ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「検察側の証人」

2023-11-08 23:57:49 | 芝居
10月26日俳優座劇場で、アガサ・クリスティー作「検察側の証人」を見た(演出:高橋正徳)。





マレーネ・ディートリヒ主演の映画「情婦」の原作であるクリスティ作の戯曲。

真実と嘘、その間にあるものは一体何か・・・
アガサ・クリスティ、法廷サスペンスの金字塔
驚愕の展開と結末からはだれも目が離せない・・・
俳優座劇場プロデュースの原点
1983年から7年間、日本全国で上演された名作が
34年の時を超えて今、蘇る!
story
エミリー・フレンチという金持ちの老嬢が自宅の居間で殺された。容疑者として逮捕されたのは、彼女と親しくしていた
レナード・ヴォール(采澤靖起)という青年だった。彼の弁護を依頼されたサー・ウィルフレッド・ロバーツ(金子由之)は、
弁護士仲間のミスター・メイヒュー(原康義)と共に調査を開始する。レナードの証言に疑わしいところはないのだが、
状況証拠は必ずしも彼にとって有利なものではなかった。しかしサー・ロバーツもメイヒューも、レナードの無罪を確信している。
弁護側の切り札は、レナードの妻ローマイン(永宝千晶)のアリバイ証言だった。
だが、検察側の証人として登場した彼女は、あろうことか夫の犯行を裏付ける証言をする。
一方的にレナード不利な状況の中、事態は急転直下、思わぬ方向に動き始めるのだった・・・(チラシより)。

1幕1場
弁護士事務所。女性事務員の声がいい。
レナードが相談に来る。彼は若く、気の優しい青年だが、頭があまりよくないし、仕事がなかなか続かず、最近は無職だと言う。
ドイツで出会った女性ローマインを連れて英国に帰り、結婚した。
数か月前に偶然、被害者の50代の女性と出会って親しくなった。
数日前の夜、その女性が殺され、警察が来ていろいろ質問された、その後、帰宅して
妻にそのことを話したら、妻はひどく心配して、彼が疑われているんじゃないか、と言う。
まさか、と思ったが、弁護士に相談することにした、と言う。
彼は純朴でお人好しで、どう見ても自分に親切にしてくれているシニア女性を殺すなんて考えられない。
その時、警察官たちがやって来て、彼を容疑者として連れ去る。
だが弁護士2人も事務員も、彼の無実を信じ、何とかして彼を救いたいと考える。
彼は、3人の心をつかんだのだ。

彼と入れ違いに、彼の妻が来て、一種奇妙な対応を見せるので、弁護士2人は困惑する。
彼は、自分の妻のことを、素晴らしい女性なんです、と褒め、自分と妻とは深く愛し合っている、と言っていたのに、
彼女の方は、彼のことを話す時、何やら冷たく突き放した言い方をするのだ。
しかも、自分は彼の妻ですらない、と言い出す!実は、ドイツで彼と出会った時、彼女の夫はまだ生きていた、という。

法廷の場。舞台が非常によくできている。
検事役の声がいい。
家政婦ジャネット・マッケンジー(井口恭子)は、被害者の女性から遺産をほとんどもらうはずだったのに、彼が現れて女性のお気に入りになり、
遺言書を書き換えられてすべて取られたこともあり、彼を憎んでいるようだ。
彼女は彼が結婚していると聞いて驚く。被害者が彼との結婚を考えていると思っていた、と言う。
当夜の状況について、彼女の補聴器について、サー・ロバーツは、あの手この手で熱弁をふるって戦う。
次に、ローマインが、なぜか検察側の証人として登場する。
しかも呼び上げられた姓がヴォールではない別の姓だった!
<2幕>
ローマインは警察で話したことと違うことを言い出す。
彼が帰宅したのは夜9時半でなく10時10分だった、袖に血がついていて「洗え」と言われた、「あの女を殺してきた」と言った、と。
警察で言ったことは、彼に「そう言え」と脅されたからと。
彼は驚き叫ぶ、「ローマイン、どうしてそんなことを言うんだ!?気でも狂ったのか!?」「全部嘘だ!」

弁護士二人が事務所に戻り、頭を抱えていると、電話がある。
下品な女の声で、大事なものを渡したい、と場所を指定して、そこに来るように言う。
二人がそこに行くと、浮浪者が数人いて、ボロをまとった女が来る。
重要な証拠となる手紙の束を持っている、と言う。
サー・ロバーツが20ポンド渡して読むと、驚くべき内容だった。
彼は彼女の身の上を聞いて同情し、さらに5ポンド渡す。

新たな証拠を入手したため、弁護団が開廷を要求。ローマインを再度呼ぶ。
例の手紙の宛先であるマックスという男について尋問し、手紙を読み上げる弁護士。
マックスは英国にいて、何らかの政治工作に携わっているらしい。
「彼が死刑になったら、やっと自由になれる、二人で・・」
この手紙を自分が書いたことを、ついにローマインは自白させられる。
これには検事も茫然自失。
陪審員の評決は無罪。
閉廷後、彼と弁護士は喜び合う。そこにローマインが来る。
弁護士が彼を守ろうと立ちふさがると、ローマイン「彼を救ったのは私よ」と言いながらサー・ロバーツに近づき・・・
彼は驚いて「ど、どうして・・そんなことまでしなくても勝てたのに?」
彼女「そうかしら、イギリス人はドイツ人の言うことを信じてはくれない・・・
だが、衝撃はこれだけではなかった。
この後に、さらに驚くべきことが待ち受けているのだった・・・

だまされるって快感なのか??
人間はだまされることが好きなのだろうか?
自分でも不思議でしょうがない。
昔、映画「情婦」を見たことがあり、この「妻」が露悪的だが、実は夫を深く愛していた、というところだけは覚えていた。
その他の細かい(けれど重要な)ところをすっかり忘れていたので、この日、完全にだまされてしまった。
だが、それがよかった。
最後のどんでん返しに、ええっ?!というほど驚き、そして、それが非常な快感だった。
忘れていて本当に良かった。
役者も皆さん好演だったし。

ただ演出については、1点だけ不満がある。
ここで「妻」は、終始、仏頂面で、周りの人や観客の反感を買う。
それは彼女自身の計略だった。
だが、裁判で「夫」が無事に無罪を勝ち取った後、再び登場する時は、喜びに輝いているはずだ。
しかも、その勝利は弁護士の力によるものではなく、他ならぬ自分の力で勝ち取ったものなのだ。
自分が愛する人の命を救ったという喜びに溢れているのだから、満面の笑みを浮かべていて欲しい。
芝居としても、ここが唯一、彼女の笑顔を見られる場面なのだから。
しかも、あっと言う間に彼女の喜びはかき消されてしまう。
本当に束の間の幸せだった。
だからこそ、輝くような笑顔がここでどうしても必要なのです。

レナード役の采澤靖起が、期待通りの好演。
今回は、この人がいるからこそ上演できたと思う。
ベテラン金子由之と井口恭子の安定した演技で、芝居がビシッと引き締まった。
声のいい役者が多いのも嬉しい。
今回のキャスティングは非常に良かった。

シリアスな話なのに、所々にユーモアを散りばめ、笑わせてもくれる。
そして何より、戯曲の求心力と、見る者に息もつかせぬ迫力。
ミステリー作家クリスティは、劇作家としてもすごいことがわかった。


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