OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

癒し系マリオン・ブラウン

2009-03-16 12:33:20 | Jazz

Vista / Marion Brown (Impules)

黒人アルトサックス奏者のマリオン・ブラウンは、例えばジョン・コルトレーンがデタラメに徹したとしか思えない「Ascdnsion (Impules!)」への参加、あるいはその後の欧州前衛派との共闘等々から、フリージャズの人と思われがちですが、実は美しいアルトサックスの音色が最高の魅力という癒し系かもしれません。

本日ご紹介のアルバムは、フュージョンが全盛期だった1975年に忽然と発表された局地的な人気盤ですが、我が国では前述したような思い込みが強かった所為でしょうか、ほとんど話題にもなりませんでした。

実はサイケおやじにしても、これを最初に聴いたのは、クロスオーバーに力を入れていた某ジャズ喫茶でしたが、それでも発売から1年以上は経過した頃です。

しかし、その内容の気持ち良さ、癒し度の高さに忽ち惹きつけられ、速攻でゲットして以降、愛聴盤となりました。

録音は1975年2月18&19日、メンバーはマリオン・ブラウン(as)、スタンリー・カウエル(p,el-p)、アンソー・デイビス(p,el-p)、ビル・ブレイノン(p,key)、レジー・ワークマン(b)、ジミー・ホップス(ds)、エド・ブラックウエル(ds)、Jose Goico(per)、アレン・マーフィ(vo) 等々が入り乱れですが、その詳しいバンド編成については、原盤裏ジャケットに詳細が明記されています。

A-1 Maimoun
 スタンリー・カウエルのオリジナル曲で、作者本人が静謐なピアノで雰囲気を醸し出し、続いて躍動的なレジー・ワークマンのペースがリードしていく心地良いビートのウネリ♪♪~♪ そして美しく心に染み入ってくるマリオン・ブラウンのアルトサックスが、癒しのメロディを奏でてくれます。また隠し味的なエレピと快楽的なパーカッションも良いですねぇ~♪
 それがアドリブパートではさらに深化して、アンソニー・デイビスのエレピが最高の気持ち良さですよっ! あぁ、このあたりのフィール・ソー・グッドな気分は、ボブ・ジェームスやハービー・ハンコックを凌駕していると思いますねぇ~♪ 何の衒いもないのですよ。
 しかし一転してレジー・ワークマンが主導するベース&打楽器のパートに入ると怖いものが滲んできたりして、やはり侮れません。

A-2 Visions
 そして前曲の怖いパートが自然に静謐なものへと変異転換し、いよいよ始まるのが、このスティーヴィー・ワンダーの名曲という、ちょっと脈絡の無い先入観もあるのですが、実際に聴いてみれば何の違和感もありません。
 アレン・マーフィの入れ込んだ歌唱に寄り添うマリオン・ブラウンのアルトサックスには、所謂スピリッチャルな響きも顕著ですが、イヤミはありません。またアンソニー・デイビスのピアノが、これまた美しいですねぇ~♪
 本当に蓮の花を眺めて癒されるような、素敵な演奏になっています。

A-3 Vista
 という気分をさらに深めてくれるのが、このアルバムタイトル曲です。やはりピアノやエレピで作りだされる静かなイントロから一転、躍動的なパーカッションにリードされていく演奏は、当時のサンタナ風味というのも嬉しく、マリオン・ブラウンのアルトサックスが心静かに情熱を滾らせていくという展開がニクイほどですよ♪♪~♪
 そして作者のアンソニー・デイビスが美メロを出しまくったピアノ、負けじと気持ち良さを提供するスタンリー・カウエルのエレピと続く素敵なアドリブ天国には、おもわず感涙のサイケおやじです。
 縁の下というより、すっかり目立ちまくりというレジー・ワークマンのペースも、幾分のスケールアウトというか音程の危なさが結果オーライでしょう。
 ここまでのLP片面の流れの見事さも素晴らしいかぎりだと思います。

B-1 Moment Of Truth
 B面に入っては、如何にもというアップテンポのクロスオーバー! つまりフュージョンというにはジャズっぽさが優先した演奏だと思います。ラテンのリズムとジャズのビートが上手く融合したノリは、ちょっと渡辺貞夫の味わいもありますが、マリオン・ブラウンは決して妥協することなく、かなり過激なフレーズも披露しています。
 しかしここでもアンソニー・デイビスのエレピが気持ち良すぎますよっ♪♪~♪ 楽しそうに蠢くレジー・ワークマンのペースも流石だと思います。
 あぁ、なんか大野雄二が作るような歌謡曲的なムードもあって、私は好きですねっ♪

B-2 Bismillahi 'Rrahmani' Raahim
 そして一転、またまたピアノやキーボード類が作る爽やかでミステリアスなムードの中を、マリオン・ブラウンのアルトサックスが美しさを演出していきます。この、こみあげくるような、実に神聖なメロディの素直な表現! まさにマリオン・ブラウンの真髄だと思います。
 ちなみに欧州時代のマリオン・ブラウンは環境音楽系のブライアン・イーノとも親交があったそうですから、さもありなん! 決してフリー&デタラメ派ではないのです。
 
B-3 Djinji
 こうして迎える大団円は、このアルバムの中では一番ジャズっぽいというか、厳かなイントロからグイノリのラテン系ジャズビート、さらにネクラな情熱と新主流派的な哀愁がゴッタ煮となった熱演です。
 ただしマリオン・ブラウン自身が、そうした展開に戸惑ったような雰囲気も感じられます。もちろん過激なフレーズも違和感無く出しているんですが、むしろそのあたりがバンド全体を迷い道に連れていくような……。
 ですから、ちょいと勿体ない仕上がりなんですが、アルバム全体の流れの締め括りには、これしか無いんでしょうかねぇ。登場する3人のピアニストが、それぞれに個性を聴かせようと奮闘するあたりはOKですよ。

ということで、聴かず嫌いの代表のようなアルバムかもしれませんね。

しかし虜になると欠かせない魅力の1枚であります! とにかく気持ち良いんですよっ!

と、力説すればするほど滑稽になるとは思いますが、こんな癒し系も「あり」ということです。

ちなみに制作発売レーベルは「Impules」ですが、ジャケットでのレベールロゴからは往年の「!」が消えています。そのあたりも意味深かもしれませんね。

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