少し前の話だ。
娘の運動会に行くと、
場内整理の母親たちが、
釣りなどに使う小さな椅子に腰掛けていた、
おばあさんを注意していた。
どうやらそのおばあさん、
膝が悪くて地べたに座るのが辛いらしく、
椅子に座っていたようだ。
座っている場所も校舎の壁面に沿った場所で、
後ろの人の邪魔になっているわけでもないのだが、
「すいません、そういう決まりなもので」
母親たちはそう繰り返して、
おばあさんを椅子から下ろした。
家人に聞いたら、
なんでも今年から運動会で父兄の椅子の使用は禁止になったのだそうだ。
ここにいくつか納得できない点がある。
一つは「なぜ禁止にしたのか?」ということだ。
理由の説明できない禁止は、暴力だと思う。
まあ、普通に考えられる理由は、
「椅子に座られると後ろの人が見えなくなってしまうから」
だろうが、
それだと今回のおばあさんには当てはまらない。
それに、そもそも今年の観覧エリアであれば、
ほぼどこでも、椅子に座っても後ろの人の妨げにはならない。
なのに、何故、禁止したのか。
もう一つ納得できないのは、
膝が悪くて地べたに座るのが辛いと言っているおばあさんからも、
「規則だから」と椅子を取り上げる、
その柔軟性のなさだ。
そして僕がなにより不気味だったのは、
万人が納得する理由もなく(明らかにされず)、
しかも臨機応変な対応もできない規則を、
学校が作ったことだ。
学校は、そんなふうに子どもたちを教育していくのではないか。
そう考えると、
ちょっと怖くなった。
今回の一部始終を、
道徳のテキストにしてみたらどうだ?
子どもたちはなんと言うだろうか。
椅子から追われたおばあさんは、
地べたに座りながら、
伸ばした膝をしきりにさすっていた。