

■バットマン c/w ナポレオン・ソロのテーマ / The Ventures (Dolton / Liberty / 東芝)
昨日書いたとおり、幼馴染みの急逝から故人についての諸々を回想すれば、とにかく子供の頃から海外ドラマ、つまり我が国で放送されていた殊更アメリカ制作のテレビドラマが大好きだった事が思い出されます。
もちろん、それは日本のテレビ局各社が自前の制作番組を充分に供給出来なかったという事情があったにせよ、その質的な充実度においても、アメリカからの輸入物には勝てないところがあり、例えば昭和30~40年代に少年期を過ごしたサイケおやじと同世代の皆様であれば、そこでは普通に見られるゴツイ車、大きなテレビや冷蔵庫、ソファーにベッド、イカシたファッション、さらには如何にも豪華で大盛りに思えた食べ物や甘~いお菓子等々がドラマの物語展開の面白さ共々、幼心に刷り込まれてしまったわけですが、それを醒めない夢と思い続けられるか否かは、やはり十人十色の感性でありましょう。
その点、故人は短過ぎるとしか思えない人生において、最期までそれに夢中だったという幸せがあったと思いますし、実際にサイケおやじは子供の頃からアメリカ産テレビドラマのあれやこれやを教えられ、蘊蓄を仕込まれては、尚更に楽しく物語を鑑賞する事が出来たと感謝する他はありません。
さて、そこで本日掲載したのは、ちょうどサイケおやじの少年期に我が国でも人気を集めた輸入テレビドラマのテーマ曲をカバーした、如何にも「いただき屋」の称号も懐かしいベンチャーズの人気カップリングシングルです。
なにしろA面が「バットマン / Batman theme」、そしてB面が「ナポレオン・ソロのテーマ / The Man From U.N.C.L.E.」であれば、そのワクワクドキドキ性感度の高さは説明不要と思いますが、両曲共にテレビバージョンの主題歌を如何にもベンチャーズらしく仕上げてあるわけで、それが世に出た1966年当時の流行というか、実はその頃に量産されていたスパイアクション系の映画やテレビドラマの関連テーマ曲ばかりを集めたLP「バットマン」から、日本独自でシングルカットされた1枚という事情は、それが我が国のテレビ放送でもウケていたからに他なりません。
ただし、だから言って、収録曲が所謂エレキギターにどっぷりのサウンドであろうはずもなく、それでも「ベンチャーズらしく」と書いたのは、その頃の担当プロデューサーであったジョー・サラシーノの深読みしたコマーシャル的な方法論とベンチャーズのメンバー各々、つまりはノーキー・エドワーズ(g)、ドン・ウィルソン(g)、ボブ・ボーグル(b)、メル・テイラー(ds) という全盛期の4人との意思の疎通があればこそ、女性コーラスやキーボード等々の他にもセッションプレイヤーの参加が公然の秘密(?)とされるアレンジ&演奏の妙を楽しめるというところ♪♪~♪
それがA面収録の「バットマン / Batman theme」では、基本がR&Rの典型的な構成の中、執拗な低音弾きによるギター&ベース主体の音作りと早いテンポを尚更に白熱させるドラムスの痛快さはベンチャーズサウンドのひとつの在り方ですし、だからこそ、些か存在感の薄いリードギターやちょっぴり腰が引けたようなキーボードが許容されるのかもしれません。
実はご存じのとおり、この「バットマン / Batman theme」はリアルタイムのアメリカでは競作バージョンが数多作られた中、マーケッツのバージョンが一番のシングルヒットになっていますので、聴き比べも興味津津!? 詳しくは皆様が聴いてのお楽しみとさせていただきます♪♪~♪
一方、B面ながら「ナポレオン・ソロのテーマ / The Man From U.N.C.L.E.」は、なかなかにエレキギターが主役というか、ベンチャーズならではのリズムギターやメロディフェイクの楽しさには中毒性がありますよ♪♪~♪ と同時にサウンドプロデュースの「細かい芸」も味わい深いと思います。
ちなみに日本盤シングルは昭和41(1966)年の発売だったんですが、件のテレビドラマ「バットマン」は同年にフジテレビで放送が開始され、また少年画報では「怪鳥人間」のタイトルでコミカライズの漫画連載もされていたと記憶していますし、「ナポオレン・ソロ」に関しては既に前(1965)年から日本テレビで放送されていたので、親しみ易さもありましたですねぇ~♪
