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別れのビーフシチュー


 俺か、俺は探偵さ。何してるかって、見りゃわかるだろう。ビーフシチュー作ってんだ。7年前まで、県警のコワモテのデカだった俺が、なんでこんなちんけな事務所のキッチンでシチューなんか作ってるかって。
 別にたいしたわけない。古いダチが来るんだ。そいつがビーフシチューが食いたいといったのさ。
 え、なぜデカを辞めたのかって。そんな大昔のことなんざ覚えちゃいねえさ。どうしても聞きたいか。よくある話さ。俺が悪いんだ。ヤマを追うのに忙しく、女房をかまってやれなかった。男ができた。その男が俺の上司だったのさ。
ま、いろいろあって俺は警察を辞め、探偵稼業を始めたわけだ。
 もうそろそろいいだろう。赤ワイン、パン、サラダを用意して、俺が持ってる一番きれいなテーブルクロスを敷く。
 お、電話だ。なにここまで来れないんだって。うん、そうか、そこで待ってろ。
 古いダチ、別れた女房なんだ。ここには来ない。このビーフシチューはお前が食ってくれ。俺は今から女房とデートさ。俺はもうここには戻ってこない。それ、食い終わったらサツに電話してくれ。
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