会計スキル・USCPA

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貧乏人の経済学

2012-04-30 12:51:16 | 貧困問題
うっかり,未完成のままアップしてしまいました。中途半端なものを一時さらしてしまいましたが,どうもすみませんでした。

 さてと,ユヌスのマイクロファイナンスや,ジェフリーサックス,ラオスのコメ銀行から,ストリートチルドレンまで,貧困問題についてはここでもあれこれネタとして紹介してきました。

貧乏人を救え,とかいう立派な動機は無いんですが,知的な関心があるんですな。
生活水準に差がある,というのはどういうことなのか。
豊かになる,というのはどういうことなのか。

これは,個人の稼ぎとは別に,国によって明らかな違いがあって,豊かな国では貧乏人もそれなりの暮らしをし,貧しい国ではめちゃめちゃつらい,という具合で。

で,真打登場。

貧乏人の経済学 - もういちど貧困問題を根っこから考える
クリエーター情報なし
みすず書房


少し最初のあたりを読んだだけで,本書がただものではない,ということがわかります。
とにかく,驚異的な内容であって,思わず息を飲む,というんでしょうか。

途上国援助は行うべきか,行うべきでないのか。

賛成の立場,反対の立場があることは,誰もが知っています。貧困トラップが存在するので,そこからの脱出を先進国は援助すべきだ,というのはジェフリーサックスの主張でした。ただ,それだけじゃない,という感じがどうしても残りますな。

あるいは、

援助なんか無駄だ,腐敗した現地政府にかすめ取られてしまうし,その残りが必要とする人々に辿りついたとしても単に費消されて終わり。貧困からの脱出には役立たない,

という主張も,もっともな感じがしますが,援助による成功例もあるわけだし,そうも言い切れないんじゃないか。


という具合で,すっきりしません。

一般読者としては,自分でそこから一歩も進めないし、仕方なく,自分の信条に従ってどっちかの陣営サイドに立たざるを得ず、かといって確信が持てるわけでもない,ってとこでしょうか。

それで何の疑問も生じないような人にとってはそれで問題ないわけですが,ちょっと仕事してみたりして,言うは易し行うは難し,特に今ある組織や流れに関与するということがどんだけ厳しかが骨身にしみていれば,簡単な割り切りは行えない,ということが分かるはずですな。

援助は必要,○○は必要とか,きれいごとじゃ済まない。

なんで理屈通り効果が出ないんだと実績を求められる。難しいんですよ、で済ませてしまえば仕事にならず,日々ヘッポコサラリーマンや,ヘッポココンサルはそこで苦労するわけですな。

本書は,そんな私を含めたヘッポコ達のためにある本,と言っても良いくらい,ある種感動的な,なんと言いますか,そうなんだよなあ,というか,よくぞ言ってくれたというか,あんただけが頼りだ感,というのか,お任せしたい感というか,まさに,真打登場,待ってました,という感じなんですね。

もっと良く現実を見ろ,というのが本書のメッセージなんでしょうな。著者は,細部を見なければならない,と書いています。

もっと現実をよーく見て分析すれば,援助必要,不要論はどちらも正しいが一面的であることがわかり,

援助が機能せず,行政が不効率なのはもっと別の側面があることが見えてくる。

ホンの少しの改善,たとえば方針を決める会議に呼ぶメンバーを工夫することや,伝えるべき情報を伝えるだけで,たとえ独裁腐敗政権下であっても問題はかなり改善する、だから希望を捨ててはいけない,とか。

涙なくしては読めない。



マイクロファイナンス。

ユヌスの自伝には,魔法の杖,みたいなことが書いてあります。
ほんのわずかな資金があれば,貧困者も仕入が自分でできるようになったり,自前のミシンが持てるようになって,高利貸しへの資金負担がなくなったり事業規模を拡大して経済的に自立でき,ずっと豊かになれる。読めば必ず感動します。


しかし,先進国でもマイクロファイナンスをやろう,というニュースを読んで,はたと気づくわけですな。少額の資金支援で,ビジネスを興せて拡大させてゆけるだろうか。そんな人もいるにはいるでしょうが,そういう才覚と覚悟を持っている人はそんなに多くない。

貧困国でもそうなんじゃないのか。

本書では,この問題にも,調査結果と合わせて詳細に論じて,かなりクリアな結論を出しています。つまり,マイクロファイナンスは奇跡を生むわけではないが,かなり役には立っている,という,妥当な感じのする結論です。本書では貧困国における小ビジネスがどういう構造になっているのかまで視野に入れて論じていて,かなり包括的で,読むと結構満足感があります。

著者達の特長は,その調査手法にあって,関与グループと非関与グループをランダムに選定してデータを対照して比較するという,新薬の試験などで使われている方法のようなものを使っていることなんだそうですが,門外漢にとってはアンマシ気にする必要はなさそうです。逆に,これまでの経済学は,こういう手法でなかった,ということは,結構眉唾かも,と心配になるくらいで。

著者の一人は女性です。

Esther Duflo's Radical Anti-Poverty Fight



女性の感性,こまやかで不条理もまとめて肯定的に受け入れ可能な母性,みたいなものが,研究に役立っているかもですな。