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アドルフに告ぐ


手塚治虫          文藝春秋

 ひょっとするとこの作品は手塚治虫の最高傑作かもしれない。小生は膨大な量の手塚作品の全てを読んだわけではない。だから軽々しく「最高」という言葉を使ってはいけないのだが、小生が読んだ手塚作品の中では、これが一番の傑作だと思う。2回目の読了だが、今回も寝食を忘れて読んだ。
 これは3人のアドルフの物語。在神戸のドイツ外交官の息子アドルフ・カウフマン、神戸は元町のパン屋のせがれアドルフ・カミル、そしてナチス総統アドルフ・ヒットラー。
 時代は、第2次世界大戦前から、大戦中、戦後、最後は1983年。舞台は、神戸、ドイツ、そして中東、イスラエル。
 物語の骨子は冒険活劇の定番。お宝の争奪戦である。しかし、これは冒険活劇というよりも、大河歴史物語といった方がいいだろう。
 アドルフ・ヒットラーの出生の秘密を記した文書が、ドイツから日本の神戸に送られてくる。送ったのは、本作の狂言回し、峠草平の弟の峠勲。勲は文書の存在を兄に知らせた直後謎の死をとげる。犯人はナチスと思われる。弟の無念を晴らすべく峠草平は文書を追って神戸に。
 そのころ神戸では、幼い二人のアドルフが親友として暮らしていた。ただ、カミルはユダヤ人、カウフマンは日独混血で、父はガチガチのナチス党員。カミルは神戸でパン屋を営み平和に暮らすが、カウフマンはドイツに留学、冷酷残忍なナチス将校となり、多くのユダヤ人を虐殺する。
 日本の、日中戦争、真珠湾攻撃、アメリカB29の空襲。ドイツのポーランド侵攻、パリ占領、対ソ連戦争。ヒットラー死亡。巨大な戦争に翻弄される二人のアドルフ。アーリア人至上主義に凝り固まり、反逆者におびえ、愛人エバ以外信じられない、孤独な独裁者アドルフ。この3人のアドルフが歴史を作り、歴史に押しつぶされ、そして最後に二人のアドルフは・・・・。
 登場するキャラはいずれも魅力的。手塚キャラの代表的悪役、ランプもハムエッグも実にけっこうな悪役ぶり。特にランプ。これが映画なら助演男優賞は間違いない。最後に歴史のピリオドをしっかり打つのはこの男だ。
 他に小生のお気に入りキャラ二人。本多大佐。憲兵大佐だから、抑圧する立場の人間だが、スジの通った見事な軍人。それでいながら、いつまで経っても初恋の人にプラトニックな想いを抱いている。
 小城典子。教師。峠勲、アドルフ・カミルの先生。たおやかな女性でありながら、たび重なる特高警察の拷問にも屈せず、文書を守り抜く。終戦後、平和になった日本で再び教師になる。この作品で一番強い人物だ。
 西秋生の「ハイカラ神戸幻視行」は戦前の神戸で花開いた「神戸モダニズム」を紹介した本だが、ちょうどこの時代が、この神戸が、本作「アドルフに告ぐ」の舞台であり時代なのだ。イナガキ・タルホが竹中郁が、創作の構想を練っている横で、二人の少年アドルフが遊んでいる。
カウフマンの家は山手というから、たぶん北野町あたりだろう。ここでカウフマンの母由季江は料理店を営むが、元町のカミルの店からユダヤ人少女エリザはトーアロードを通ってパンを届けていたのだろう。
 作中にこういう記述がある。日本中が空襲に見舞われている。しかし神戸はまだ空襲されていなかった。由季江のセリフ。
「神戸は日本で一番美しい港だわ。モダンでしゃれてて、暖かで平和な町よ。アメリカだって、きっとそのことをよく知ってて、残してくれたんだと思うの」
 しかし、神戸は大きな空襲を受けた。由季江は瀕死の重傷を負う。小生の親たちもB29の爆撃にさらされた。重傷を負った由季江はいう。
「ねえ、あなた神戸は滅びないわね。こんなきれいな町はきっとすぐにたちなおるわよ」
 そう神戸は、日本はたちなおった。そして1995年1月17日。阪神大震災。またまた神戸は大きく傷ついた。そしてたちなおった。
 2009年9月神戸、小生、雫石鉄也はこのブログを書いている。
 パレスチナでは、ユダヤ人たちが、自分たちがナチスに受けたのと同じようなことを、パレスチナの人たちに行っている。
 
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阪神、辛勝。虎の子2点を必勝リレーで守りきる

 対横浜3連勝をもくろむ阪神。初戦、思わぬ苦戦をしてしもうた。阪神の得点は、金本、浅井のソロホームラン2本の2点だけ。それにしても、やっぱりアニキ、ここという時頼りになる。このところ元気がなかったけど、みんなが打たへん時に打ってくれる。先発能見、内川のタイムリーの1点だけで踏みとどまり、7回までがんばる。あとは8回アッチソン、9回藤川と、必勝鉄板リレー。先制点取って、先発が7回、あとアッチソン、藤川。で、先制点がホームランやのうて、ヒットの連打で取った点やって、こういう投手リレーで勝つんやったら、借金も早よ返せるやろ。
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