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ゴールデンスランバー


伊坂幸太郎      新潮社

 小生はSF者ではあるが、冒険小説も大好きである。西村寿行、田中光二たちの冒険小説はほとんど読んだかな。だから、この作品を冒険小説として期待して読んだ。こういう小生の好みをご承知おきの上、以下のレビューをお読み頂ければ幸いである。
 この作品、山本周五郎賞、本屋大賞、このミステリーがすごい1位。えらく評判がいい。と、いうことは少なくとも、これらの賞の審査員諸氏は、この作品を読んで面白かったのだろう。しかし、小生はまったく面白くなかった。
 話は首相暗殺の濡れ衣を着せられた、主人公の青柳雅春が逃げ回る話。まず、青柳がさめている。口では自分に理不尽な濡れ衣を着せた相手に対して怒っているが、それが読んでいて伝わってこない。
 西村寿行あたりの主人公なら、怒りに燃え上がり、触れば火傷しそうなほど。冒険小説の主人公は、そうでなくては。伊坂は徹底したエンタティメントを目指してこの作品を書いたそうだが、小生はまったくノレなかった。主人公の青柳に感情移入できない。これはエンタティメント小説としては致命的な欠陥である。
 それに青柳の考えが気に食わない。逃げる。ともかく逃げる。どのようなみっともない姿になっても逃げて生きる。冒険小説の主人公であるなら、逃げるな。生きるために一時は逃げても、最後には敵に立ち向かえ。逃げるなバカ。
 相手は巨大な巨象。こちらはアリ。いずれアリは巨象に踏み潰されるだろう。例えそうであっても、踏み潰される直前、ひと噛みなど巨象に噛みつこうと思わないか。例えひとしずくなと、象に血を流させて死んでやろうと思わないか。冒険小説の主人公なら、そう思って欲しい。この小説の主人公青柳には冒険小説の主人公の資格はない。
 青柳が逃亡するに際して、様々な人が協力するが、それらの人がなぜ青柳に肩入れするのか判らない。首相暗殺の容疑者として、警察が威信を賭けて追っている青柳を、さして青柳に義理があるとは思えない人たちが、自分の生活を犠牲にしてまで逃亡を手助けする。しかも、実に都合よく青柳に手をかす。ストーリーに説得力がないこと大である。
 首相暗殺事件の真相も黒幕も結局、最後まで判らずじまい。そのへんのことも、きっちり書けとのヤボはいわない。しかし、少なくとも感情移入させて読ませて欲しかった。
 冒険小説を欲するのであれば、西村寿行、田中光二、山田正紀、船戸与一、アリステア・マクリーン、ギャビン・ライアルあたりを読むべきであった。それを伊坂に求めた小生の間違いであった。
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