けじと4ビートの真髄を追求してくれるのですから、全く、こたえられない演奏です♪ もちろんトミー・フラナガンも趣味の良いピアノをたっぷりと聴かせてくれますし、ジミー・メリットのベースも豪放さが快感です。

A-3 Willow Weep For Me
 通常は粘っこいノリで演奏される黒い雰囲気のスタンダード曲を、ここでは軽く陽気なテンポで処理していますので、いきなり暢気にテーマを吹奏されると拍子抜けするのが、本当のところだと思います。
 ところが、それにすっかり馴染んでいると思われたカーティス・フラーが、アドリブ・パートに入ると豹変して黒~いフレーズとノリを全開させます。
 リズム隊も強靭なジミー・メリットのベースを中心として、完全にゴスペル色に染まっているのですから、たまりません。後半はズート・シムスまでもが我を忘れる展開になるのでした。

B-1 One Note Samba
 ボサノバの代表的な曲を烈しいビートで演奏するあたりが、やはりハードバップ専門家の凄みでしょう。イノセントなボサノバ・ファンは、このリズム処理には激怒か、仰天でしょうねぇ……。
 しかし、ここでの演奏は熱く、別の意味で南米的な解釈になっています。カーティス・フラーは十八番のフレーズばかりで勝負していますし、いささかバタバタしているドラムスとベースを尻目に軽快なノリを披露するトミー・フラナガンも流石だと思います。

B-2 Wee Dot
 何と、これもトロンボーンの神様=J.J.ジョンソンが自作して十八番にしているブルースに、カーティス・フラーが果敢に挑戦という趣向です。
 ここでは初っ端から猛烈な勢いで演奏がスタートし、まずズート・シムスがドライブ感満点の荒っぽさ! 続くカーティス・フラーは、またまたモールス信号ですが、少しずつ難しいフレーズを繰り出していくという、いささかズルイ手を出しています。しかし憎めないんですねぇ~♪
 全体的に、如何にもハードバップというラフな演奏ですが、それでも乱れていないところはリズム隊の上手さに他なりません。そこを中心に聴いて正解だと思います。デイヴ・ベイリーの地味で堅実なスタイルが、逆に素晴らしいのです。
 もちろんトミー・フラナガンも熱演ですし、ジミー・メリットは大波の如し!

B-3 Autumn Leaves / 枯葉
 いきなりズート・シムスが悠然とテーマを吹奏、それに絡むカーティス・フラーが、また快感を生んでいます。おまけにサビではそれが逆転するという、またまた甘く切ない仕掛けがニクイところです。
 そしてアドリブ先発のズート・シムスが大名演! カーティス・フラーも負けじと本領発揮のハスキーな泣きを聞かせてくれます。
 う~ん、それにしてもこのアルバムは、完全に日本人が好きな曲・演奏ばかりだと思います。まさか当時、そんな事は意識していなかったのでしょうが、やはり怖ろしい偶然はあるものです。このアルバムによってジャズ地獄に引き込まれる人は、かなり多いのではないでしょうか……?
 で、ここでもリズム隊が好演で、ジミー・メリットが大技・小技の連発でアドリブ・ソロを披露すれば、トミー・フラナガンは絶妙のコードで味付けの勝負、さらにデイヴ・ベイリーは実直なスタイルの真髄を♪
 当にアルバムのラストを飾るに相応しい名演だと思います。なによりも気負っていないところが、素敵ですね。

ということで、これは名盤というよりも人気盤です。それは何よりも選曲が魅力ですし、また参加メンバーも充実しているのですから、これで演奏がつまらなかったら詐欺罪適用でしょう。

哀しいかな、後年、日本のレコード会社はこれを真似たような企画、つまりオールスターのメンツに人気曲を演奏させて売らんかな! という姿勢を見せました。それは確かに魅力的ですが、あまりにも自意識過剰な出来に、イノセントなジャズ者は抵抗をみせたのものです。

それがこのアルバムには感じられないと言うのは、私の思い込みに過ぎませんが、この楽しく陽気な雰囲気を、皆様にもぜひとも味わっていただきたいと思います。  

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2 コメント

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TBありがとうございます (67camper)
2006-05-19 22:19:10
OLD WAVEさん、TBありがとうございます。詳しい分析ですね。人気プレーヤー、人気曲、良いカバーデザインと3拍子そろったアルバムですよね。自分の方からもTBさせてもらいます。
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感謝 (サイケおやじ)
2006-05-20 12:06:28
67camper様

コメントありがとうございます。



曲とメンツに惑わされて買ってしまった盤は数知れませんが、これはアタリでした♪
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