雫石鉄也の
とつぜんブログ
妻への家路

監督 チャン・イーモウ
出演 コン・リー、チェン・ダオミン、チャン・ホエウエン
さすがチャン・イーモウだ。北京オリンピックの開会式の演出を任されたのだから、時の政府に覚えがめでたいご仁なのだろう。だからといって、彼は手放しで共産党一党独裁を支持しているとは思えぬ。それがこの映画をみてよく判った。もし、中国が一党独裁の国でなかったのなら、この悲劇は起きなかったであろう。しかしイーモウはそれを声高に批判はしていない。批判はしていないが、肯定もしていない。このあたりの見切りは見事だ。
1970年代文化大革命。ルー・イエンシーは右派分子として投獄されていたが脱獄。妻に逢う直前、密告によって捕まる。文化大革命終焉。イエンシーも解放された。
20年ぶりに帰宅。しかし妻のワンイーは重い記憶障害になっていて、夫が判らない。イエンシーは「手紙を読む人」として、自分自身が妻へ書いた手紙を読みにワンイーのもとに通う。ワンイーはイエンシーを夫とは認識していない。あくまで他人の「手紙を読む人」なのだ。
毎月5日、夫が帰ってくると聞いたワンイーは夫の名前を書いたプラカードを持って、駅に迎えに行く。夫は毎日、横にいるのに。5日が来るたびに駅で夫を待つ。
切に夫を待ち続ける妻。夫が帰って来ていない世界に住む妻を持つ夫。交差しない平行線上にこの夫婦はいる。私たち他人が見れば、二人は肩を並べて歩いているのだが、二人のあいだには何万光年もの距離が横たわっているのだ。夫婦はそれでもお互いを求め合う。なんとも哀しい純愛のドラマであることか。
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