もちろん両ドラマ共にシリアス&コミカルな要素があった事も、忘れられません。
ということで、昨夜は故人の通夜に列席し、様々な事を思い出してしまったんですが、それも諸行無常という、この世の真理の絶体であれば、安らかな冥福を祈るばかり……。
あの世でも、大勢のヒーローに逢って下さいね。
合掌。
■Caravan c/w Bulldog / The Ventures (Liberty / 東芝)
毎年、殊更この時期になるとエレキインスト物が聴きたくなるサイケおやじは、つまるところ昭和40(1965)年の師走に加山雄三主演の傑作映画「エレキの若大将」を鑑賞し、忽ちシビレまくった前科前歴があるからに他なりません。
もちろん、当時は日本中にエレキブームが蔓延拡大中でしたから、過言ではなく、ビートルズよりも人気が高かったベンチャーズの魔力にガンジガラメだった所為もあり、とにかくエレキの虜になっていたのは嘘偽りもありません。
ですからベンチャーズのレコードは何れも「聖典」であり、中でも本日掲載のシングル盤は極みの1枚として、その頃のサイケおやじが連日連夜聴き狂った愛聴盤でありました。
あぁ~、今でもこれを書いていて、思わず熱くなってしまうのは、まずA面の「Caravan」がロックをベースにラテンのリズムとジャズ系4ビートを混在両立させた名演である事は言わずもがな、モズライトを弾いては強烈なテクニック、例えばダブルノートのプリングオフやスピード感溢れる半音下降のスケール、さらには三連フレーズの端正な暴虐(?)等々、とにかくこれを完コピ出来れば、即プロは間違いなしとまで言われた華麗なギターがノーキー・エドワーズの真骨頂!
加えてメル・テイラーのモダンジャズも顔負けのスリリングなドラムス、激しいビートを提供するドン・ウィルソンのリズムギターとボブ・ボーグルのベースがあってこそ、これがベンチャーズならでは凄まじいロックグルーヴでありましょう。
実際、この「Caravan」はジャズの王様だったデューク・エリントン楽団の代表作として知られていたんですが、リアルタイムの我が国エレキバンドはプロアマを問わず、とにかくベンチャーズスタイルの同曲をやらねばならないという切迫感に苛まれていたほどの影響力があったんじゃ~ないでしょうか。
しかし、言うまでもなく、これは至難!
リードギターも当然ながら、リズムギターとベース&ドラムスのノリが合わないと、全く悲惨な結末は不可避の決定版ですからねぇ~~~。
ちなみにベンチャーズのスタジオ録音による「Caravan」は、この時点までに2バージョンあり、最初は1960年に発売されたデビューアルバムに収録された、これはリードを弾いているがノーキー・エドワーズかボブ・ボーグルか、ちょいと判然としませんが、それなりにジャズに傾きが感じられる落ち着いた仕上がりになっているのに対し、このシングル盤に収録されたのは1963年頃の録音にしてはド派手な大傑作♪♪~♪
これがロックのギターインスト、その完全証明として人類遺産は確定と思うばかりです。
また、B面収録ながら、これまた極みのロックインストになっているのが「Bulldog」で、オリジナルはファイアーボールズが1960年に大ヒットさせた曲ではありますが、翌年にカバーしたベンチャーズのこのバージョンこそが強烈無比!
もちろんここでもリズムギターを要とし、ベース&ドラムスで作り出すノリの物凄さは絶品ですから、リードギターが決して主役ではないという趣が所謂ベンチャーズサウンドの秘訣かもしれません。
そして、それがあるからこそ、ライブの現場においてノーキー・エドワーズが同曲で披露する例のブリッジ外奏法が冴えまくるのでしょう。
そのあたりの名演は、特に当時の日本公演から作られたライブアルバムや映画でも堪能出来る幸せの瞬間でもありますので、どうか皆様にも存分にお楽しみいただきとうございます。
ということで、ベンチャーズが唯一無二の存在として屹立しているのは、バンドとしての一体感というか、強靭なロックのグルーヴをバンド全体で放出発散させていたからだと!?!
