ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「終わりよければすべてよし」

2023-11-16 22:32:38 | 芝居
11月8日新国立劇場中劇場で、シェイクスピア作「終わりよければすべてよし」を見た(演出:鵜山仁)。




伯爵夫人の息子バートラムはフランス王に召しだされ、故郷を後に、パリへと向かった。もう一人、伯爵夫人には侍女として
育てていたヘレナという娘がいて、彼女は密かに身分違いのバートラムのことを慕っていた。その想いを知った伯爵夫人は、ヘレナにバートラムを追ってパリへ
向かうことを許す。パリに到着したヘレナは王に謁見し、医師であった亡き父から託された薬で王の病を見事に治す。
王はヘレナに望みのものを褒美として与える約束をするが・・・(チラシより)。

この秋最大のイベント。
「新国立劇場シェイクスピア歴史劇シリーズのチームが堂々再集結」というわけで、懐かしい人々にまた会えた。
これと「尺には尺を」を組み合わせての交互上演というが、後者は傑作だけど、それと一緒にどうしてこんなつまらない芝居を、と思ったが、
今回読み直してみたら、意外と面白かった。
冗長なところも多いが、面白いセリフや会話も多い。
マイナーな戯曲だが、演出の力と役者たちの力で、とても楽しいひと時だった。

ネタバレあります注意!
舞台前面に池が作ってある。
冒頭、ルシヨン伯爵夫人(那須佐代子)の屋敷。小田島訳ではロシリオン伯爵夫人だが、なぜか今回、ルシヨンになっている。
皆、喪服。
養女ヘレナ(中嶋朋子)は一人になると、夫人の息子バートラムへの苦しい片思いを吐露する。
ここはまるでオペラのアリアのようだ。
さすが中嶋朋子、早くも彼女の独壇場といった感じで、観客の同情を一身に集めてしまった(と筆者は感じた)。
場面が変わって彼女が王の前に出る時、白いドレス姿になっていて美しい。
あちこち冗長な部分がカットされて、分かりやすく軽快になった。
バートラム役の浦井健治は、いつもながら颯爽としているが、声が高くて残念。滑舌もイマイチ。横を向いてしゃべるともう聞こえない。
フランス王役の岡本健一が最高。
最初は、この人がこんな年寄りの役を、と思ったが、病気が治ってからは元気一杯で、楽しそうに演じている。
ヘレナは王の王笏を取って振り回す!お人払いをしているので、こんなことができるのだ。

ヘレナはどんな医者も治せなかった王の病気を見事に治し、褒美に欲しいものを尋ねられ、バートラムとの結婚を願い出る。
ところが、当のバートラムがこれを聞いて嫌がり抵抗するので、王はメンツをつぶされ、怒る。
ヘレナは「もう結構でございます」と願いを引っ込めようとするが、王は「いや、わしの威信がかかっておるのじゃ」と言ってバートラムを池に蹴り落とす!
これには参った(笑)。(こんなこと、原文には書いてありません)
このために舞台にわざわざ池を造ったのかと思うと、実におかしい。
このあたりのセリフも、基本は小田島訳だが、よりわかり易い言い方に変えてある。
ずぶ濡れになったバートラムはついに諦め、ヘレナと強制的に結婚させられる。
だが彼は、彼女と初夜を過ごすつもりはなく、すぐにフローレンスでの戦いに参加することに決める。
要するに、好きでもない新妻から逃亡しようというわけだ。
ヘレナと別れる時、彼女が遠回しにキスをして欲しいとほのめかすと、(原作には何も書いてないが)バートラムは彼女に軽くキスする!!
当然、ヘレナは大喜び。声も上ずり、ウキウキ。実に可愛らしい。

<休憩>
フローレンスで戦功をあげたバートラムは、ダイアナという乙女に惚れ、いろいろ贈り物をして言い寄るが、彼女はいっこうになびこうとしない。
巡礼の旅に出たヘレナは、偶然ダイアナと出会い、そのことを知って、策を講じる。
ダイアナ役のソニンがうまい!バートラムとの絡みが実に色っぽいし、若々しく初々しい。18歳くらいに見える。
ダイアナがバートラムの指輪をもらうシーンがよくできている。抱きしめられた時、自然に指輪に目をとめた形。

この芝居の副筋に、ぺーローレスという噓つきで卑怯な男が罠にはめられてひどい目に合わされるというのがある。
このぺーローレス役の亀田佳明がうまい。
始めはやはり、この人がこんな役を、と可哀想に思ったが、違った。
この男は嘘つきでバカで臆病者だが、こんな役を下手な人がやったら全然面白くないだろう。
彼くらいうまい人が演じてこそ、芝居全体が引き締まるのだ。
かつて「シンベリン」で勝村政信さんが、クロートンというおバカな王子を演じて客席を沸かせたことを思い出した(2012年、蜷川幸雄演出)。
この人だけ全身黄色の奇抜な衣装で、道化じゃないのにちょっと変だが、分かり易いことは確か。
常に小さな太鼓を提げていて、時々叩く。

道化が面白くない。可笑しい箇所がたくさんあるのに、それを生かし切れてない。
ラスト、バートラムはついに自分のしたことを認め、ヘレナに赦しを乞い、彼女を妻として受け入れるのだが、
その肝心な、気持ちの大変化を、もっとうまく表現してほしかった。
今回、バートラムと道化を別の人にすれば、もっと面白くなったと思う。

高校生の団体がすぐ後ろの席にいて「あちゃー」と思ったが、静かで助かった。
ただ「池に人が落ちた音で目が覚めたから、筋がよくわからなかった」とか「あの二人は兄妹でしょ?なんで・・・?」とか話すのが聞こえた。
せっかくの観劇なのにもったいない。より楽しむために、事前にあらすじくらい教えてあげたらいいのに、と思った。

この話は、ベッド・トリック、女性を死んだことにする、指輪が重要証拠となる、など他の作品と共通する点が多くて興味深い。

意志の強い女性が主人公で、一途な思いを成就させるという珍しい喜劇だが、実はシェイクスピアの戯曲で
強い女性がリードしてストーリーをぐんぐん引っ張ってゆくというのは決して珍しくはない。
「ロミオ」だって「ヴェニスの商人」だって「お気に召すまま」だって「冬物語」だって実はそうなのです。

さて、この翌日「尺には尺を」を見たのですが、それについては次回書きます。

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