鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

十勝の自然74 ハチクマ

2016-01-05 22:47:56 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
ハチクマ 2014年9月 北海道室蘭市)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年10月5日放送)


 夏に日本へ渡って来る猛禽類で、その名の通りハチを好んで食べる、クマタカに似たタカの一種です。北海道でも南部や日本海側では普通に繁殖しているのですが、十勝では繁殖期にほとんど見られず、いてもごくわずかと考えられて来ました。ところがこの数年、秋にタカの渡りを調べてみると、少なからぬ数が十勝平野を通過していることがわかって来たのです。
 ハチクマは秋に日本列島を西に向かった後、東シナ海を一気に横切り、中国南部やインドシナ半島を南下しながらマレー諸島まで渡ります。春に帰って来る時はマレー半島を北上して、中国の内陸部、朝鮮半島を経て日本へ入るという、壮大なアジア漫遊の旅を毎年行うことが知られています。そんな距離感の持ち主ですから、秋に十勝に現れるのは道内の他の場所で繁殖したものがフラッと立ち寄っただけかもしれないし、もしかしたら人知れず十勝で繁殖しているのかもしれません。
 このタカはスズメバチをはじめハチの巣を襲って中にいる幼虫や蛹を食べますが、その際、成虫から猛烈な攻撃を受けても物ともせず、弱ったり命を落としたりすることはありません。これに関して、9月に神戸で行われた日本鳥学会の大会で興味深い発表がありました。ハチクマの羽毛を電子顕微鏡で細かく観察すると、全身、特にハチの巣に突っ込む頭や首周辺の羽毛に、他のタカ類には見られない糸状の微粒子が多数付着していて、実験の結果、この微粒子にはハチの攻撃を不活性化させ、戦意を喪失させる機能があるのだそうです。微粒子の成分や持続時間などは現在まだ解析中とのことですが、これらが明らかになれば、毎年数多く発生するハチによる人身事故の予防や軽減に応用できる可能性があります。
 10月初旬、最後のハチクマが十勝から渡り終えると、ツグミやオオハクチョウなど冬鳥の渡来が始まり、赤や黄色に色づいた木々は葉を落とします。長い冬の足音が、すぐそこまで迫って来ました。


(2015年9月26日   千嶋 淳)