ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

岸田國士小品選

2010-02-10 21:32:30 | 芝居
1月25日新国立劇場小劇場で、岸田國士小品選を観た(西川信廣演出)。

「紙風船」「葉桜」「留守」の3篇。この順番がいい。

一つ目の「紙風船」の夫婦(若松泰弘と麻丘めぐみ)の会話には驚いた。この二人、新婚二年目だというのにそろって「日曜日が怖い」と言う。最後まで二人の会話を聞いていても何が何だかさっぱり分からない。何だかフランス映画の中の夫婦のようだと思い、チラシをよく読むと、作者は東大の仏文を出てフランスに留学し、かの地で演劇を学んだ由。それで謎が解けた。これは舞台装置を見ると日本の話のようだが、実はそうではなかったのだ。作者は人間心理の細かいひだに分け入って、ドライに冷徹に分析して見せるフランス流の作劇術に魅了されたのだろうが、残念ながらそれは日本人の心性には合わないようだ。

二つ目の「葉桜」。お見合いをした娘(村井麻友美)とその母(音無美紀子)。母はその男の態度が気に入らないのでこの縁談には乗り気でない。娘は男が特に娘の気持ちを尋ねることもなく、好きだとも言わないことにやや不満はあるが、母が「この話は断るよ、いいね」と念を押してもはっきりいいとは答えない。母は歯がゆがって何とか娘の気持ちを聞き出そうとする。さすが年の功で、母が上手に微妙なことを打ち明けられる雰囲気にもってゆくと、娘はついに母の耳元でささやくのだ、二人の間にあったことを。母がショックを受けるや彼女は「うそようそよ」と必死で打ち消そうとする。それがたまらなくいじらしい。
母はその瞬間覚悟を決める。「私は始めっからあんたとあの人を夫婦にするつもりだったのよ」と心にもないことを言って娘を抱き締めるが、涙は押さえても押さえ切れない。
ああ、昔はそうだったろう。今ならどうということもないのに。本当に女にとっていい時代になったものだ。無理に結婚しなくても、他にいくらでも生きる道があるのだから。
葉桜の下で二人はどこまでいったのだろう。

西洋への憧れが強く描かれる。「活動」を見て女性が大事にされているのを知ったのだろう。「西洋はいいねえ」と母。「日本間と西洋間ではどちらが好きですか」と男に聞かれて娘は「そりゃあ西洋間の方が好きですわ」と答えた、と言う。

母は19歳で嫁に来た。娘も今その年になった。母の頃の結婚よりはずっとましだとは言え、相手の男は資産家の親の言いなりで職もなく、女性に対しては手は早いが誠意を見せることを知らない。彼女の行く末が思いやられる。
彼女は情け無いほど無知で無力だ。例えば、情報交換できるような女友達とかいないのだろうか。

二人の女優は実の母娘だ。それがやり易いんだかやりにくいんだか分からないが、共演できてすこぶる嬉しそうだった。

三つ目の「留守」。音無美紀子の変貌にあっと言わされた。始め同じ人とは気がつかなかった位だ。うまい。そしてその演技を自ら楽しんでいる。観ている我々も実に楽しかった。
或る家の女中お八重(麻丘めぐみ)が、主人のいない間に隣の家の女中おしま(音無美紀子)を呼んでおしゃべりしている。お八重は「遊ぼうよう」と言う。まだそれ位若いのだ。
それぞれの主人達の話、町内の噂話・・・。そこに八百屋の青年(若松泰弘)がやって来ると、調子のいいおしまは彼を部屋に招き入れ、挙句は寿司の出前を頼んで・・・。
若い八百屋とお八重のこれからを観客に淡く期待させつつ芝居は終わる。
若松泰弘はどこかで観たと思ったら、'07年に紀伊国屋ホールで「ぬけがら」の主役をやった人だった。声がいい。
麻丘めぐみはずっと昔歌手だった頃しか知らなかったが、いつの間にか立派な役者になったようだ。


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