9月7日(土):
209ページ 所要時間 4:45 ブックオフ105円
著者52歳(1944生まれ)。宇宙物理学者。本書で講談社出版文化賞科学出版賞(現・講談社科学出版賞)を受賞。ブックオフで買った本は2009年版で第22刷りである。売れてるのだ!
2回目。前回は2011.11.16.で評価4。最近、文科系の本ばかり読んでいて、バランスが悪いと思っていたので、本書を再読することにした。今回は、ブックオフで買っておいた本なので、ページの耳を折り、鉛筆で線を引きながら読んだ。
しんどかった。きつい読書だ。読む速度を上げられない上に、理数系に関わる部分は、なかなか理解できない。
しかし、読んでいて不愉快ではなかった。良識の書である。著者は、現代(当時20世紀末)を科学にとって大きな変動期として捉え、科学者としての倫理観について、半ばため息をつきながら、熱弁する。<人間の顔をした科学者>である。福島原発事故の後、我々の前に湧いて出てきた東大・東工大系の<顔の無い>原子力学者たちとは対極にいる。
「現代の科学をめぐる課題の答えは、既にすべて本書中に書かれている!」今後、本書を<座右の書>として、耳折ページや線を引いた箇所を中心に読み直すつもりだ。それだけの価値がある。
17年前の著作だが、ヒトゲノム解析の終了やiPS細胞の発見などごく一部を除いて、本書の内容は全く古くなっていない。「科学の考え方・学び方」だけでなく、現実の世界や日本の科学・技術の現状から見ても90%以上!の内容が現役の発信力を持っている。
実際、福島原発事故(事件?)・放射能汚染水流出問題をはじめ、大飯原発活断層問題、東南海・南海地震問題他、科学技術をめぐる様々な問題に対する正しい見方・考え方を十分な信頼性とともに持たせてくれる。俺は今後、本書の内容に沿って科学の問題を考えていこうと思っている。
「科学者の責任と倫理」では、
「地震予知学会」の詭弁を批判し、防災にこそ力を注ぐべき、と説く。高速増殖炉もんじゅ事故の関係者の秘密主義への強い批判。子孫に押し付ける最大の「借金」を原発から出る大量の放射性廃棄物と批判。薬害エイズ問題で製薬会社に協力し資金援助を受ける科学者を、水俣病と同じだと非難。オウム真理教を引き起こした理系学生を特別視せず、現在の理科系教育の最大の問題点として一般化する視点。etc
.著者は、科学技術や科学者たちの社会との関わり方に厳しい目を注ぎ、科学のあるべき姿は、市民社会に対して常に開かれ、市民の理解を得つつ、市民とともに歩むべきである、と説く。同じ内容のことを、社会学者らが言えば当り前だが、当時大阪大学教授で気鋭の科学者自身が、科学・科学者と社会の関係の歪みを厳しく批判したことに値打ちがある。
*科学者は、何もかもわかっている人間なのではなく、「「現在、何がわかっていて、何がわかっていないか」を最もよくわかっている人間」なのです。略。だからこそ、「何がわかっていないかを正直に話すこと」が、科学者の責任なのだ。104ページ
*科学にかかわることで「絶対」はないのです。私たちは、まだ自然現象の一部分しか理解しておらず、未知の部分があるかぎり、「絶対安全などと「絶対に」言えないはずです。「わからない」と正直に語る科学者の方が、「わかっている」と得意げに語る科学者より信頼できるのです。166ページ。
東京電力福島第1原発の汚染水漏れ問題が海外メディアに取り上げられる中、IOC総会で安倍晋三首相は「(福島第1原発の)状況はコントロールされている。東京にダメージが与えられることは決してない」と説明したが、IOC委員からは「東京に影響がないという根拠はなにか」と質問が出た。これに対し、首相は「汚染水は港湾内で完全にブロックされている。抜本解決のプログラムを私が決定し、着手している」と答えた。(毎日新聞)安倍総理は、科学に<絶対>が無いということがわかっていない!
