鹿島の最重要課題。大迫勇也の穴はどうやって埋めるのか?
2014.02.10
田中滋●取材・文 text by Tanaka Shigeru photo by Getty Images
1月28日から宮崎で強化キャンプを行なっていた鹿島アントラーズは、大きなケガ人を出すこともなく、2月8日にキャンプを打ち上げた。この冬の移籍市場で、大迫勇也がドイツ・ブンデスリーガ2部の1860ミュンヘンに移籍。エースストライカーを失い、昨季5位に終わった名門クラブは、どのように新シーズンに臨むのか――。指揮官であるトニーニョ・セレーゾ監督は、復活への道のりが険しいことを素直に認めていた。
昨季19ゴールの大迫勇也が抜けた穴はとてつもなく大きい
「(昨季リーグ戦19得点の)大迫が移籍してしまったことは、僕らにとって計り知れないダメージだ。鹿島の昨季リーグ戦の総得点は、全18チームの中で4位(60得点)。ただ、失点もかなり多かった。次に考えるべきは、得点力をそのまま維持し、守備を安定させること。それが今季に向けて、次のステップだった。しかし、そうイメージして計画していたプランは崩れた。もう一度、チームをイチから作り直さないといけない」
監督という立場は、目の前の状況を正しく認識する必要がある。トニーニョ・セレーゾ監督は大迫の移籍を深刻に受け止めることで、進むべき新たな道を模索していた。
大迫の移籍は、鹿島に大きな穴を残した。今オフ、クラブは代わりとなるFWの獲得を画策。しかし、杉本健勇(現セレッソ大阪)ら国内外のストライカーにオファーするも、移籍交渉はまとまらず、FWの戦力は昨季から在籍するダヴィと、筑波大学からの加入が決まっていた赤崎秀平のみ。実績ある新たなストライカーの獲得には到っていない。
頭数を揃えるだけの補強であれば、いつでも可能だ。鹿島がFWの選手を欲しているのは、誰の目にも明らか。代理人から紹介される選手、クラブがリストアップした選手の選択肢はいくつもあった。しかし、トニーニョ・セレーゾは首を縦に振らない。特に外国人選手の獲得には、強いこだわりを持っていた。
「外国人選手は最後のトッピング。ベンチにいるだけの外国人選手に、何の意味もない。常に試合に出られるレベル――、要は、『違いを示せる選手』が必要だ」
また、トニーニョ・セレーゾがオーダーする選手と交渉の席についても、相手が求める金額を検討すると、5億円ほどの出費となってしまう。クラブが用意している強化費では、それをまかなうことは難しかった。
かつての鹿島は、高卒の選手を3年かけて育て上げ、7年から10年の間、戦力として活用する手法をとってきた。それによって充実した戦力と、熟成された戦術を武器に、鹿島は数々のタイトルを獲得してきたのである。
しかし今、その手法は通用しなくなっている。若くて有望な選手であればあるほど早く海外へと渡り、鹿島で活躍する期間は短くなった。さらに大きなダメージとなったのが、2番手、3番手の選手を抱えられないチーム事情だ。かつての鹿島のFW陣なら、大迫が移籍しても、興梠慎三や田代有三という働き盛りの選手がいれば、そこまで大きな穴にはならなかっただろう。しかし、彼らは出場機会を求めて他のクラブへ移籍(興梠は浦和レッズ、田代はヴィッセル神戸に移籍)。これまでのようなチームの作り方では、戦力を維持することができなくなっているのである。
そのため鹿島は、今季から広島などが採用しているスカウティングシステムを導入した。J2やJ3、JFLといった下のカテゴリーを常時視察する専門スタッフを置くことで、広島がDF塩谷司を見出したように(2012年途中に水戸から広島へ完全移籍)、限られた資金でも適材適所の補強が可能になるような体制作りを進めていくという。とはいえ、これから手がける新たな試みであるため、今季序盤の戦力に、そのスカウティングは反映できない。新シーズンは、今、在籍している選手たちで戦うしかない。