これは実際にエレキバンド、あるいはロックバンドをやった皆様であれば共感していただけると思いますが、グループとしてのリズムやビートが纏まっていないと、幾らリードのパートを練習しても収まりが悪いのは必然ですし、逆にそれがある程度出来上がっていれば、ボーカルだろうが楽器演奏であろうが、リードのパートはそれなりにカッコがついてしまうんですよねぇ~。
ベンチャーズが基本、4ピースのバンドであるという真実に鑑みても、その大切さが伝わってくるものと確信している次第です。
最後になりましたが、掲載の私有盤に写るベンチャーズのステージにおける雄姿は、同時に手の届かない楽器や機材への憧れでもありました。
つまり少年時代のサイケおやじは学校での掃除の時間、箒でエレキのバカ大将だったというわけです。
■Stop Action / The Ventures (Liberty / 東芝)
今年もアッという間に6月に突入ですねぇ。
未曾有の大災害も全く先が見えない状況の中、時の流れは容赦なく、気がつけば夏が近づいてるのですから、様々な苦難が続く中にも、とにかく前を向いていくしかないと思います。
そこで本日は夏といえばベンチャーズということで、景気づけの意味も込め、大好きな1曲を鳴らしてみました。
もちろんこれはエレキインストならではの痛快なアップテンポのR&Rで、流石はノーキー・エドワーズ(g)、ドン・ウィルソン(g)、ボブ・ボーグル(b)、メル・テイラー(ds) という全盛期の4人組による共作曲とあって、バンドの纏まりも最高! 強烈なロックのビート&グルーヴが、僅か2分ちょいの演奏の中で濃密に凝縮されています。
特にシンプルなR&Rのリフとコード進行に基づく、実にテンションの高いリズムアプローチは素晴らしく、中でもドン・ウィルソンのリズムギターがあっての物凄さ! また完全な共犯関係というメル・テイラーの明快なドラミングと基本に忠実なボブ・ボーグルの潔いベースも存在感が強く、華やかなノーキー・エドワーズのリードギターが、実は乗せられているだけという真相もあるんじゃないか……? そんな不遜なことまで思うほどです。
またセッションミュージシャンによるオルガンの活躍も同様でしょう。
そうしたベンチャーズの特異性(?)は、なにも「Stop Action」だけに限ったことではなく、エレキインストという固有のジャンルに拘らなくとも、ロックバンドとしての本質を鋭く表現したに過ぎないでしょう。
しかし、その当たり前のことが非常に難しいんですねぇ。
毎度お決まりの告白として、サイケおやじは数次、この曲をバンドでやったこともありますが、どうしても纏まったノリが合わせられず……。
ちなみに高校の同好会に入れてもらった時、サイケおやじは初めて「バンド」という集合形態での練習を体験したわけですが、その場でもグループとしての纏まりを決めるためにリードやボーカルのパートよりは、バンド全員でリズムとビートを合わせることからスタートしましたですね。
つまり、リズムトラックを先に完成させるというか、それがある程度の形になってきたところで、いよいよリードやリフ、そして歌やコーラスを合わせるという練習過程は、ちょいとしたカルチャーショックでもありました。
ということで、バンドはリズムとビートの纏まりが肝要というのが本日の結論でした。
そこで我国の永田町の現状を鑑みれば、あまりにもリズム音痴でノリが悪い与党のだらしなさ、バラバラになって責任とか纏まりを自ら放棄している姿勢は情けない……。それでいて権力だけには固執する姿が見苦しばかりですよ。
そんな未熟な馬鹿集団にこそ、本日の「Stop Action」を捧げたいと思うのでした。
これを聴いて、前を向こうぜっ!
