筒井康隆の『虚人たち』という小説では、
主人公が現在の意識を持ったままで過去に遡行し、
しかもそこで主人公は実際の過去の彼そのものになってしまう、
という試みをしている。
ただし、これは小説では実験的なことだが、
筒井康隆自身が書いているとおり、
現実ではこれと同じ感覚を我々はよく体験している。
夢の中で、である。
昨日、僕もそんな夢を見た。
山手線に乗っていた。
傍らには一周忌を迎えたばかりの友人がいた。
車椅子に乗った友人は、
やややつれていたものの、
まだまだ元気だった。
どうやら週末だけ一時退院しているらしく、
「今度の土曜日に飲もう」
と言われた。
でも、夢の中の僕は過去の僕でありながら、
同時に現在の意識を持っているため、
友人が今度入院したら、
もう病院を出ることはない、
ということを知っている。
だけど、そのこと教えてしまうと、
友人が哀しむと思い、
ぎこちなく「ああ」と答えた。
それだけの夢だ。
目が覚めてやけにはっきりおぼえていたので、
記録しておきます。