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「バルト海の復讐」斜め読み2/2

2024年06月12日 | 斜読

斜読・日本の作家一覧>   book566 バルト海の復讐 田中芳樹 光文社 2004

 
第6章 主人公、謎の解明に挑むこと」 エリック、ザンナ、ギュンターはホゲ婆さんの家に着き、ホゲ婆さんに顛末を伝える。ホゲ婆さんはザンナに助手が欲しいと話し、エリック、ギュンターにグスマンの傭兵に備えるよう指示する。
 この時代、リトアニア産の琥珀は貴重で高価で、すべての琥珀の運搬をハンザ商人が担っていた。
 グスマンは9600マルクの金貨をエリックに見せ、エリックはその金貨の入った木箱を一本柱帆船の船長としてリトアニアに運び、金貨を渡して木箱に入った琥珀を受け取って戻ってくる途中で海に投げ込まれ、琥珀横領の罪を着せられたことになる。金貨も琥珀もエリックの目を盗んでブルーノたちが石ころにすり替えたようだ。
 ハンザは現物・現金決済だったが、イタリアでは保険が広まっていた。ホゲ婆さんは保険金狙いの仕業、金貨と琥珀と船に保険をかければ2万マルクになると試算する。エリックは2万マルクのための捨て石にされかけたようだ。
 グスマンの悪辣な仕業が分かったところへ甲冑を着込んだ10人の武装集団が近づいてくる。

第7章 主人公、斬り合いを経験すること」 舞台はアウグスブルクに総本店を置き、ローマ、ヴェネツィア、ニュルンベルク、ブレスラウ、インスブルック、アンヴェルスに大支店を置く財閥の会議室に変わり、総支配人が伯母上であるホゲ婆さんの急報で、グスマンのかけた保険金19500マルクは詐欺の疑いがあるので調べが終わるまで支払いを止めるよう話題にする。
 グスマンの館では、リューベックの豪商で参事会の同僚ボンゼルスがエリックは琥珀強奪を犯しながらもリューベックに現れたのは無実を証明したいからではないかとグスマンに問いただすと、グスマンはうろたえる。館を出たボンゼルスはリューネブルクの製塩工場主ベンツと情報交換する。2人ともホゲ婆さんに恩義があり、グスマンの最新情報をホゲ婆さんに連絡する。
 保険金19500マルクの支払いが保留され苛立っていたグスマンは、(エリックが裁判にかけられると保険金詐欺がバレてしまうので)ブルーノにエリックとメテラーの相討ち、共倒れをすぐに実行するよう伝える。一方、メテラーは、自分をばかにしているブルーノたちに思い知らせてやるとの思いが強まっていた。

 ホゲ婆さんの家ではエリックが武装集団に備えて扉口に構える。ギュンターは敵の1人の左膝に長剣を突き刺し、身を翻して次の敵を誘い、体を回転させて敵の左腿を突き刺す。3人目の敵が鎖の先に鉄球の付いた鎚矛で襲いかかると、ギュンターは前方に体を回転させて鉄球をかわし、敵の左の腿を突き刺し、剣を戻して4人目の喉を刺す。
 扉口を守るエリックに前、右、左から敵が剣を突き出そうとしたとき、敵のリーダーであるゲオルグ・フォン・ビューレンが剣を引け、ギュンターはムルテンの会戦でともに戦った仲間だと言ってギュンターとの再会を喜び、エリックの身代わりに死んだ傭兵の耳を切り取って引き上げていった。

第8章 主人公、行方が知れぬこと」 グスマンは、リューネブルクの製塩工場主ベンツの仲介で、ドイツ騎士団の依頼であるゴトランド島に埋められている5万マルク相当の海賊の財宝を掘り出し競売する計画に、手数料15000マルクで参加する、とブルーノに話す。ブルーノは話がうますぎると思うが、グスマンに逆らわない。
 グスマンとブルーノは、別室で待つドイツ騎士団長次席補佐フォン・ヴファッフェンホフェン伯爵の代理人で黒い十字をあしらった白衣のフォン・ヴァイセンホルンと会う。ヴァイセンホルンが船を見たいというので外に出ると、外で待っていたビロードの布で顔を隠した騎士が加わる。
 覆面の騎士がヴァイセンホルンに船の説明する声を聞いたブルーノは、聴き覚えがあることに気づくが、グスマンは気にかけず、持ち船のうちで最大の一本柱帆船を選び、ブルーノ、マグヌス、メテラーともども、自らも乗り込むと告げる。