■Pops In Japan No,1 & 2 + 7 / The Ventures (東芝=CD)
人気グループの過去音源や人気盤の復刻に伴い、特にCD時代になって嬉しいプレゼントだったのが、所謂ボーナストラックの存在だと思います。そして本日ご紹介のCDについても、発売されたのは既に10年ほど前ですが、サイケおやじは全く、それに魅了されてゲットしたもののひとつです。
内容はご存じ、エレキインストでは大御所のベンチャーズが、その全盛期にタイトルどおり、我国の歌謡ポップスを演じてくれたベストセラー盤の復刻なんですが、既に述べたようにオマケが侮れません。
☆Pops In Japan
01 ブルー・シャトウ (A-1)
02 恋のハレルヤ (A-2)
03 涙のギター (A-3)
04 別れた人と (A-4)
05 東京ナイト (A-5)
06 夕陽が沈む (A-6)
07 北国の青い空 (B-1)
08 この手のひらに愛を (B-2)
09 霧雨の歩道 (B-3)
10 横浜の灯は遠く (B-4)
11 ブラック・サンド・ビーチ (B-5)
12 銀色の道 (B-6)
以上は昭和42(1967)年6月に発売された、日本制作による名演集です。
もちろん中身は当時のGSやフォークソングのヒット曲がメインであり、また同時に所謂Jポップのルーツにもあたる、なかなかお洒落なメロディばかりですが、加えてベンチャーズが特に書いてくれた所謂「ペンチャーズ歌謡」の自演もあるという大サービス♪♪~♪
言うまでもなくエレキインストを生業にしているベンチャーズは、名曲ヒットのカパー演奏が得意技であり、ギターアンサンブルと最高のロックビートを上手く融合させたアレンジ、そして痛快なバンドスタイルは他を寄せつけない唯一無二の魅力として、忽ち世界中を熱狂をさせましたが、特に我国では社会現象となるほどの影響力がありました。
ですから、それがGSブームに直結したことを思えば、ここでブルーコメッツの「ブルー・シャトウ」や黛ジュンの「恋のハレルヤ」をカパーしているのは至極当然です。そしてこのアルバムとほとんど同時に発売され、奥村チヨの歌で大ヒットした「北国の青い空」、そのシングル盤B面に収録され、後には山内賢&和泉雅子のデュエットでも歌われた「東京ナイト」の本家バージョンが演じられているのも、また必然でした。
さらにお目当てなのが、寺内タケシが十八番の持ちネタ大ヒット「涙のギター」のベンチャーズバージョン! 加えて加山雄三がベンチャーズとの共演を想定して書いたという「ブラック・サンド・ビーチ」も、オリジナルよりはエグイ味わいの名演として楽しめますよ。サイド&リズムギターが、実に素晴らしいんですねぇ~♪
現実的なベンチャーズの人気は、本国アメリカでは下降線をたどっていた時期ですが、ドン・ウィルソン(g)、ボブ・ボーグル(b,g)、ノーキー・エドワーズ(g,b)、そしてメル・テイラー(ds) という最強の4人組が演じてくれる「ニッポンのポップス」は、やはり一味違います! ここでは適宜、キーボード等々も加えたアレンジが妙に媚びることなく、これまでと同様のベンチャーズサウンドを構築しているのも嬉しいかぎり♪♪~♪
ただし、リアルタイムの当時から言われていたことですが、最先端のロックファンからは軽視されてしかるべき企画という側面は確かにあると思います。しかし、実際に大ベストセラーとして今日まで我国で親しまれ、海外のファンからも熱い支持を得ていることは、決して忘れてはならないと思います。
☆Pops In Japan No.2
13 いとしのマックス (A-1)
14 小指の思い出 (A-2)
15 霧のかなたに (A-3)
16 恋 (A-4)
17 マリアの泉 (A-5)
18 あの人 (A-6)
19 真っ赤な太陽 (B-1)
20 青空のある限り (B-2)
21 輝く星 (B-3)
22 風が泣いている (B-4)
23 北国の二人 (B-5)
24 ボンベイ・ダック (B-6)
前作の大好評に応えて翌年に制作・発売された「第二集」は、またまた魅力あるヒット曲ばかり♪♪~♪ 些かの試行錯誤もあった前セッションのアレンジから、グッとキマった演奏の流れは冴えわたりです。
特に荒木一郎が畢生のエレキ歌謡としてヒットさせた「いとしのマックス」は、個人的にベンチャーズの名演百選へ入れたいほど大好きですし、気になる「真っ赤な太陽」もストレートな味わいが高得点♪♪~♪