*科学者の倫理をまとめておくと、真理に忠実であること、虚偽や秘密主義を排除すること、科学の限界を語ること、何のための(誰のための)科学かを常に意識すること、科学をより広い観点からとらえること、そして科学の結果や影響を想像力でとらえること、などでしょう。それ自身は、決して難しくないのですが、ある立場に立ったり、ある状況に置かれると、守れなくなることが多いようです。その場合の最も重要な点は、やはり「自分は、真実に忠実であるか」を問い直すことではないでしょうか。私は、そのような倫理を身につけた。君たち若い出現を強く願っています。173ページ
※前回のブログ
74冊目 池内了「科学の考え方・学び方」(岩波ジュニア新書;1996年) 評価4 2011年11月17日 04時02分07秒 | 一日一冊読書開始
11月16日(水):
209ページ 所要時間2:40 図書館
図書館でふと手にした15年前の科学啓蒙書。著者は52歳。テキスト。良書だった。全くちんぷんかんぷんという訳ではないが、眺め読みで内容を十分に理解することは無理だ。手の届かない部分も含めて、ゆっくり線を引いて読みたくなったが、公共物だし、時間も無いので諦めた。気になる部分に付箋をつけたところ、本がハリネズミのようになった。目次:はじめに/一私にとっての科学:私が科学者になった理由。研究の仕事とその魅力。/二科学の考え方:科学の出発点。科学研究の進め方。/三科学はどのように生まれたのか:最初の科学。中世の「科学」。「科学革命」の時代。/四現代科学と科学者を考える:現代科学の到達点。現代の科学の特徴。現代科学が不得手な問題。科学・技術・社会の問題。科学者の責任と倫理。/五 二一世紀の科学と人間:地球環境問題。新しい科学技術と私たち。/六未来を担う君たちへ ※三の「科学史」は楽しい。「1週間が7日」はBC1800年のバビロニア人の宇宙観。ギリシア人の優秀さ!。デカルトの演繹論。ベーコンの帰納的推論と実証主義。数学が科学の言語。 ※四と五での、「何が分かっていないかを正直に話すこと」が科学者の責任であり、不可能な地震予知を研究費のために可能な如きに言う地震研究者を激しく指弾する。著者は科学研究に対してあくまで謙虚であり、未来への責任の重さへの畏怖と倫理の重大さを強く説く。 ※15年前の記述内容はややレトロだが、さすがに15年後の現在を見通す目の確かさも評価されるべきだと思った。どうも俺は、この著者に好ましい印象を持っているようだ。
209ページ 所要時間 4:45 ブックオフ105円
著者52歳(1944生まれ)。宇宙物理学者。本書で講談社出版文化賞科学出版賞(現・講談社科学出版賞)を受賞。ブックオフで買った本は2009年版で第22刷りである。売れてるのだ!
2回目。前回は2011.11.16.で評価4。最近、文科系の本ばかり読んでいて、バランスが悪いと思っていたので、本書を再読することにした。今回は、ブックオフで買っておいた本なので、ページの耳を折り、鉛筆で線を引きながら読んだ。
しんどかった。きつい読書だ。読む速度を上げられない上に、理数系に関わる部分は、なかなか理解できない。
しかし、読んでいて不愉快ではなかった。良識の書である。著者は、現代(当時20世紀末)を科学にとって大きな変動期として捉え、科学者としての倫理観について、半ばため息をつきながら、熱弁する。<人間の顔をした科学者>である。福島原発事故の後、我々の前に湧いて出てきた東大・東工大系の<顔の無い>原子力学者たちとは対極にいる。
「現代の科学をめぐる課題の答えは、既にすべて本書中に書かれている!」今後、本書を<座右の書>として、耳折ページや線を引いた箇所を中心に読み直すつもりだ。それだけの価値がある。
17年前の著作だが、ヒトゲノム解析の終了やiPS細胞の発見などごく一部を除いて、本書の内容は全く古くなっていない。「科学の考え方・学び方」だけでなく、現実の世界や日本の科学・技術の現状から見ても90%以上!の内容が現役の発信力を持っている。
実際、福島原発事故(事件?)・放射能汚染水流出問題をはじめ、大飯原発活断層問題、東南海・南海地震問題他、科学技術をめぐる様々な問題に対する正しい見方・考え方を十分な信頼性とともに持たせてくれる。俺は今後、本書の内容に沿って科学の問題を考えていこうと思っている。
「科学者の責任と倫理」では、
