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最後の事故

 平日の早朝五時。山中を走る国道。最後の対向車とすれ違ってどれぐらい時間が経ったろうか。ずいぶん以前のような気がする。
 後ろから来る車もない。いかにこんな時間、こんな道とはいえ、一時間に一台ぐらいは対向車があってもおかしくはない。
 この道は年に数回は走るが、早朝であっても、切り出した原木を積載したトラックと時折すれ違うぐらい。ところが、そのようなトラックですら通っていない。
 まるでこの世で走っている車は、この車一台だけのような気がする。このまま走り続けても、だれとも出会わないのではないか。そんな気がする。
 貸し切り状態の道を走っているのである。スピードは出せる。その点はありがたい。N県のT市に朝七時までに着かなくてはならない。そこには俺が納品した工作機械がある。
 一時間早出で機械を動かす予定であった。動かない。部品が一つ破損していた。その工場が受注した仕事が納期に間に合わない。
 工場長から朝七時までに修理に来いとの電話が自宅にあったのは、午前四時。ただちに工具箱だけを持って家を飛び出した。
 向こうに見える山を越すとN県だ。なんとか間に合いそうだ。

 D県S市の兄から電話があったのは、明け方四時だった。母の容態が急変した。いますぐ病院に来いとのこと。S市立中央市民病院まで、あと一時間。あの山を越えればN県を抜けてD県だ。できれば兄とともに母に付き添っていたいが、女優という仕事柄、N県での撮影に出なければ映画の公開に間に合わない。幸い、わたしの出演シーンは昨日ですべて撮影が終わった。
 それにしてもおかしい。いくら山道の早朝とはいえ、これだけ車が走っていないのは。ロケ現場を車で出て、二時間近く走っているが、一台の車ともすれ違わないし、前方を走る車もない。
 走りやすいといえば、これほど走りやすいことはない。この道を走っているのは、わたしの車だけ。国道は貸し切り状態だ。

 アクセルペダルを踏む足に力が入る。山道に入った。もう少し走ると峠だ。七時には目的地に着けそうだ。
 俺の運転は飛ばす方だ。急いでいる。道がすいている。これで俺がおとなしい運転をするはずがない。
 山道である。次々と現れる大小のカーブを、クリアしながら快調に飛ばす。対向車がまったくない。そのことは気にならなくなった。そのことはいいのでは。世界で走っている車は俺だけ。考えてみれば、こんな快適なドライブはない。
 夜が明けてきた。明るくなってますます走りやすくなった。対向車の心配はない。道幅一杯を使ってカーブをクリアする。万が一対向車があれば正面衝突だが、大丈夫だ。なにせこの世で走っている車は俺一台なんだから。早く修理しなくちゃ。

 間違いない。この国道を走っているのはわたし一人だ。なぜか判らない。ほかの車がどこへ行ったのか判らない。
 そんなことはどうでもいい。この道はわたし一人のためにある。それでいいじゃない。だって、あれから一台の車とも出会ってない。もう、他の車を気にすることはない。びゅんびゅん飛ばせばいい。一刻も早く母に会いたい。          

 二人とも死の一瞬前に、頭をよぎったのは疑問だった。
「なぜ車が。あの前から来る車はなんだ。この道は俺だけの道のはずだ」
「なぜ、車が走ってくるの。車はわたし一台じゃないの」     
 最後の交通事故は正面衝突だった。     
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阪神、今日も楽勝。3ゲーム差

 上方落語に「こぶ弁慶」ちゅうのんがおます。東の旅シリーズのうちの1つで、肩にこぶをこさえた男がでてくる。このこぶ、実は武蔵坊弁慶。このこぶの弁慶。大名行列に遭遇しまんねや。「控えおろう」と武士にいわれるが、なんせ弁慶、そんなん聞きまへん。武士が取り押さえようとするが、これが強い。弁慶でっさかいに。ちぎっては投げちぎっては投げ。
 空中で弁慶に投げられたヤツがあいさつしとる。
「やあ、貴殿はおくだりか」「おや、貴公はお上がりか。なんぞ下にことづけでもおありか」
 これを、今、甲子園でやっとるわけ。おくだりがヤクルト。お上がりが阪神。きのうの楽勝に続いて、きょうも楽勝。阪神の打線は、今頃になってようやく実力を発揮し始めよった。特に鳥谷が絶好調。きのうは????だった投手リレーも今日はうまいこといったな。アッチソン、藤川が休めたし。
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