また随所に演目の「元ネタばらし」ともいうべきアレンジやオカズを配置しているあたりには、思わずニヤリ♪♪~♪ あえて、いちいち書きませんが、これは本当に楽しいですよ。
ちなみに「ボンベイ・ダック」はメイド・イン・ジャパンのインスト傑作曲で、書いたのはジャズ評論家の本多俊夫ですが、イギリスのシャドウズを筆頭に世界各国のインストグループから愛好されています。
それとワイルドワンズのヒット曲から「青空のある限り」と、そのシングル盤のB面だった「あの人」が演じられているあたりは、やはり東芝なんでしょうかねぇ。いやはやなんともです。
☆ボーナストラック
25 上を向いて歩こう
26 二人の銀座
27 君といつまでも
28 夜空の星
29 夕陽は赤く
30 京都慕情
31 君といつまでも (コーラス入りバージョン)
以上はシングル盤オンリーの発売やオムニバス盤に収録されていたレアトラックですが、なんといってもサイケおやじのお目当ては、オーラスの「君といつまでも (コーラス入りバージョン)」で、ほとんど、これ1曲のために、このCDを買ったといって過言ではありません。基本的にはトラック「27」と極めて近いテイクなんですが、ミックスの雰囲気も含めて、なかなかハートウォームで、しかも「せつない」度数がアップしている隠れ名演だと思います。
ということで、私の拙い文章が虚しくなるほど素敵なメロディが溢れている名演ばかりです。ただしCD化のリマスターの所為でしょうか、音が良くなりすぎて、些かの隙間が感じられるミックスが、個人的には違和感……。と言うよりも、アナログ盤に親しみすぎた贅沢な弊害でしょうね。
そしてこの大ヒットアルバムを出し、また歌謡曲ヒットにも手を貸したベンチャーズは以降、同一路線を大切にした第二の全盛期を迎えています。ただしそこにはノーキー・エドワーズが脱退するという現実もありますから、最強メンバー末期の演奏が楽しめるという意味でも貴重だと思います。
昭和の我国喫茶店には、この2枚のアルバムをBGMにしているところが普通に存在していました。やはり日本の文化史においてもベンチャーズは偉大です。しかし何よりも、グッと惹きつけられる音楽を気負わずにやってくれたことに、嬉しくなるばかりです。
■10番街の殺人 / The Ventures (Liberty / 東芝)
ベンチャーズのオリジナルメンバー、ボブ・ボーグルの訃報に接しました。
ご存じのようにベンチャーズといえば「テケテケ」と云われるほど、我が国では音楽面のみならず、社会文化にも大きな影響を与えた偉大なエレキバンドですが、そのスタートはボブ・ボーグルとドン・ウィルソンの2人によるギターバンドとして、1959年にデビューしています。もちろん当時でも、ちゃんとドラムスやベースも入ったロックバンド形態だったのですが、レギュラーがなかなか固定していなかったのです。
そこへノーキー・エドワーズが加入したのが1960年のことで、ついに2作目のシングル「Walk Don't Run (Dolton)」が大ヒットして人気バンドになったのが、アメリカでの結成当初の顛末です。
そして当時のドラマーには一応はハウイ・ジョンソンが入り、1963年頃までに多くのヒットシングル&アルバムを作り出していたのが、アメリカでの全盛期でした。ただしこの時期のバンドメンバーはドン&ボブ以外は決してレギュラーではなく、ノーキー・エドワーズにしてもベース奏者としてベンチャーズに参加したのが初期の真相ですし、スタジオレコーディングでは多くのセッションミュージシャンが起用されていました。
しかし、それでもベンチャーズが現役として人気を失わなかったのは、巡業における実演ライブが凄かったからに他なりません。1963年頃にはノーキー・エドワーズ(g,b)、ドン・ウィルソン(g,vo)、ボブ・ボーグル(b,g)、メル・テイラー(ds) という黄金の4人組が勢揃いし、まさにライブバンドとしての全盛期を築くのです。
こうして昭和40(1965)年1月、ベンチャーズが来日公演を行い、日本中にエレキブームを到来させるのですが、実はこれが初来日ではなく、1962年5月にドン&ボブの2人組ベンチャーズが来日したことになっています。しかし当然ながらブームになることもなく、サイケおやじにしても、それがどのような公演だったのかは知りません。
ところが昭和40年は凄かったです!
