yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

「大坂侍」斜め読み2/2

2023年12月03日 | 斜読
斜読・日本の作家一覧>  book559 大坂侍 司馬遼太郎 講談社文庫 2005 2/2 

盗賊と間者
 摂津生まれの天満屋長兵衛は、盗賊はだれにも支配されずだれも支配しないと思い、盗賊を重ねていた。
 元治元年1864年6月5日、京三条の池田屋で長、土、因、肥、播、和、作州の志士30数名が新撰組+幕兵総勢500名に襲撃されことごとく捕殺され、京、大坂に非常警戒が布かれた。1年後の慶応元年1865年、長兵衛は京に出て来て、非常警戒で捕まってしまう。係の与力・田中松次郎は、長兵衛にお前の骨相はこうと誓えば心の動かぬ人相、泥棒ということで牢から出すが、罰として入牢していた清七の伯父代わりになって面倒をみるようにと言い渡す。
 長兵衛は佐渡八と名を変え、清七と京の七条堀川でうどん屋を開く。清七は18歳のおけいを連れて来る。佐渡八は、清七が新撰組・壬生屋敷を見はる間者と気づく。
 あとで、清七は長州藩士・当内十太郎であり、盟主・桂小五郎と田中松次郎は親交があり、おけいは田中松次郎の亡き弟の娘で清七の許嫁であることが分かる。
 新撰組局長・近藤勇は佐渡八に屯所でのうどん売りを許す。ほどなく、田中松次郎は勤王であることが露見して新撰組に斬られる。清七は耿々一片の氷心(俗っぽい欲望に汚されない清らかな心)といって、国家の大事のため許嫁の義父の仇討ちは小事と関心を示さない。佐渡八は泥棒らしい心意気、代わって小事のけりをつけようと思う。
 屯所でうどん屋を出していた清七は正体がばれ、つけられてしまう。佐渡八は清七とおけいを逃がした後、屋根伝いに逃げ、堀川に飛び込んで姿を隠す。慶応元年1865年8月、佐渡八は新撰組屯所になっていた西本願寺の太鼓番屋に忍び込み、近藤勇に武士に利用されているだけ、百姓に戻れと説教する。
 佐渡八が隠れ家に戻って数日後の夜、おけいが寺小姓に変装して現れる。おけいは清七から間者の真似をさせられ、露見して逃げてきた、佐渡八の人間らしいところが大好きというが、佐渡八は清七のところへ戻れと邪険にする。
 それから7年後の明治5年1872年、大阪高麗橋北詰でうどん屋天満屋長兵衛を開いていた佐渡八を、大阪府権参事として赴任してきた当内十太郎と家内のおけいが訪ねてくる。十太郎が席を外したすきに、おけいは佐渡八といっしょになりたかったとうらみごとを言うのを、佐渡八は仙人のような顔で聞き流す。
 そんな盗賊がいるとは思いにくいが、幕末~明治維新を舞台に大阪人長兵衛=佐渡八の心意気が輝く。


泥棒名人
 享保17年発兌の浪華下鏡が下敷きのようだ。
 江戸で名を知られた盗賊・江戸屋音二郎が、大阪でも名人ぶりを発揮していた。ある日、天満の海産物問屋に盗みに入ったが、真夏で風が無く暑苦しいため家人が寝付けず、夜明けが近づいたので盗みを諦め帰ろうとしたとき、目の前に盗賊・行者玄達が現れる。
 玄達は故郷に帰らねばならない、音二郎の持ち物のなかに故郷に持って帰りたい物があるのでくれと言うが、音二郎は盗賊なら盗めと応える。
 音二郎の住まいは、日本橋・毘沙門裏の撞木長屋で、表向きは信州真田の打ち紐を仕入れて京、大坂、堺で売り歩いている(=京、大阪、堺で盗み働き)。女房は、美人ではないが気丈なお蝶である。ある日、長屋の隣に易者・猿田彦天観堂が引っ越してきた。猿田彦は気前がよく、旅に出て戻ると長屋のみんなに土産を渡していた。その猿田彦こそ玄達である。
 音二郎はお蝶に、浪華の泥棒番付には音二郎は張出し大関で乗っている、横綱は玄達と話すと、お蝶は横綱には実力、人柄、貫禄というものがそなわっていると、音二郎をやり込める。そこへ玄達が顔を出し、音二郎の前でお蝶に音二郎の盗み働きの取り分といって半分の25両を渡す。音二郎が盗みを諦めた海産物問屋に先に忍び込んでいて、盗みを済ませたていたそうだ。
 玄達は音二郎に、財が欲しいという身の強欲があるから人の気配や天候などの動きが気になるが、わしは虚心、財が欲しいのではなく自然に体が動いて盗みが上手くいくと話す。反論しようとした音二郎に玄達が、名刀火切り国友を大坂城城代屋敷什器蔵から盗む仕合をを持ちかける。
 音二郎は苦も無く城に入り込み名刀火切り国友を盗み出し、翌朝、お蝶に自慢する。お蝶は名刀より日々の暮らしの金が欲しい、世帯のやりくりは女の役目とやり返す。
 音二郎は隣の玄達に仕合に勝った、と自慢しに行く。ところが玄達は音二郎より先に什器蔵に入り、国友を鈍刀とすり替え、目印を付けておき、音二郎が鈍刀を勘違いして盗んだ、と種明かしをする。
 玄達は、仕合に負けた音二郎に百両仕事を頼む。仕事を引き受けた音二郎は、黄檗寺の中庭の離れに忍び込み布団で顔を覆った女を縛って担ぎ上げ、玄達が用意した駕籠に乗せ、百両を受け取る。
 長屋に戻った音二郎はお蝶がいないので、玄達=猿田彦の部屋に行くと置き手紙があった。音二郎は、盗み出した女がお蝶だったことに気づいて、幕が下りる。
 途中に玄達の生い立ちが挿入される。大昔、役行者=小角が信貴山で修行中に鬼の夫婦=山賊をとらえ、熊野山塊に鬼の夫婦を住まわせ、熊野の仏地を守るように命じた。その子孫が山伏になり、千年のあいだに南鬼と北鬼の2軒になった。玄達は北鬼の総領だが嫁がいないので女を盗むことにし、お蝶に見定めたようだ。
 お蝶は暮らしを顧みない音二郎に見切りをつけ、玄達の実力、人柄、貫禄に乗り換えたようだ。幸せを祈る。