鹿島の選手たちは大迫の抜けた穴について、こう語っている。
「いなくなった選手のことを、気にしても仕方ない。年下の選手やダヴィがやってくれると思う」
大迫とともに攻撃を牽引するFW遠藤康は、「いないならなんとかする」と言って胸を張った。
一方、ダヴィについて言及したのは、鹿島の中盤を仕切る柴崎岳だ。
「去年は大迫とダヴィのツートップでしたが、どちらかというと、僕らはダヴィの特長を活かせなかった」
ダヴィはテクニックのある選手ではないものの、自らの得点の形を持った選手。その良さを引き出せなかったことについては、パスを出す側にも反省の念が残っているようだった。
キャンプでのトニーニョ・セレーゾ監督は、例年より早い時期から戦術練習に着手。新加入の選手に約束事を叩き込むことに加え、サイドからのクロスに人数をかけてゴール前に入り込む形を徹底して練習した。昨季も同じような練習は行なっていたが、走り込むコースや身体の向きについても、より詳細に指示を出していた。「総得点を維持して守備を改善するプランは崩れた」と嘆いていたが、得点力の減少を防ぐために最大限の努力を行なっている。
たしかに、2月9日に行なわれたアビスパ福岡とのプレシーズンマッチでは、サイドからの攻撃パターンが数多く見られ、DF伊東幸敏のクロスにダヴィが飛び込んだ得点シーンは、まさに練習通りのものだった。この日、3得点で攻撃を牽引したダヴィは、「残った選手で大迫の役割を埋めていかないといけない」と、エースストライカーの穴を埋める決意を示した。
しかし現状を見ると、大迫の穴は埋まったとは言いがたい。穴を埋めるというのは、同じだけの実力者を用意して初めて言えること。今の状態は、将来性のある選手に未来を託しているだけだ。
クラブとしては「ポスト大迫」を赤崎秀平に託し、彼自身もそれに応えるべく、高い意識でキャンプに臨んでいた。とはいえ、彼はルーキーのひとり。関東大学リーグで2度の得点王に輝いた実績があり、トニーニョ・セレーゾ監督も「決定力がある」と評価する通りの選手だとしても、「大学から来たばかりで、どれくらいできるのか分からない」というのが本音だろう。赤崎に負担をかけすぎてしまうのは危険だ。
現在もクラブは、新たな外国人獲得のために手を尽くしているという。しかし、打診先のクラブからは渋い回答しか得られていないようだ。「夏まで待てば話もまとまりそう」とチーム関係者は語るが、いつまで時間が許されるのか……。いずれにせよ、後手を踏んでいる印象は否めない。
昨シーズンが始まる際に興梠を失い、今シーズンは大迫を失った鹿島。トニーニョ・セレーゾ監督は、キャンプを終えてこう語った。
「サッカーというのは面白い世界で、一番困難な状況だろうと思う瞬間、逆に良い結果が出ることもある。プラス思考で行かないとね、人生は――」
指揮官が思い描くように、苦しい立場から逆転することはあり得るのだろうか。ともあれ、鹿島アントラーズにとって厳しい1年がスタートする。
大迫抜きでスタートするシーズンについて語る田中氏のコラムである。
ダヴィを活かすべくサイドからのクロスによる攻撃を徹底しておるとのこと。
その結果は昨日の福岡戦にも現れており、キャンプの成果は出ておる様子。
しかしながら、その程度では大迫の穴は埋まるべくもないと言い切る。
補強は金銭的に進んでおらず、才能的には赤に託す部分もあるが、若くプロの実績に乏しい。
とはいえ、選手は心配しておらず、指揮官は「一番困難な状況だろうと思う瞬間、逆に良い結果が出ることもある」と語る。
ネガティブに捉えたところで良いことがやってくるわけでもなかろう。
赤だけでなく、聖真やアツそしてヤスの得点力で補っていこうではないか。
苦しい部分はサポーターの声援にて後押ししていきたい。
