ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「グッドピープル」

2021-10-09 15:01:37 | 芝居
9月15日亀戸文化センター カメリアホールで、デビッド・リンゼイ=アベアー作「グッドピープル」を見た(演出:鵜山仁)。
ネタバレあります注意!!

マーギー(戸田恵子)はマサチューセッツ州のサウスボストンに住む中年のシングルマザー。1ドルショップのレジ係として働きながら、早産により障害を持って生まれた
30代の娘ジョイスを養っている。そんなある日、遅刻の多さから勤め先をクビになってしまったマーギー。突如収入が断たれ、途方に暮れる彼女は、ジョイスの面倒を
見てもらっているアパートの大家ドッティ(木村有里)と高校の同級生ジーン(阿知波悟美)に相談を持ち掛ける。するとジーンから、高校時代の恋人マイク(長谷川初範)
が医師として町に戻って来ていることを知らされる。意を決したマーギーは、仕事を紹介してもらおうとマイクに会いに行くが・・・(チラシより)。

2011年に上演されたブロードウェイ版では、同年のトニー賞でフランシス・マクドーマントが主演女優賞受賞とのこと。
まず予備知識として頭に入れておくべきこと。
マーギーが暮らすサウスボストン(通称サウシー)は、今ではお洒落スポットとして人気だが、その昔はギャングやマフィアが横行する犯罪都市として知られていた。
逆にマイクが暮らすチェスナットヒルは、ボストンの隣町ブルックライン(大統領ジョン・F・ケネディの生誕地)にある高級住宅地の由。

マーギーはお気楽で楽天的な性格で、遅刻が続けばクビだと警告されていたにもかかわらず、とことんまで追い詰められないと問題解決に向けて行動しない。
友人たちがいるため何とかなると思っているふしがある。だが追い詰められると、けっこう図々しい振る舞いに出る。
マイクの妻ケイト(サヘル・ローズ)は黒人で大学教授。2人目の子供がほしくて不妊治療中だが、そのことで夫とギクシャクしている。
この人は実に好感の持てる女性で、突然押しかけて来たマーギーに対しても、終始フレンドリーな態度だが・・・。

見終わって、謎が残る。なぜマーギーは32年前(高校生の時)、お腹の子の父親がマイクだと知りながら、それを彼に告げず、自分から別れを切り出したのか。
彼の大学進学の邪魔になると思って身を引いたのか。その後もなぜ手を尽くして彼に連絡しようとしなかったのか。
にしても32年は長い。今さらだが、それでもなぜ最後まで噓を貫くのか。しかも彼の現在の暮らしを壊したくないからだとしたら、それは美しい犠牲的行為であり、
感動的だが、それにしては激しく意地悪くしつこく、彼と妻との関係をかき乱すではないか。
娘ジョイスのことを考えても、マイクが実の父親だとしたら、二人を会わせるべきではないだろうか。
彼にはそれを知る権利がある。たとえどんなに狼狽し、困惑するとしても。

最後の場面で、舞台上方に大きな金色の十字架がきらめき続ける。実に意味深。演出家の意図は明らかだ。
やはり、彼女の選んだ行動を、自分を犠牲にする勇気ある行為としてとらえ、感動してほしいようだ。
マーギーの行為は善意から出たものだから神様がこれからも見守ってくれる、周囲も(ビンゴで得た賞金を貸してくれたスティーヴィーのように)彼女の苦境を
放ってはおかない、何とかしてくれるさ、ということを表しているらしい。
だが評者にはどうしても納得いかない。
ケイトが言う通り、子供のためを思えば、マイクに連絡したはずではないか。

マイク役の長谷川初範は発声が変。日本語の発音も外人ぽくて変だ。練習してほしいが、今頃言っても遅いか。
マーギー役の戸田恵子は期待通り達者なもの。
ケイト役のサヘル・ローズも好演。

長い。初演が2011年だから、それほど古くないのに、繰り返しが多くて現代の我々には退屈。
特にビンゴのシーンがやたらと長くて苦痛。何とか切り詰められないか。

格差が大きなテーマ。
「サウシー出身で医者になった初めての男」マイク!
片や高校中退のマーギー。
マイクのことを「あなたは運が良かっただけ」と意地悪く決めつけるマーギー。
ただ運が良くて環境に恵まれていただけで現在の幸せを手に入れたと思われ心外なマイクは、自分としても相当努力したんだ、と言い返す。
マーギーは、自分の歩んで来た道に「選択の余地はなかった」と主張する。
いずれにせよ観客としては、マーギーのあからさまな嫌がらせを聞かされて、あまりいい気分ではない。
彼としては、かつて彼女にひどい仕打ちをしたわけでもないに、なぜ32年もたった今、こんな目に合わないといけないのか、わけが分からないだろう。
下層階級からのし上がった者に対するひがみとしか言いようがない。

蛇足だが、マーガレットの愛称は Maggie やMargie などたくさんあるが、母音が短い前者はマギー、長母音の後者はマージ―と発音する。
細かいことを言うようだが、この戯曲の主人公の場合、マーギーでなく、マージーと訳すべきだと思う。







コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「熱海殺人事件」 | トップ | The Weir -堰- »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

芝居」カテゴリの最新記事