9月14日(水):
198ページ 所要時間6:00 ブックオフ105円
著者61歳(1946生まれ)。埼玉県生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。大阪市立大学助教授、東京大学助教授などを経て、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。専攻は財政学。人が平等に生きられる社会のための財政という立場に立ち、公共サービスを切り捨てようとする「財政改革」を批判する。
二度目。俺の主観だが、本書は
”専門書としての機能を備えた普及版の名著・テキスト”と言って過言でない
レア本である!。本書の印象は、
歯が立たないのに無類に面白い好著!の一語に尽きる。特に前半では、「財政」に関する専門用語の定義、概念が頭に残らなくて往生した。というか、実際一週間以上投げ出していた。しかし、これは著者のせいではなく、そもそも「財政」という政治的営為の専門的知識が普及していないことにある。そんな中で、著者は精一杯わかりやすい解説を試みているのだが、俺の頭の悪さもあって、著者の説明の意を感知できなかったせいである。
だが、一方で、半ばを過ぎてくると、専門用語の解説も一通り終えて、「財政」をめぐる話が俄かに具体性を帯び始める。すると、これが「ウーム、なるほど!、そうであったか!」の連続で何かしらぐいぐいとリアル「財政」談義に引き込まれていくようになった。お金の話は、やっぱりオモテも・ウラも面白い!
国債と地方債は全く違うものである。国債で破産した国は存在しないが、地方債は外国債と同じで破産するので洒落にならない。市町村債より都道府県債の方が不自由であるなど、なかなか普通では耳にできないし、耳にしたとしても理解できないはずの面白い話題が出し惜しみなくどんどん出てくるので本当に面白かった。
「財政」という視点を通すと家族のミクロから、日本や世界のマクロに至るまで何やら違った風景に見えたり、あいまいだった輪郭がはっきりした気がして面白かった。まだ全然不十分な理解ではあるが、政治・経済、社会を観ていく上で
「財政」という効果的な”補助線”を新しく獲得できたような気分である。
あと、読者に対する著者の語り口が温かく熱を帯びていて、専門の「財政」を通して日本社会をよくしていきたいという思いが良く伝わってきたのもよかった。
【目次】1 財政って何だろう : 「財政」ということば/江戸時代に共同の財布はあったか/財政が成り立つ条件/など
2 予算って何だろう : 予算は一つでなければならない/決算はかならず黒字になる/予算編成のしくみ/など
3 税はどんなしくみになっているのだろう : 租税を成立させる三要素/なぜ税を課することができるのか/複税制度/など
4 どんなところにお金を使っているのだろう : 戦前の使い道・戦後の使い道/何を買っているのだろう/ニーズとウォンツ/など
5 借金はどうなっているのだろう : 財政は家計に近い/誰から借金をしているのだろう/国の借金と自治体の借金/など
6 国と自治体の関係 : 補完性の原理/財政の決定権をもたない自治体/機関委任事務/など
7 いま財政がかかえる問題 : 社会的危機と財政の関係/格差社会をもたらしているもの/など
8 財政の未来像をえがく : 地域で共同の意思決定をする/財政を民主主義の手にゆだねる/など
【内容情報】
自治体の財政赤字がふくらみ、国の借金も世界最高になっている。なぜ、赤字になったり、借金が増えるのだろう?国や自治体の予算はどのように決まるのだろう?税金の体系はどうなっているのだろう?それらの疑問に答えながら、財政のしくみと今かかえている問題を解説し、地域のニーズを実現する財政のあり方を考える。
【岩波書店の内容紹介】
財政って何をしているのだろう?――この疑問から,1章ははじまります.あなたはどう答えますか.
編集を担当したぼくは,年金を払ったり,公共事業をしていると答えました.これはまちがいではありませんが,一般会計予算の経費別分類グラフをつくってみると,驚きました.トップが社会保障関係費で26%,これはなかなかいいぞと思いました.ところが,2位はなんと国債費.つまり,国債という借金の返済に24%も使っていたのです.
恥ずかしいのですが,自分の住んでいる市の予算規模も,何にお金を使っているのかも知りません.知らないということは,国の政策がどうか,自治体の政策がどうか,ほとんど評価できないと同じですね.もっと知らなくてはいけないと思いました.
著者の神野先生は言います.社会の中に市場原理では動かない,家族のようなしくみがあるから,誰でも生きていけるのだ.財政は,そんな住民の基本的な生活基盤を保障するものだ.そして,財政を決めるのは,国民であり住民である私たち一人一人なのだ,と.
いまのままだと,なんでも市場に委ねてしまえばいいのだという方向で,公共サービスは縮小の一途を辿りそうです.そんな強きを助け,弱きをくじく社会になっていいのでしょうか.この本で,財政のしくみ,財政が果たすべき役割を知り,社会のあり方を考えていただきたいと思います.