 みんなを乗せた船はリューベックを出港し、ロストクを目指してバルト海を北上する。ブルーノはマグヌスに、グスマンは脚が治っていないマグヌスと役立たずのメテラーを始末するつもりらしい、覆面の騎士はエリックに違いない、と話す。エリックに恨みを持つマグヌスが騎士の覆面を取ると、グスマンに雇われエリックたちを襲った騎士ゲオルグだった。驚くグスマン、ブルーノ、マグヌスの前に隠れていたエリックも現れる。ギュンター、エリック、ゲオルグが芝居を打ったようだ。
 ギュンターは船乗りが見守るなかで、グスマンの企みである、金貨と琥珀の代わりに石ころを運ばせ、ブルーノ、マグヌス、メテラーにエリックを殺させて琥珀横領犯に仕立てようとした保険金詐欺を暴く。

第9章 主人公、再出発すること」  30人に近い船乗りたちはギュンターの証言を聞いてエリックを信用し、甲板に座り、静観する。
 追い詰められたグスマン、ブルーノ、マグヌス、まず脚の不自由なマグヌスがエリックに襲いかかろうとするがよろけ、エリックに目をつかれて狭い階段を転げ落ち、そこにメテラーが現れるが、マグヌスの侮蔑の目を見ると包丁でマグヌスの喉を切る。
 メテラーがエリックに味方だ、感謝してくれと言うのを聞いたグスマンが、お前のせいで保険金詐欺が失敗したと帆綱でメテラーの顔を叩き、倒れたメテラーの喉にさらに綱で一撃し、メテラーは息を絶つ。

 次にグスマンがエリックを帆綱で叩こうとすると、ギュンターが長剣で帆綱を切り、エリックにブルーノを追えと声をかける。後部甲板で待ち構えていたブルーノは、隠し持っていた両棘矛をエリックめがけて右、左、右、左、左とエリックに突き出す。エリックは左腕、次に顎、さらに右頬を刺されて血を流しながら、たった一つの武器である棒をブルーノに投げ、舷側に跳ぶ。武器を無くしエリックに、勝ち誇ったブルーノが両棘矛を突き出した瞬間、エリックは身をひるがえして両棘矛を脇の下に抱え込みながら舷側の網をブルーノに被せて体当たりする。ブルーノは甲板から海に転げ落ち、網で頸が絞まり息絶える。
 騎士ギュンターに見張られていたグスマンは、戻ってきたエリックに殴りかかる。身を沈めてかわしたエリックにグスマンが覆い被さり、首を絞める。エリックは舷側によろめきかかりながらグスマンの身体を持ち上げ、海に落とす。

 場面は変わって、ホゲ婆さんの家でエリック、ギュンターにホゲ婆さんが200年生きてきたけど今回は手際が悪かったとこぼし、ザンナにアウグスブルクでの慈善院の手伝いを頼み、エリックにはロンドンの港での働き口を紹介しようなどと話し、和気あいあいに幕となる。

 濡れ衣を着せられたエリックが、謎のホゲ婆さん、騎士ギュンターの助けを借りて、琥珀横領の濡れ衣を着せエリックをバルト海に落として殺そうとした雇い主の豪商、同僚の船乗りを倒し、無実を晴らすといった分かりやすい展開の物語で、私には謎解きの複雑さやスリルのある緊張感に物足りなさを感じたが、バルト海で活躍したハンザ商人や現地取材をもとにした当時のヨーロッパについての知見が豊富に織り込まれていたし、かつて訪ねたリューベック、リューネブルク、バルト3国を思い出しながら気楽に読み通した。  (2024.5)

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