楽しみなシーズンである。
2014.02.10
田中滋●取材・文 text by Tanaka Shigeru photo by Getty Images
1月28日から宮崎で強化キャンプを行なっていた鹿島アントラーズは、大きなケガ人を出すこともなく、2月8日にキャンプを打ち上げた。この冬の移籍市場で、大迫勇也がドイツ・ブンデスリーガ2部の1860ミュンヘンに移籍。エースストライカーを失い、昨季5位に終わった名門クラブは、どのように新シーズンに臨むのか――。指揮官であるトニーニョ・セレーゾ監督は、復活への道のりが険しいことを素直に認めていた。
昨季19ゴールの大迫勇也が抜けた穴はとてつもなく大きい
「(昨季リーグ戦19得点の)大迫が移籍してしまったことは、僕らにとって計り知れないダメージだ。鹿島の昨季リーグ戦の総得点は、全18チームの中で4位(60得点)。ただ、失点もかなり多かった。次に考えるべきは、得点力をそのまま維持し、守備を安定させること。それが今季に向けて、次のステップだった。しかし、そうイメージして計画していたプランは崩れた。もう一度、チームをイチから作り直さないといけない」
監督という立場は、目の前の状況を正しく認識する必要がある。トニーニョ・セレーゾ監督は大迫の移籍を深刻に受け止めることで、進むべき新たな道を模索していた。
大迫の移籍は、鹿島に大きな穴を残した。今オフ、クラブは代わりとなるFWの獲得を画策。しかし、杉本健勇(現セレッソ大阪)ら国内外のストライカーにオファーするも、移籍交渉はまとまらず、FWの戦力は昨季から在籍するダヴィと、筑波大学からの加入が決まっていた赤崎秀平のみ。実績ある新たなストライカーの獲得には到っていない。
頭数を揃えるだけの補強であれば、いつでも可能だ。鹿島がFWの選手を欲しているのは、誰の目にも明らか。代理人から紹介される選手、クラブがリストアップした選手の選択肢はいくつもあった。しかし、トニーニョ・セレーゾは首を縦に振らない。特に外国人選手の獲得には、強いこだわりを持っていた。
「外国人選手は最後のトッピング。ベンチにいるだけの外国人選手に、何の意味もない。常に試合に出られるレベル――、要は、『違いを示せる選手』が必要だ」
また、トニーニョ・セレーゾがオーダーする選手と交渉の席についても、相手が求める金額を検討すると、5億円ほどの出費となってしまう。クラブが用意している強化費では、それをまかなうことは難しかった。
かつての鹿島は、高卒の選手を3年かけて育て上げ、7年から10年の間、戦力として活用する手法をとってきた。それによって充実した戦力と、熟成された戦術を武器に、鹿島は数々のタイトルを獲得してきたのである。
しかし今、その手法は通用しなくなっている。若くて有望な選手であればあるほど早く海外へと渡り、鹿島で活躍する期間は短くなった。さらに大きなダメージとなったのが、2番手、3番手の選手を抱えられないチーム事情だ。かつての鹿島のFW陣なら、大迫が移籍しても、興梠慎三や田代有三という働き盛りの選手がいれば、そこまで大きな穴にはならなかっただろう。しかし、彼らは出場機会を求めて他のクラブへ移籍(興梠は浦和レッズ、田代はヴィッセル神戸に移籍)。これまでのようなチームの作り方では、戦力を維持することができなくなっているのである。
そのため鹿島は、今季から広島などが採用しているスカウティングシステムを導入した。J2やJ3、JFLといった下のカテゴリーを常時視察する専門スタッフを置くことで、広島がDF塩谷司を見出したように(2012年途中に水戸から広島へ完全移籍)、限られた資金でも適材適所の補強が可能になるような体制作りを進めていくという。とはいえ、これから手がける新たな試みであるため、今季序盤の戦力に、そのスカウティングは反映できない。新シーズンは、今、在籍している選手たちで戦うしかない。
