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内田氏著「明日香の皇子」は奈良を舞台にアスカノミコをめぐる奇想な活劇

2019年12月14日 | 斜読

book502 明日香の皇子 内田康夫 角川文庫 1986    (斜読・日本の作家一覧)
 2019年3月に奈良を歩いた。奈良の予習復習で、3月に内田康夫著「平城山を越えた女」(book485)を読んだ。
 内田氏の奈良を舞台にした「明日香の皇子」は11月に読んだ。内田氏は史実の考証、現地での検証を踏まえた物語なのでいつも新たな知見に接することができ、物語の舞台に出かけたくなる魅力を感じる。
 「明日香の皇子」は、「うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山を弟世とわが見む」がキーワードになっている。物語に現実離れした展開が織り込まれているが、新たな知見は揺るぎない。

プロローグ 
 昭和16年、東シナ海を飛行中の旅客機がエンジン不調に陥ったとき、陸軍中将今村均の神がかった判断で命拾いする話から始まる。今村を神のように信じた副官が紀一族の末裔である紀乃本で、今村は紀乃本に戦後、大和葛城の二上山にある大津皇子の墓を訪ねれば「次の者」に会える、その者の力になるのが君の宿命である、と不思議な話をする。
 このプロローグが奇想的な展開の伏線になっている。

第1章 失踪
 
物語は現代に飛ぶ。主人公の村久紘道24才は大東広告に務める副部長代理で、日本橋に本社を置く大企業のエイブルックタイヤ50周年キャンペーン・イベントプランで坂元本部長からほめられる。・・大東広告はコネがないと入社しにくいにもかかわらず、たった一人の家族である姉の春日のすすめで志願したら特別扱いされたようで採用となった、・・のちに入社する服部が村久に親しく接してくる、などなど奇想的な展開の伏線が織り込まれる。
 村久と結婚を誓った恋人が代々木上原のマンションに住む大東広告経理部の能美恵津子24才で、物語にはほとんど登場しないが隠れたキーパーソンである。村久は恵津子の描いた2枚のテンペラ画の1枚を預かり、新宿のマンションの部屋に飾る。
 恵津子は村久に急ぎの電話をしたあと行方が分からなくなる。
 村久に恵津子の伝言を報せようとした男が村久の目の前で刺し殺される。村久がこの男を抱き起こすと「アスカノミコ・・」と言い残し、息を引き取る。・・警察の調べで被害者はエイブルック社員の河西直吉と分かる、・・殺人事件のニュースの前に武蔵野環状線が報道される、武蔵野環状線は第4章で詳しく語られ、疑獄事件に発展するが、「明日香の皇子」とは直接かかわらない。
 第1章に伏線が散りばめられるが、まだ話が見えてこない。

第2章 「エイブルック」の秘密
  坂元本部長の車に同乗した村久は、坂元から「・・国家に対して何を為し得るかを自分に問いかけ、そこから得た答えを実行するのでなければ、国民たるの資格はない・・」と諭され、感激する。
 村久は、奈良の考古学博物館に勤める姉の春日に電話し「アスカノミコ」は明日香の皇子のヒントを聞く。
 エイブルック社の根岸義男が突然、村久のマンションを訪ねてくる。数日後、マンションに泥棒が入る。盗まれ物はないか調べているうち、村久は恵津子から預かったテンペラ画の下に隠された写真を見つける。
 写真は第2次大戦中、30才ぐらいの日本兵2人が5人を惨殺した光景だった。・・村久は、泥棒は根岸の仕業で、狙いはこの写真ではないかと推測する。
 村久は同僚で写真部の北田にこの写真の複製を依頼する。・・その後、北田は写真の人物が分かったと言い残したあと行方不明になる。・・やがて、北田の惨殺死体が隅田川・両国橋で見つかる。
 村久は恵津子のマンションに出かけ、もう一枚のテンペラ画の下から「宇都曾見乃 人尒有吾哉 従明日香 二上山越 弟世登吾将見  在飛鳥宮神坐下」と書かれた紙を見つける。
 村久は、河西殺人事件を担当している上野署の宮本警部から、エイブルックは創始者の能美喜三郎にちなむ社名で、恵津子は喜三郎の孫にあたる、と教えられる。
 ・・エイブルック40年史をひもといた村久は、写真に写っていた日本兵がエイブルック現会長・菊野秋雄であることに気づく。・・のちほどもう一人の日本兵が総裁候補の河島耕造であること、写真を撮っているのが能美喜三郎であることが分かってくる。
  物語のあらすじが少しずつ浮き彫りになるが、点と点が結びつかない。「アスカノミコ」も謎のままであり、美津子の行方も気になる。内田氏は読者をハラハラさせる展開が絶妙である。

第3章 動き出した渦
  前後の話は飛ばす。奈良の姉を訪ねた村久は「宇都曾見乃・・・・」の解釈を聞き、国土地理院発行二万五千分の一「畝傍山」の地図に記された「柿本神社」を訪ね、二上山が見えるのこと確認する。
第4章 武蔵野環状線
第5章 もう一つの飛鳥
 
村久は服部から、奈良の柿本神社の紀僧正像が紀一族の直系子孫である紀乃本とそっくりであり、紀乃本は「アスカノミコ」の再来を信じていて坂元も服部も、能美喜三郎も「アスカノミコ」再来の信奉者であり、喜三郎がアスカノミコ再来に備えて巨額の資金を隠匿したことを知らされる。
 ようやく物語の筋書きが見えてきた。テンペラ画の1枚はエイブルック現会長菊野、総裁候補河西の悪行を明るみに出し、もう1枚は巨額の資金の在りかを示すようで、そのため美津子は誘拐され、二人が殺されてしまった。
 だが、まだ明日香の皇子の謎が残る。物語ではテンペラ画に隠された秘密を奪おうとする敵が迫ってくる。
 村久は美津子を救い出し、敵を倒して巨額の資金を見つけることができるか、アスカノミコは再来するのか、・・あとは読んでのお楽しみに。
第6章 救出
第7章 大和しうるはし
エピローグ

 奇想的な話を差し引いても、忘れかけた奈良時代の歴史の舞台である明日香、飛鳥は濃密な空間であることを改めて感じた。
 内田氏は単なる歴史を舞台にした物語とせず、戦時下に行われた悪行、政財界の癒着なども盛り込み、社会を直視し、何を為し得るか自らに問いかけることも訴えている。内田氏の生き方なのであろう。(
2019.11)

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