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山本周五郎短編「白石城死守」は白石城を上杉軍の猛攻から死守する武士と武士の妻の生き様の話

2019年04月26日 | 斜読

book487 白石城死守 山本周五郎 講談社文庫 2018    

 2019年4月、宮城の花見に出かける計画を立てた。東日本大震災の復興はまだまだ時間と経費がかかる。被災県を訪ね、年金暮らしに見あった散財をする花見である。福島は2015年4月に会津、三春の桜を堪能した。今年は宮城の花見候補をwebで調べ、仙台藩伊達家の支城だった白石城の桜と一目千本桜に狙いを絞った。白石城を舞台にした本を探し、この本を見つけた。

 山本周五郎(1903-1967)の本は20代に「樅ノは残った(1958)」を読んだ。仙台藩伊達家のお家騒動が主題で、武士の壮絶な生き様が描かれていた。続けて周五郎の本を数冊読んだ記憶がある。20代のころを思い出しながら、久しぶりの周五郎を読むことにした。
 「白石城の死守」には「与茂七の帰藩(1940)」「白石城死守(1943)」「豪傑ばやり(1940)」「矢押の樋(1941)」「菊屋敷(1945)」の中短編が収められている。

 「白石城死守」は、秀吉没後の石田三成と徳川家康の勢力争いが背景になる。家康軍は北の脅威である会津征伐に動き出す。呼応して伊達政宗がかつては自領でいまや上杉軍の最前線となっている白石城を落とし、片倉影綱を城主に置く。
 会津藩上杉景勝は石田三成と手を結んでいて、三成軍が家康の居城だった伏見城を落とす。家康軍が江戸を留守にして京に向かえば、その隙に上杉軍が白石城を奪還し、伊達軍を足止めしたうえで、江戸への進撃をうかがう作戦のようだ。
 家康は伊達政宗に白石城から撤退し、岩手沢に伊達軍を集結させ、上杉軍が江戸へ動いたら追撃する作戦をたてた。そこで、伊達政宗に家康から白石城撤退の密命が来る。
 ここから物語が始まる。伊達政宗は本軍を岩見沢に、白石城主片倉影綱は軍勢を引き連れ17里離れた北目城に待機し、白石城には浜田治部介以下51人が籠城する。
 この本では触れていないが、縄張図を見ると白石城はまわりを沼と堀で囲み、高台を本丸とし、本丸に三階櫓、巽櫓、未申櫓を配置し、大手門に枡形を設けていたようだ。
 伊達軍撤退後、危険を察知した町民が逃げ出し、ほどなく総勢2000の上杉軍の攻撃が始まる。浜田治部介は反撃せず、死を覚悟した最終決戦を待つ。
 ・・・上杉軍の猛攻が始まるなか、北目から戦況の偵察のため一人が走ってきたが、銃撃を受け倒れる。なんと治部介の妻奈保だった。治部介は武士の妻らしく死を賭した働きの奈保を猿滑の樹の下に埋める、といった展開である。
 武士の生き様、武士の妻の生き様が描かれている。
 復元された白石城(写真は復元された三階櫓=天守)を見学し片倉家の説明は見たが、浜田治部介・奈保については触れていなかった。治部介・奈保は周五郎の創作らしい。

 「与茂七の帰藩」の舞台は彦根藩になる。かつて野牛とあだ名された斉藤与茂七という武士がいた。手がつけられないほど乱暴だったので江戸に出されていた・・この話は中段に語られる・・。冒頭は、与茂七のいないあいだに彦根藩士400石に婿入りした金吾三郎兵衛で、白い虎と呼ばれるほど粗暴だった話から始まる。
 江戸から戻った与茂七に三郎兵衛が試合を挑む。肩を怒らせ、おごり高ぶった三郎兵衛を見た与茂七は試合をせず立ち去る。
 ・・・三郎兵衛は妻と離縁してまで与茂七に戦いを挑もうとする。与茂七は江戸で柳生の秘手を会得していて、三郎兵衛は身動きができない。与茂七は三郎兵衛を組み敷き、・・心おごった様はかつての自分の姿だった・・自分では分からなかったが三郎兵衛を見て眼が覚めた・・と語る。現代にも通じる人生訓の話である。

 「笠折半九郎」の舞台は紀伊藩、300石の半九郎と250石の小次郎の若い武士が主役である。仲が良かった二人だが、些細なことで果たし合いをすることになる。ところが城外の出火が強風で燃え広がる。半九郎は火を浴びながらも宝庫から宝物を運び出し、17人の番士とともに櫓への延焼を食い止めた。  藩主頼宣は防火をねぎらい、番士たちに恩賞を与えたが、半九郎には防火の働きへのねぎらいも恩賞もなかった。
 ・・・ひがみ込んでいる半九郎を小次郎が励まそうとするが、些細なことで果たし合いが再燃する。果たし合いの場に、藩主頼宣が現れ、半九郎に命を冒して宝を守ったことはあっぱれだ、しかし、城は焼けても再び建てることができるが、死んだ人間は呼び戻せない、もしその働きを賞賛し恩賞を与えたら、家臣は防げぬ火災でももっと危険を冒すようになる、と真意を明かす。これも人生訓である。

 「豪傑ばやり」は奥州三春城を舞台にし、浪人を主人公にした人生訓、「矢押の樋」は羽前・向田藩を舞台にし、命を賭して農民と藩を救う侍の生き様、「菊屋敷」は松本藩に舞台を移し、健気に生きる儒官の娘の心模様を描いている。
 周五郎らしさにあふれた中短編だった。(
2019.4)

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