大坂侍
 この話は文中に登場する渡辺玄軒の子孫の渡辺家に伝わる明治元年2月の「日日金銭出納帳」を下敷きにしている。明治元年2月は官軍が大坂城に平和進駐した時でもある。
 大坂同心町お城長屋に住む鳥居弥兵衛は、三河以来の譜代の徳川の臣と幕府への忠誠心が強い。息子・又七は十石扶持の川同心でよく働き、腕も立ち威勢がいいが、優柔不断な欠点もある。
 又七の従兄弟の数馬は妹・衣絵の許嫁で、金で武士の身分を買い川同心十石扶持になっていた。又七の幼馴染みで使い走りをする極楽政は、大坂の武士は借金で身動きが取れない、いまや商工農士の世だという。
 話は変わって、大和屋源右衛門は吉野熊野の材木を川で運んで大坂で捌いていて、川同心又七は馴染みで、働きぶりに感心していた。
 源右衛門の娘・お勢が四天王寺境内で黒門組の遊び人4~5人にからまれたとき、又七が小さいときに剣術を習った渡辺玄軒が助けに入るが、玄軒は剣術の免許皆伝を金で買った剣術家なので、あっさり倒される。その場にいた又七は、北辰一刀流道場で鍛えていた腕前で、黒門組を殴り倒し、数人を池に投げ飛ばして、お勢を助ける。お勢は又七に一目惚れする。
 お勢の話を聞いた源右衛門は又七を商人にしたら儲かると言うと、お勢は又七を養子に迎えてと源右衛門に頼む。大坂娘は自分の恋のことには積極的である。源右衛門は金で万事が解決すると、渡辺玄軒、極楽政に50両で又七を婿入りさせる仲立ちを頼む。
 四天王寺境内で又七に負けた黒門組の遊び人が、天満の滝田町で道場を開く勤王天狗党の領主・天野玄蕃を用心棒に雇い、幽霊橋を渡っていた又七を襲う。又七は天野玄蕃をはね飛ばし、けりを入れるが、10人ほどの遊び人が又七に斬りかかろうとする。そこに黒門久兵衛が現れ、10両で喧嘩を買い取ったと遊び人をなだめる。
 10両は、又七の婿入りに源右衛門が用立てた50両のうちの10両だった。又七は侍の意地を通して婿入りを断るが、しばらくして、お勢が又七に大好きです、婿になってくれないなら死にますと訴えてきた。なりゆきで又七はお勢を抱いてしまう。
 妹・衣絵の許嫁である数馬は官軍の大坂城進駐を機に町人に戻り、官軍相手の商売を始めた。官軍隊長になっていた天野玄蕃が商売人・数馬見つけ、川同心で又七の従兄弟だから幕府の諜者に違いないと官軍詰め所に捕らえる。天野玄蕃の狙いは金で、数馬の父・善兵衛に300両で数馬を助けると言ってきた。
 又七は商人なら金で取り引きすればいいと話し、武士は採算を度外視し義のために戦うと衣絵に言い、お勢をおいて江戸に向かう。
 大阪を出る前に又七は天野玄蕃を一刀のもとに斬り、300両の内から100両を懐にして江戸行きの船に乗る。明治元年4月、又七は上野の彰義隊に入隊する。5月、上野の山は長州の大村益次郎率いる官軍に包囲され、洋式銃の一斉射撃を浴びる。彰義隊は壊滅し、又七は百姓の着物を買い、大坂の廻船問屋長左衛門の江戸店に逃げ込む。
 老番頭源七は、官軍にどっさり金を貸しているので店は安全、官軍の弾は廻船で運んだと話すのを聞いて、又七は大坂商人の底力に気づく。さらに見上げると、又七を次の船で追いかけてきたニコニコ顔のお勢がいて、幕になる。
 万事を金で勘定するのも合理的な解決法である。お勢のようにこうと決めたら自ら行動するのが大坂女のようだ。


 司馬氏は史実をもとに、入念な下調べをし、この本では大坂商人の心意気、大坂女性の自由で自発的な生き方に焦点をあて、司馬流筆裁きで小話をまとめている。長編は長編なりの重厚な物語にし、短編は短編なりのピリッとし、キリッとした話にまとめている。史実のおさらいにもなった。 
 (2023.11)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「大坂侍」斜め読み1/2 | トップ | 2023.2香川 ベネッセハウス... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

斜読」カテゴリの最新記事