もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

8 008 国谷裕子「キャスターという仕事」(岩波新書:2017)感想5

2018年09月20日 00時38分47秒 | 一日一冊読書開始
9月19日(水):  

256ページ      所要時間3:05      ブックオフ108円

著者60歳?(1957生まれ?)。大阪府生まれ.1979年,米国ブラウン大学卒業.1981年,NHK総合〈7時のニュース〉英語放送の翻訳・アナウンスを担当.1987年からキャスターとしてNHK・BS〈ワールドニュース〉〈世界を読む〉などの番組を担当.1993年から2016年までNHK総合〈クローズアップ現代〉のキャスターを務める.1998年放送ウーマン賞'97,2002年菊池寛賞(国谷裕子と「クローズアップ現代」制作スタッフ),2011年日本記者クラブ賞,2016年ギャラクシー賞特別賞を受賞.

著者は、NHKの良識ともいうべき「クローズアップ現代」のキャスターを23年間続け、使命感と職業倫理に殉じた結果、意に反する契約解除となった。先日、ブックオフで見つけ、迷わず買った。

1993年~2016年の23年間は、俺の人生と重なっている。いつもではないが、何か大きな出来事があった時には必ず録画したりして参考にし続けてきた番組である。非常に重要な時代の証言者>による番組の<回顧と展望と言える。著者を退職に追いやった現在の状況を含めて、今後の”展望”はあまり良くない。

眺め読みで、なかなか細かい内容をしっかりと抑えるというところまではいかなかったが、素直に「こういう人だったんだ」とご本人に出会ったような気分になれた。「非常に聡明で良識的なのは勿論のこと、事にあたって恐れることなく筋を通して、いま一歩を強く踏み出すことのできる人だったんだ」と思えた。それだけ感じられただけでも読んだ甲斐が十分にあった!

著者はキャスターという仕事に対して非常に強い心意気をもって取り組んできた。そして、筋を通して貫いた結果、NHKとの契約解除、キャスター退職となった。変節したのはNHKであり、日本の社会状況である。その意味では、時代の座標軸たりうる存在でもある。

23年間、3784本の番組を一冊の本で振り返ることは無理であり、タイトルだけでも触れられたのがわずかに80本程度に過ぎなかった。「終章」と「あとがき」だけでも読む価値が十分にある。

番組を担当した四半世紀近くの間に、何が一番変化したのか。それは経済が最優先になり、人がコストを減らす対象とされる用になったこと。そして、一人ひとりが社会の動きに翻弄されやすく、自分が望む人生を歩めないかもしれないという不安を早くから抱き、自らの存在を弱く小さな存在と捉えるようになってしまったのではないかと思っていた。略。一人ひとりの個性が大切だと言いながら、組織の管理強化によって、社会全体に「不寛容な空気」が浸透していったのではないだろうか。<クローズアップ現代>がスタートしたころと比べて、テレビ報道に対しても不寛容な空気がじわじわと浸透するのをはっきりと感じていた。(231~232ページ)

NHKは従来一つの番組の中でバランスをとる、公平を担保するというのではなく、番組の編成全体の中で公平性を確保する、としてきた。個々のニュースや番組の中で異なる見解を常に並列的に提示するのではなく、NHKの放送全体で多角的な意見を視聴者に伝えていく、というスタンスだった。/略。/ここ二、三年、自分が理解していたニュースや報道番組での公平公正のあり方に対して今までとは異なる風が吹いてきていることを感じた。その風を受けてNHK内の空気にも変化が起きてきたように思う。(236~237ページ)

