ボールを『打ちのめす』…イブラと鹿島DF植田に見える独特の観点
本連載の著者である安藤隆人氏は、元銀行員という異色の経歴を持つサッカージャーナリスト。今では、高校サッカーを中心に日本列島、世界各国を放浪し精力的な取材を行っている。巷ではユース教授と呼ばれる。本連載では安藤氏の“アンダー世代”のコラムをお届けする。
文=安藤隆人
18日にチャンピオンズリーグのレヴァークーゼンvsパリSGの取材をしてきた。
結果はでパリSGが快勝。その中で圧倒的な存在感を放ったのが、スウェーデン代表FWズラタン・イブラヒモヴィッチだ。この試合の42分、MFブレーズ・マテュイディの落としを、ペナルティーエリア外から利き足ではない左足で軽々とシュートを放つと、ボールは唸りを挙げてゴールに一直線。GKの手の先を通過して、ゴール右上隅に突き刺さった。圧倒的なパワー、そしてスキル。彼のピッチ上での存在感は一人だけ別次元だった。
彼はテコンドー経験者のサッカープレーヤーとして有名だ。度肝を抜く身体能力を駆使したアクロバティックなプレーやシュートの数々は、ボールを蹴ると言うより、ボールを強烈に『しばく』、『打ちのめす』というイメージだ。
プレーを見て、ふと思い出したことがあった。鹿島アントラーズに所属するDF植田直通の言葉だ。彼も中学までテコンドーをやっていて、しかも日本チャンピオンになり、世界大会にまで進んだ実力者。大津高校時代にインタビューしたとき、CBの魅力を聞くと、「相手を抑え込む快感があります」と答えた。さらに聞いていくと、「空中戦はとにかく楽しい。高さとパワーで相手を制圧した時は快感ですね。クリアする時も『ボールを蹴る』というより、ボールを敵と見立てて、打ちのめすイメージでやっています」と非常に面白い答えが返ってきた。
つまり、彼にとって相手のセンタリングやパスは、テコンドーにおける『相手選手』であり、そこに強烈なインパクトの蹴りやヘッドをお見舞いするというイメージなのだ。ゆえにその精度とインパクト、パワーは凄まじいものがある。それをイブラヒモヴィッチに置き換えてみたら…。確かに彼はボールという『相手選手』を豪快にしばき、打ちのめしているように見える。
イブラヒモヴィッチが本当にそういう感覚でやっているかは定かではないが、そういう観点で見ると非常に面白い。そもそも植田という選手に大いなる興味を抱いたのも、彼の持つ独特の観点に惹かれたからであった。普通の選手とは違う、他競技を極めた者だからこそ持ちうる独特の観点とプレースタイル。イブラヒモヴィッチと植田は、お互いに大観点でプレーしているに違いない。イブラヒモヴィッチは言わずと知れた世界的なスターだが、近い将来、植田もそこに食い込んでほしいと、密かに期待をしている。
CLに出場したパリSGのイブラヒモビッチを観て植田を重ね合わせたサッカーキングライターの安藤氏である。
テコンドー経験者という共通項だけで、ポジションもプレイするカテゴリーも異なる二人を比べるのは少々乱暴ではあるが、高校時代のインタビューコメントを引用して植田を紹介してくれるのは嬉しい。
そして植田に世界的スターに食い込んで欲しいと願うところも同意である。
今季二年目の植田は、レギュラーにどこまで食い込んでいくのかが見物となっておる。
強烈なヘディングと快足で最終ラインに君臨する日もそう遠くはあるまい。
楽しみである。