ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「金夢島」

2023-10-30 22:37:40 | 芝居
10月24日東京芸術劇場プレイハウスで、太陽劇団作・出演「金夢島」を見た(演出:アリアーヌ・ムヌーシュキン)。




時は現代、場所はパリ。病床に伏す年配の女性コーネリアは、夢の中で日本と思しき架空の島「金夢島」(カネムジマ)にいる。
そこでは国際演劇祭で町おこしを目指す市長派と、カジノリゾート開発を目論む海外資本グループが対立していた。
夢うつつにあるコーネリアの幻想の島では、騒々しいマスコミや腹黒い弁護士、国籍も民族も様々な演劇グループらが入り乱れて、
事態はあらぬ方向へと転がっていくのであった・・・(チラシより)。
ネタバレあります注意!

典型的な「枠構造」の芝居。
ベッドに横たわるコーネリア。看護師が「彼女はまだ日本にいると思っている」と、誰かと携帯電話で話している。
彼女は現実と自分の空想とがごっちゃになっているらしい。
とある島で女性市長・山村真由美が中心となって、国際演劇祭を開催する準備が進んでいる。
そこに各国から劇団がやって来て、本番前に稽古をする。
その設定がいい。
市長らの会話が終わると、コーネリアが「ここで陰謀が必要ね」と言う。
すると、それっぽい音楽が流れ、いかにも邪悪な感じの男2人登場。
第一助役で市長と対立する高野と、同じく第二助役の渡部だ。
市長のことを「女のくせに」と言ったり、市長が演劇祭のことで忙しくしている間に市長選挙をやろう、と言い出したり。

銭湯シーン・・・市長ら2人の女性が全裸で湯に浸かって会話し、話し終わるとさりげなく全裸のまま湯船から出るので、客席の人々は舞台を凝視(笑)。
だがよくよく見ると、素肌の上に薄いものを着ているようだ。特殊な繊維でできているらしく、かがんでも皺ができない。
その後また銭湯シーンが始まると、悪役の男2人も全裸で出てくるが、これは明らかに皮膚の上に薄いものを着ているのが分かるので笑いが起こる。

空の椅子・・・中国の活動家・劉暁波は2010年にノーベル平和賞を受賞したが、実刑判決を受けて収監中だったため授賞式に出席できず、
彼が座るはずだった椅子にはメダルと賞状が置かれた。そのエピソードが演じられる。

人形劇・・中国の田舎の眼科医・李文亮は、2019年12月、原因不明のウイルス性肺炎が武漢で広まっていることにいち早く気づき、
中国政府の発表前にSNSで発信し警鐘を鳴らした。だがその後、虚偽の内容を流布したとして公安局により処分を下される。
李は「健全な社会は一つの声だけであってはならない」と訴え、当局の情報統制のあり方に疑問を投げかけるが、2020年2月に自らも
新型コロナウイルスに感染し亡くなった。彼を主人公とする人形劇。
彼は感染防止のため宴会中止を上司に訴えるが、上司は即却下。仕方なく、そのまた上司に訴えるが、やはり却下。
そのため仕方なく、ついには皇帝、もとい、習近平閣下に直訴するが・・。
この習近平の人形が、本人そっくり。

アラブの一組の夫婦がやっている劇団登場。

若い女性の携帯に、香港の伯母から電話がかかってくる。
デモの最中に警官たちが襲いかかった、みんなでレストランに逃げ込んだ、と。
だが途中で大きな音が続いて通話が途切れる・・・。

<2幕>
天野武右衛門・・・この人のことは日本人も知らない人が多いだろうから、と女性が物語る。
ある湖を埋め立てようとする男が、湖の主である美女によって誘い出され、水の中に引きずり込まれる・・という話。

ラクダ・・・中東の一座はジャミーラという名のラクダを引いて来るが、ラクダが上に乗った男をおいて、どんどん先に行ってしまう。
男が「早過ぎる」と文句を言うと、ラクダは「そっちが遅過ぎるんだよ。まるで中東の和平交渉みたいだ」とか何とか時事ネタで言い返す(笑)

本屋に女性がやって来る。その登場の仕方が可笑しい。
下手から、ロシア風にマフに両手を入れて静かに歩いて来るのだが、黒子が傘を差しかけていて、その傘から雪が降っている。
つまり、彼女の上にだけ白い雪が舞い降りつつ、近づくのだった。ここでも客席から笑いが。
「『三人姉妹』はよかったわ」と言って、女性はいきなり、戯曲の最後のセリフを口にする。
「もう少ししたら、何のために私たちが生きているのか、何のために苦しんでいるのか、わかるような気がするわ。
・・・それがわかったら、それがわかったらね!」         
すると店主が、今度はイリーナの婚約者のセリフを言うのだった。
「二人で働いて、金持ちになって、・・ただ一つ、たった一つだけ・・・あなたは僕を、愛していない!」・・・

*** *** ***

音楽(ジャン=ジャック・ルメートル)が、その場その場に合っていて面白くて楽しい。
各劇団は、それぞれの出し物を稽古しようとするが、言い争いが起こってなかなか始められない。
なのに「ハイ、時間切れです」と無情にもスタッフに言われるのが可笑しい。
とにかく演劇祭の稽古という設定がいい。

銭湯シーンでは、背後の壁にちゃんと富士山の絵が(笑)

仏語上演(日本語字幕付き)だが、日本語・英語・広東語・アラビア語・ブラジルポルトガル語・ヘブライ語・ロシア語・ダリ語・・が飛び交う。
客席にはフランス人も多かったようだが、彼らはフランス語の字幕がなくてちょっと困ったかも知れない。

壮大なファンタジーの形をとりながら、メッセージはしっかり盛り込まれている。
香港の人々の苦しみ、パレスチナとイスラエルのいつ果てるとも知れぬ戦争、アフガニスタンの人の苦しみ、中国で義のために迫害され亡くなった人・・。
苦しむ人々に寄り添い、彼らを決して忘れないという姿勢。彼らとの連帯。
フランス人のムヌーシュキンが香港人や中国人と連帯する内容の戯曲を書いて上演するのを見て、胸が熱くなると同時に、
日本でもこういうことを書く劇作家が出てきてくれたら、と考えてしまった。

こうしたモチーフがあちこちに散りばめられているにもかかわらず、芝居の楽しさと面白さもたっぷり盛り込まれている。
彼女はインタビューで語っている。
「私は世界の一つの小さなかけらでもいいので、それを舞台の上に載せたいと思っています。
そのためには、過酷で泣きたくなるかも知れませんが、世界をありのまま、自分の心に受け入れなければいけないのです」

パンフレットにキーワードの解説が掲載されている。
そこの「七つの大罪」の隣に「つけ揚げ」(鹿児島では薩摩揚げのことをこう言うらしい)があって笑ってしまった。
とにかくムヌーシュキンの日本文化に対する愛と憧れが、そこらじゅうからビンビンと伝わってくる。

22年ぶりに来日した彼らに、素晴らしく楽しいひとときと大きな刺激をもらった。


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