【目次】第1章 ハルバースタムの警告 :スクープ930/ニュースとNHKスペシャルとの間で/ハルバースタムの警告/言葉の持つ力/テレビ報道,3つの危うさ/風向きの原則
第2章 自分へのリベンジ :英語放送からのスタート/駆け出し時代/「伝えること」の出発点/ジャーナリズムへの入り口/誰も観ていないテレビ/大学か,それとも仕事か/挫折/なりたい自分が見えた/時代の現場に立つ/歴史が私を押し出した/試練のインタビュー/リベンジの時
第3章 クローズアップ現代 :この人,大丈夫なの?/私の役割は何?/初めての政治家インタビュー/時代の変化に背中を押されて/初めての震災報道
第4章 キャスターの役割 :キャスターとは何者か/クローズアップ現代の構成/キャスターの役割=視聴者と取材者の橋渡し役/キャスターの役割=自分の言葉で語る/キャスターの役割=言葉探し/細分化する言葉
第5章 試写という戦場 :クローズアップ現代が放送されるまで/2回の全体試写/真剣勝負/キャスターとして発言する/それは本当に必要ですか?/一番伝えたいことは何ですか?/「時間軸」からの視点/最後のバトンを受けて走り切る
第6章 前説とゲストトーク :「熱」を伝える/言葉の力と怖さ/フェアであること/キャスターとしての視点/生放送へのこだわり/「俺は帰る」/対話の空気をそのままに/見えないことを語る/あともう一問
第7章 インタビューの仕事 :インタビューへの興味/「聞く」と「聴く」/失敗するインタビューとは/17秒の沈黙/準備した資料を捨てるとき/聞くべきことを聞く/しつこく聞く/それでも聞くべきことは聞く/額に浮かんだ汗
第8章 問い続けること :アメリカのジャーナリズムとテッド・コペル/「言葉の力」を学ぶ/「同調圧力」のなかで/インタビューに対する「風圧」/失礼な質問/フェアなインタビュー/残り30秒での「しかし」/言葉によって問い続けていくこと
第9章 失った信頼 :「出家詐欺」報道をめぐって/問われるべきこと/「編集」の持つ怖さ/もう一つの指摘/壊れやすい放送の自律
第10章 変わりゆく時代のなかで :海外からの視点/進まない中東和平/逆戻りする世界/二人のゲスト/派遣村の衝撃/しっぽが頭を振りまわしている/「暗いつぶやき」を求めて/東日本大震災/原発事故報道/ある医師の声/伝え続けること
終章 クローズアップ現代の23年を終えて :新しいテーマとの出会い/誰一人取り残さない/年末の降板言い渡し/危機的な日本の中で生きる若者たちに八か条/再びハルバースタムの警告を
あとがき


【内容紹介】今という時代を映す鏡でありたい──.従来のニュース番組とは一線を画し,日本のジャーナリズムに新しい風を吹き込んだ〈クローズアップ現代〉.番組スタッフたちの熱き思いとともに,真摯に,そして果敢に,自分の言葉で世に問いかけ続けてきたキャスターが,23年にわたる挑戦の日々を語る。

読者のみなさんへ  国谷裕子番組を離れて10か月が経ち,〈クローズアップ現代〉に自分なりの区切りをつけたいと思いました.私には,次に向かって進むために,番組とともに過ごしてきた時間を整理することが必要だったのです.番組との出会いと別れ.キャスターの仕事とは何かと悩んだ日々.記憶に残るインタビューの数々.そしてテレビの報道番組が抱える難しさと危うさ.偶然のようにしてキャスターになり,大きな挫折も経験し,そのことへのリベンジとしてキャスターをやめられなくなった私.番組を制作する人々の熱い思いに突き動かされながら,様々な問いを出し続けてきました.この本は,言葉の力を信じて,キャスターという仕事とは何かを模索してきた旅の記録です.

【雑誌記事】「クロ現」と共に歩んだ40代から支持を集め8万部。国谷裕子さん初の著書
1993年4月から2016年3月までの23年間、硬派な情報番組として多くの視聴者に愛されてきたNHKの〈クローズアップ現代〉。その番組の顔として活躍してきた著者が、キャリアの一区切りという意識で書き上げた新書が、順調に売れ行きを伸ばしている。番組に抜擢される前の挫折、放送開始後の悪戦苦闘、阪神・淡路大震災や9・11テロといった大事件と向き合った記憶……自らの波乱万丈のキャリアを、番組の制作事情や時代背景と重ね合わせつつ振り返る筆致は冷静だが、ぐいぐいと読者を引き込んで行く。
 「本書は国谷さんの初めての著書なのですが、まるでそうは思えない書きぶりでした。お書きになる文章に思いというか、熱がすごく宿っていたんです。ですから編集する上では、文章に手を入れすぎず、国谷さんらしさを活かすことを心がけました。目次だてもほぼ国谷さんからご提案いただいたものそのままです」(担当編集者の永沼浩一さん)
 新書の読者は一般的に50代の男性が中心だという。しかし本書の読者層は違う。
 「読者の比率は6対4で女性の方が多いです。年齢層は幅広いですが、中心となっているのは40代。〈クロ現〉の放送が始まったころちょうど社会人になった世代が手に取っている感触があります。そうした方々には、国谷さんと一緒に歩んできたという意識があるのかもしれませんね」(永沼さん)
 評者:前田 久  (週刊文春 2017.06.15号掲載)
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