まず1月の公演は確かアストロノウツとのジョイントだったと記憶しているのですが、既に前年には、そのアストロノウツが「太陽の彼方に」のサーファンインストをエレキで大ヒットさせていましたし、ビートルズのブームもジワジワと実感をもって迫っていた時期のタイミングはジャストミート! 満員の会場ではメンバーも恐れるほどの暴動騒ぎがあったと、当時のマスコミが大袈裟に報道したのも、火に油の宣伝となりましたし、この時の新宿厚生年金会館でのライブレコーディングが「ベンチャーズ・イン・ジャパン (東芝)」という決定的な名盤アルバムとしてLP化され、当時だけで50万枚以上の大ベストセラーになるのです。
なにしろ当時、電蓄プレイヤーさえ持っていなかった叔父さんが、その頃でも決して安く無かった千八百円のこのLPを買い、我が家のステレオでギンギンに鳴らしまくったのですから、少年時代のサイケおやじもハナからケツまでシビレましたですねぇ~♪
そして同時に我が国青少年が目覚めたのが、自分でエレキを弾く、バンドをやるということです。これはもう、あの映画の「エレキの若大将(東宝)」でもご覧になれるとおり、テレビでは勝ち抜きのエレキ合戦が放送され、また楽器屋主催のコンテストや学生バンドのライブが毎週土日には恒例でした。もちろんプロのバンドも、例えば寺内タケシとブルージーンズやシャープファイブ等々が驚異的な大ブレイク! これが後のGSブームに直結していくのです。
その原動力となったベンチャーズの魅力は、何といってもバンドが一丸となったロックのグルーヴの物凄さです。これは断言しても後悔しないのですが、ビートとリズムのニュアンスやイントネーションが4人のバンドメンバーでがっちり纏まっているのですねぇ~。そして微妙にツッコミ気味のメル・テイラーのドラムスにノセられるように突進して作り上げていくロックンロールの壮絶感が、見事にエレキで増幅されているという感じでしょうか。
ノーキー・エドワーズのアンタッチャブルな神業リードギターは言わずもがな、十八番の「テケテケ」と強烈なビートを刻むドン・ウィルソンのサイドギターも凄いのですが、今になって気がつくのは、ボブ・ボーグルのペースが完全に8ビートを弾いていることです。しかも映像を見てわかるのですが、当時の他のペース奏者と決定的に違うのは、高いポジションでビートが強いフレーズを弾いてることです。これは本来、ボブ・ボーグルがギタリストだった個性の表れかもしれませんし、それゆえにドライブしまくったハードなフィーリングがベンチャーズだけの凄いロックを聴かせてくれたのだと思います。
このあたりは同年7月の3度目の来日公演で、完全に日本人を狂喜乱舞させた大ブームとなり、そこから作られた映画「ザ・ベンチャーズ '66 スペシャル~愛すべき音の侵略者達(松竹富士)」にはっきりと記録されています。現在はDVD化もされていますから、ぜひともご覧くださいませ! 物凄いライブ演奏はもちろんのこと、当時のエレキブーム真っ只中の日本、そしてロック全盛期の日本が懐かしくも楽しめます。
エレキは不良!? なんて、かんけーねぇ!
当然ながら人気も、当時はビートルズを凌駕していたんですよっ!
さて、本日ご紹介のシングル盤はその頃に発売された、全盛期ベンチャーズの人気曲のひとつです。そしてサイケおやじにしても、初めて買ったベンチャーズのレコードが、これでした。原曲は古いミュージカルの中のメロディなんですが、それを痛快なロックビートとドライヴの効いたエレキサウンドでインスト化した極みつき! モズライトの高出力エレキギターを活かしたナチュラルな歪み効果に加え、各種最新エフェクトも適宜使いながら、例えばサックスを不思議な音に作り替えた間奏を入れるなど、工夫が凝らされています。
つまり幸せなことに、我が国のファンはリアルタイムで全盛期を迎えていたベンチャーズに感化されたんですねぇ~。当時のアメリカではシングルヒットはイマイチの時期でしたが、それでも売れていたアルバム制作は実に意欲的でしたから、全くの必然!
ちなみに、この曲をライブで演奏する時はシンプルなギターロックになっていますが、それがまた、こたえられないという魔力が、前述した映画「愛すべき音の侵略者達」でも尚更に楽しめますよ。
ということで、今となっては「テケテケ」の出稼ぎバンド、なんていうふうにしか感じてもらえないベンチャーズかもしれませんが、このグループが来日しなければ、我が国の文化風俗は絶対に違ったものになっていたと確信しています。
またメンバーチェンジも度々行われた長い歴史のバンドにあって、創設者の2人がいる限り、例えどんな曲を演奏しようとも、確固たるベンチャーズサウンドの本質は普遍でした。それは特にポブ・ボーグルのペースワークに秘訣があったように、今は思っています。
ボブ・ボーグルよ、やすらかに……。
そしてベンチャーズ、永遠なれ!