book456 暗殺者の反撃 上・下 マーク・グリーニー 早川書房 2016 (斜読・海外の作家一覧) マーク・グリーニ著2009年「暗殺者グレイマン」、2010年「暗殺者の正義」、2011年「暗殺者の鎮魂」、2013年「暗殺者の復讐」の日本語版を読んだ。世界各地で紛争、テロ、難民が絶えない。莫大な資金力と強力な武力による弱い者の制覇、対立する思想の武力衝突やテロは現実に起きているから、グレイマンがかかわる裏社会が現実味を帯びて感じられる。
通称グレイマン、本名コートランド・ジェントリーは元CIA特殊活動部に所属していたが、突然、目撃次第射殺命令が下され、CIAから命を狙われ出した。その理由はこれまでのシリーズでは明らかにされていない。ジェントリーは命令を忠実に果たしたのだから正当であり、ふるさとアメリカに帰りたいと願うが、CIAは所在を突き止め攻撃を繰り返し、その都度間一髪で生き延びてきた。
この本の原題はBlack Blastだが、訳者は「暗殺者の反撃」と題した。暗殺者シリーズはどれも訳題が分かりやすい。この本のタイトルからも、いよいよジェントリーが目撃次第射殺の命令を出した者に反撃を始める展開だろうと予想できる。・・いつの間にか暗殺者グレイマンの応援をしている自分に気づく・・。
プロローグにCIA国家秘密本部本部長デニー・カーマイケルが登場する。これまでのシリーズでCIAの目撃次第射殺が納得できなかったジェントリーは、本部長カーマイケルが謎を解く鍵と目星をつけ、警戒の網をくぐり秘密裏にアメリカに入国する。
カーマイケルがメリーランド州の屋敷でパーティを開いているとき、武装したCIAの警護班が駆けつけ、ジェントリーが迫っていることを知らせる。カーマイケルは戦々恐々としながら、ヘリコプターでヴァージニア州のCIA本部に戻り=逃げ込み、ヴァイオレーター離反者=ジェントリー対策グループを集める。
舞台が変わる・・こうした舞台転換がグレイマンシリーズをダイナミックにしている・・。カーマイケルの乗ったヘリコプターの真下のワシントンDCを、ジェントリーが誰にも気づかれずに歩いていた。 舞台がCIA本部に戻る。ジェントリー対策会議中、カーマイケルは衛星通信で、イスラエルのモサド長官オールバックと会談する。オールバックは、ジェントリーがイスラエル首相暗殺を阻止してくれたので・・「暗殺者の復讐」参照・・、幹部がジェントリーのヨーロッパ脱出に手を貸したことを告げる。
舞台はジェントリーに戻る。ジェントリーは金も武器もないので、麻薬密売所に巧妙に入り込み、激しい銃撃を受けながらも密売人たちを倒し、13000ドルを手に入れる・・麻薬は悪であり、悪を倒すのは躊躇しない、身を守る以外は殺戮をしない、これがジェントリーの信念である・・。
舞台が変わる。CIA・ジェントリー対策チーム戦術作戦センター指揮官に登用されたスーザンは、ジェントリーについての情報を集める。・・ジェントリーは、地上班のすぐれた資産150名のトップクラスで、CIA特殊活動部SADに属し独行工作員として活動、つづいて独行暗殺者となりゴルフ・シエラ・タスク・フォースに入り暗殺と犯人引き渡しチームの尖兵をつとめたこと、その後の目撃次第射殺を生き延びるためさらに技量を上げていることが分かる・・。
話を飛ばして、SAD部長マシュー・ハンリーはジェントリーの元上司にあたるが、カーマイケルとは折りが会わない。ゴルフ・シエラでのジェントリーの元上官がザック・ハイタワーで、ジェントリーはシエラ6と呼ばれた。この二人も重要な役割を果たす。
麻薬密売所での殺人事件の警察無線を傍受したカーマイケルは、ジェントリーの犯行と断定し、現場に急行する。ワシントンポスト紙首都担当のアンディ・ショールは、殺人事件にCIAが登場したことに不審を持ち、報道記者のキャサリン・キングに連絡する。キャサリンは、アンディから送られた写真でカーマイケルを確認し、事件性を確信する。のちにキャサリンがジェントリーの秘密解明を助ける。アンディは残念ながら殺される。
舞台はジェントリーへ。金を手に入れたジェントリーは貸家に隠れ、拳銃、車を調達する。話を飛ばして、ジェントリーは地上班ナンバーツーのクリス・トラヴァーズを捕らえ、抹殺指令のいきさつを聞き取る。クリスの話では、カーマイケルの部下の副本部長ジョーダン・メイズが浮かぶ。
話を戻して、カーマイケルとメイズは、かつてのジェントリーの上官で作戦をしくじったため追放したザック・ハイタワーを呼び戻す。ザックはかつてジェントリーになりすましてイスラエル首相暗殺を画策し、それをジェントリーが阻止し、二人とも大けがを負った仲である・・「暗殺者の復讐」。一方、カーマイケルとメイズは、統合特殊作戦コマンドJSOCにジェントリー狩りを指示する。
ところがカーマイケルは秘密裏にサウジアラビア総合情報統括部アメリカ支局長ムルキン・アル・カザスと会い、極秘にJSOCより、もちろん警察よりも先にジェントリーを殺すよう依頼する。後半になってCIA・カーマイケル、イスラエル・モサド、サウジアラビア・カザスのもつれた関係が明らかになり、ジェントリーを目撃次第射殺が白日になる。
カーマイケルは難攻不落の秘密基地に隠れる。ジェントリーはハンリーの寝室に侵入し、ハンリーからトリエステでのバックブラスト作戦でのミスによってカーマイケルが目撃次第射殺を命令したことを聞く。
カザスの部下がジェントリー殺戮で動き出す。JSOCもジェントリー刈りで動く。警察も動く。カーマイケルは難攻不落の秘密基地に逃げ込んでいる。ジェントリーの反撃はどう進むか。緊迫が連続し、ダイナミックな展開は読み手を離さない。あとは読んでのお楽しみに。(2018.1)
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