鹿島の選手たちは大迫の抜けた穴について、こう語っている。
「いなくなった選手のことを、気にしても仕方ない。年下の選手やダヴィがやってくれると思う」
大迫とともに攻撃を牽引するFW遠藤康は、「いないならなんとかする」と言って胸を張った。
一方、ダヴィについて言及したのは、鹿島の中盤を仕切る柴崎岳だ。
「去年は大迫とダヴィのツートップでしたが、どちらかというと、僕らはダヴィの特長を活かせなかった」
ダヴィはテクニックのある選手ではないものの、自らの得点の形を持った選手。その良さを引き出せなかったことについては、パスを出す側にも反省の念が残っているようだった。
キャンプでのトニーニョ・セレーゾ監督は、例年より早い時期から戦術練習に着手。新加入の選手に約束事を叩き込むことに加え、サイドからのクロスに人数をかけてゴール前に入り込む形を徹底して練習した。昨季も同じような練習は行なっていたが、走り込むコースや身体の向きについても、より詳細に指示を出していた。「総得点を維持して守備を改善するプランは崩れた」と嘆いていたが、得点力の減少を防ぐために最大限の努力を行なっている。
たしかに、2月9日に行なわれたアビスパ福岡とのプレシーズンマッチでは、サイドからの攻撃パターンが数多く見られ、DF伊東幸敏のクロスにダヴィが飛び込んだ得点シーンは、まさに練習通りのものだった。この日、3得点で攻撃を牽引したダヴィは、「残った選手で大迫の役割を埋めていかないといけない」と、エースストライカーの穴を埋める決意を示した。
しかし現状を見ると、大迫の穴は埋まったとは言いがたい。穴を埋めるというのは、同じだけの実力者を用意して初めて言えること。今の状態は、将来性のある選手に未来を託しているだけだ。
クラブとしては「ポスト大迫」を赤崎秀平に託し、彼自身もそれに応えるべく、高い意識でキャンプに臨んでいた。とはいえ、彼はルーキーのひとり。関東大学リーグで2度の得点王に輝いた実績があり、トニーニョ・セレーゾ監督も「決定力がある」と評価する通りの選手だとしても、「大学から来たばかりで、どれくらいできるのか分からない」というのが本音だろう。赤崎に負担をかけすぎてしまうのは危険だ。
現在もクラブは、新たな外国人獲得のために手を尽くしているという。しかし、打診先のクラブからは渋い回答しか得られていないようだ。「夏まで待てば話もまとまりそう」とチーム関係者は語るが、いつまで時間が許されるのか……。いずれにせよ、後手を踏んでいる印象は否めない。
昨シーズンが始まる際に興梠を失い、今シーズンは大迫を失った鹿島。トニーニョ・セレーゾ監督は、キャンプを終えてこう語った。
「サッカーというのは面白い世界で、一番困難な状況だろうと思う瞬間、逆に良い結果が出ることもある。プラス思考で行かないとね、人生は――」
指揮官が思い描くように、苦しい立場から逆転することはあり得るのだろうか。ともあれ、鹿島アントラーズにとって厳しい1年がスタートする。
大迫抜きでスタートするシーズンについて語る田中氏のコラムである。
ダヴィを活かすべくサイドからのクロスによる攻撃を徹底しておるとのこと。
その結果は昨日の福岡戦にも現れており、キャンプの成果は出ておる様子。
しかしながら、その程度では大迫の穴は埋まるべくもないと言い切る。
補強は金銭的に進んでおらず、才能的には赤に託す部分もあるが、若くプロの実績に乏しい。
とはいえ、選手は心配しておらず、指揮官は「一番困難な状況だろうと思う瞬間、逆に良い結果が出ることもある」と語る。
ネガティブに捉えたところで良いことがやってくるわけでもなかろう。
赤だけでなく、聖真やアツそしてヤスの得点力で補っていこうではないか。
苦しい部分はサポーターの声援にて後押ししていきたい。
楽しみなシーズンである。