「地震予知学会」の詭弁を批判し、防災にこそ力を注ぐべき、と説く。高速増殖炉もんじゅ事故の関係者の秘密主義への強い批判。子孫に押し付ける最大の「借金」を原発から出る大量の放射性廃棄物と批判。薬害エイズ問題で製薬会社に協力し資金援助を受ける科学者を、水俣病と同じだと非難。オウム真理教を引き起こした理系学生を特別視せず、現在の理科系教育の最大の問題点として一般化する視点。etc
.著者は、科学技術や科学者たちの社会との関わり方に厳しい目を注ぎ、科学のあるべき姿は、市民社会に対して常に開かれ、市民の理解を得つつ、市民とともに歩むべきである、と説く。同じ内容のことを、社会学者らが言えば当り前だが、当時大阪大学教授で気鋭の科学者自身が、科学・科学者と社会の関係の歪みを厳しく批判したことに値打ちがある。
*科学者は、何もかもわかっている人間なのではなく、「「現在、何がわかっていて、何がわかっていないか」を最もよくわかっている人間」なのです。略。だからこそ、「何がわかっていないかを正直に話すこと」が、科学者の責任なのだ。104ページ
*科学にかかわることで「絶対」はないのです。私たちは、まだ自然現象の一部分しか理解しておらず、未知の部分があるかぎり、「絶対安全などと「絶対に」言えないはずです。「わからない」と正直に語る科学者の方が、「わかっている」と得意げに語る科学者より信頼できるのです。166ページ。
東京電力福島第1原発の汚染水漏れ問題が海外メディアに取り上げられる中、IOC総会で安倍晋三首相は「(福島第1原発の)状況はコントロールされている。東京にダメージが与えられることは決してない」と説明したが、IOC委員からは「東京に影響がないという根拠はなにか」と質問が出た。これに対し、首相は「汚染水は港湾内で完全にブロックされている。抜本解決のプログラムを私が決定し、着手している」と答えた。(毎日新聞)安倍総理は、科学に<絶対>が無いということがわかっていない!
*科学者の倫理をまとめておくと、真理に忠実であること、虚偽や秘密主義を排除すること、科学の限界を語ること、何のための(誰のための)科学かを常に意識すること、科学をより広い観点からとらえること、そして科学の結果や影響を想像力でとらえること、などでしょう。それ自身は、決して難しくないのですが、ある立場に立ったり、ある状況に置かれると、守れなくなることが多いようです。その場合の最も重要な点は、やはり「自分は、真実に忠実であるか」を問い直すことではないでしょうか。私は、そのような倫理を身につけた。君たち若い出現を強く願っています。173ページ
※前回のブログ
74冊目 池内了「科学の考え方・学び方」(岩波ジュニア新書;1996年) 評価4 2011年11月17日 04時02分07秒 | 一日一冊読書開始
11月16日(水):
209ページ 所要時間2:40 図書館
図書館でふと手にした15年前の科学啓蒙書。著者は52歳。テキスト。良書だった。全くちんぷんかんぷんという訳ではないが、眺め読みで内容を十分に理解することは無理だ。手の届かない部分も含めて、ゆっくり線を引いて読みたくなったが、公共物だし、時間も無いので諦めた。気になる部分に付箋をつけたところ、本がハリネズミのようになった。目次:はじめに/一私にとっての科学:私が科学者になった理由。研究の仕事とその魅力。/二科学の考え方:科学の出発点。科学研究の進め方。/三科学はどのように生まれたのか:最初の科学。中世の「科学」。「科学革命」の時代。/四現代科学と科学者を考える:現代科学の到達点。現代の科学の特徴。現代科学が不得手な問題。科学・技術・社会の問題。科学者の責任と倫理。/五 二一世紀の科学と人間:地球環境問題。新しい科学技術と私たち。/六未来を担う君たちへ ※三の「科学史」は楽しい。「1週間が7日」はBC1800年のバビロニア人の宇宙観。ギリシア人の優秀さ!。デカルトの演繹論。ベーコンの帰納的推論と実証主義。数学が科学の言語。 ※四と五での、「何が分かっていないかを正直に話すこと」が科学者の責任であり、不可能な地震予知を研究費のために可能な如きに言う地震研究者を激しく指弾する。著者は科学研究に対してあくまで謙虚であり、未来への責任の重さへの畏怖と倫理の重大さを強く説く。 ※15年前の記述内容はややレトロだが、さすがに15年後の現在を見通す目の確かさも評価されるべきだと思った。どうも俺は、この著者に好ましい印象を持っているようだ。