鍋の締めには何がいいかと議論する酔客たちの声が聞こえてきた。
髭面の男が傍らの男を揶揄する口調で、
「こいつ、締めはうどんか餅だって言うんだよ。
雑炊は嫌なんだって。おかしいだろ」
おかしいとまでは思わないが、確かに珍しい。
すると揶揄された男が、
「俺、子どもの頃病弱で、お粥ばかり食べてたから、
雑炊とかお粥みたいなのは嫌なんだよ」
思わぬ理由が飛び出してきた。
ここで話は終わりそうなものだが、髭面の男はしつこい。
「でも、餅はないよなあ」
そして、何かに気づいたように大声を上げる。
「あ、お前、伊勢だよな。
そうか、伊勢は餅だよなあ」
伊勢は餅?
ああ、赤福のことか。
赤福が名物だからって、
それと鍋の締めに餅を入れるのとを結びつけるのは、
さすがに乱暴ではないか。
しかし、髭面の男はそれで納得し、話題を変えた。