FOOTBALL LIFE

~サッカーを中心に日々の雑感など~

『グッドナイト&グッドラック』

2006年05月23日 | Weblog
2005年/93分/アメリカ/白黒映画。第2次世界大戦後、米ソは対立を深め冷戦時代に入った。ソ連の脅威に対する恐怖心から、国を守るという名の下に急速に世論は反共主義に傾き、マッカーシー議員の赤狩り旋風が吹き荒れた。職場を追われた人は数千人に上ったという中でCBSのニュースキャスター、エド・マローがその番組の中でマッカーシー批判を行った。信念を貫き、歴史を変えた実在のキャスターの戦いを描いた映画。

マロー(デヴィッド・ストラザーン)はデトロイトの地方紙に載っていた小さな記事に目をつける。家族が共産主義と疑われ、除隊処分にされかけているという話。真相は誰にもわからないのに解雇されなければならないのかと番組の中で訴える。経営陣もスポンサーもひるみ、番組の広告代金はマローとプロデューサーのフレンドリー(ジョージ・クルーにー)が払っていた。

対決を前に番組スタッフはコミュニストと付き合いがあるものはいるかと問われる。その中の一人が妻の母親が共産党大会に行ったことをいい、自分は(迷惑をかけるから)この番組を降りるという。1954年、3月9日。アメリカの報道史に伝説として語り継がれる番組が放送される。「アメリカは国内の自由をないがしろにしたままで、世界における自由の旗手となることは出来ない」という言葉で締めくくる。

1954年4月6日、マッカーシーが反論に出る。その翌週、マローはマッカーシーにどのように攻撃されたとしても、真実を報道されるのは意義があると語った。上院はマッカーシーを公聴会に召還するとの声明を発表する。流れは確実に変わっていた・・・

1958年10月、マローは報道番組制作者協会のパーティの壇上でスピーチをする。「・・・もし、私の意見がまちがっていたとしても、失うものはなにもない。もしテレビが娯楽と逃避のためだけの道具なら、もともと何の価値もない。テレビは人間を教育し、啓発し、情熱を与える可能性を秘めている。だが、それはあくまでも使い手の自覚次第だ。そうでなければ、テレビはメカの詰まった”ただの箱”だ。グッドナイト&グッドラック(いつも番組の最後を締めくくる言葉)」

ジョージ・クルーにーは父親が地方局のニュースキャスターをしていたそうだ。自身も大学でジャーナリズムを学んでいる。「お金の為に作る映画じゃない。僕はこの映画をどうしても撮りたかった。それができなかったら自分が70歳になったとき、一体何を残したといえるだろう。」イラク戦争の前に、現代のマローがいたらという思いがあったのかもしれない。

この映画を海の向こうのアメリカという国の話、しかも何十年も前の出来事と思って見る向きには、ただタバコの煙が充満する娯楽性の足りない映画に過ぎないが、ここで描かれているのは今の日本のテレビ報道のあり方に一石を投ずる内容でもある。報道こそテレビ局の良心が問われる看板番組でなければならないと主張している。

先の選挙で郵政民営化一本に戦いが絞られ、それに賛成か反対かで色分けしてしまった責任が報道側にないとはいえないと思う。その掛け声に乗せられてしまった選挙民の問題というものがあるにせよー。TVの視聴率を上げるような政治家があらわれ、激しく攻撃する対象に、日ごろのうっぷんを乗せるような形で大衆があおられたらー。

マローは仲間の密告(ジェームス・ディーンを世に送り出した名作「エデンの東」の監督をしたエリア・カザンもこのとき仲間を売ったとして、後の作品で主演するマーロン・ブランドに非難されている。またロバート・デ・ニーロ主演のたしか『真実の瞬間』という題名の映画でもこのレッド・パージにあったが、抵抗するハリウッドの人間を描いていた)という手段で大衆の恐怖心を形にし、しかもその内容を公にもせず社会的に抹殺してしまう、という中世の魔女裁判のようなやり方に立ち向かっていった。

大衆に中にうっ積した恐怖心や不安をあおって一つの攻撃対象に向ける、というマッカーシーのレッド・パージは昨日の出来事ではない(イラク戦争へ突入していった過程がまさにそうだった。その後正気を取り戻したメディアは、次々と開始した理由の不当性を暴いていき、政権の支持率が大幅に下がっている。)と見る側に警鐘を鳴らし、報道の作り手も受け取る視聴者も、流れにうかうかと乗る怖さを冷水を浴びるように感じる必要があると訴えている映画。

ハリウッド映画人の中にもこんな気骨のある人間がいたのかと、失礼ながらにやけた感じのハリウッドスターに見えたジョージ・クルーニーにはすっかり脱帽だ。マロー役のデヴィッド・ストラザーンはこの役が乗り移ったかのような迫力がある。厳しくストイックなマローそのものになりきっている表情が魅力的で素晴らしい。










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