5月2日(水):
350ページ 所要時間6:10 死蔵書(第23刷 1996年)
著者53歳(1941生まれ)。オランダ。
まず、本書を高いお金で買っておきながら長年にわたって「怪しい、大したことのない本だ」と斜に構えて読まずに来たことの不明を恥じる。原則1ページ30秒読みでは、全く歯が立たないことは認めた上で敢えて言う。「こんなにすごい本だとは思はなかった!。内容の詳細を述べる力はないが、
本書がたまにしか出会えない<本質的に重要な本>であることだけははっきりわかった。
また、著者の日本社会・歴史への造詣は相当に深く、かつ正確である。しっかりとした知識・情報の基盤の上に本書は構築されていることは受け合える。
要点の一つは、
日本が説明責任(アカウンタビリティ)を果たさない官僚独裁の国家であり、様々な問題の根源にそれがあるということ。読み進むにつれて、四半世紀前に55年体制が崩れた直後に著された所であるにも関わらず、全く内容が古びていないことに気づかされる。
日本社会が持つ根本的問題が、なんら解決されていないどころか、むしろ当時よりも後退しているのではないか。特に、説明責任を果たさない官僚独裁に、世襲化の進行するチンピラ政治屋グループによる官僚の人事権掌握が重なって、今のアベ・アソウ政権で問題がこじれにこじれて国家・政府の体をなしていないことの事情がよく見えてくる。
市民社会の一員として、当時の日本人ができていなかったことが、今もできていないことを思い知らされるとともに、本書の中で著者が、我々に市民社会を再構築するために提示した方法論が、今もって本質的に有効な方法であることがわかる。
国益とは「誰にとって?」の議論をはじめ、本書の内容は多岐にわたり、大変豊富であるが、それぞれの視角・視点が意表を突き、新鮮である。十分に読みこなせていないのに、不遜かもしれないが、
本書は「古典」として扱われるべきテキストだと言える。少なくとも俺は本書によって、現在の日本の状況を観る目が広がったと言える。できれば、再読したい。
ほんの一部だけ紹介すると、
・
政治的議論の焦点を、真に重要な事項から遠くずらされることで、市民社会は弱体化する。日本の場合、政治家のあいだにはびこる「金権政治」にばかり焦点が当てられることで、はるかに緊急で重要な問題である「説明する責任」を果たさない官僚制のことが、人々の関心から遠のいてしまった。この関心のずらしが日本の社会を弱体化させている。略。政治的に有効な市民社会は民主主義に不可欠の基盤である。国政に民の声をできるかぎり正確に反映させるため、市民社会は絶対に必要なのだ。市民社会がなかったら、民主制は特定の利益集団に乗っ取られてしまう――現に日本の民主が大企業と官僚の連合体に乗っ取られてしまったように。296~297ページ
・
日本の市民社会の悲劇は、乗っ取られたことであった。市民社会が反映する見込みは、独立した労働組合がつぶされ、戦後の短期間はひとり立ちしていた司法機関が官僚の支配下に再編されたとき、すでに大きく損なわれていた。しかし、日本の市民社会を最終的に乗っ取ったのは大新聞であった。大新聞は、批判的な政治分析を邪魔だてし、官僚の権力を盛り立て、世論を反映するよりむしろ捏造し、巨大な偽りのリアリティを掲げることによって、この乗っ取りをおこなったのである。300ページ
【目次】第1部 よい人生を阻むもの :偽りのリアリティ/巨大な生産マシーン/麻痺した社会の犠牲者たち/官僚独裁主義 // 第2部 日本の悲劇的使命 :日本の奇妙な現状 /バブルの真犯人 /不確実性の到来 // 第3部 日本はみずからを救えるか? :個人の持つ力 /思想との戦い /制度との戦い /恐怖の報酬 /成熟の報酬
【内容紹介】
*『菊と刀』に匹敵する名著と評され、官僚批判の火付け役となった『日本/権力構造の謎』につづき、本書では「政治化された社会」等の新概念で日本のリアリティーにさらに深く斬り込む。本書は日本の読者に向けて書き下ろされたオリジナルである。 / *官僚批判の火付け役となった「日本/権力構造の謎」につづき、本書では「政治化された社会」等の新概念で日本のリアリティーにさらに深く斬り込む。