鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ウミガラス(その1) <em>Uria aalge </em>1

2012-01-04 18:46:17 | 海鳥写真・チドリ目
Photo
All Photos by Chishima,J.
(以下1点(比較画像のハシブトウミガラス)を除きすべて ウミガラス冬羽 2011年2月3日 北海道根室市)


 種としては北太平洋と北大西洋の広い範囲に分布し、個体数も多い。北海道では天売島をはじめユルリ島、モユルリ島、松前小島等で繁殖していたが、天売島以外の繁殖地は1970、80年代までに消滅した。モユルリ島では1965年には約500羽が繁殖していたが、1981年には約100羽、82年には約30羽、83年には約10羽と激減し、翌年以降繁殖はなくなった。激減に拍車がかかると歯止めが効かなくなることを示す事例といえる。現在でも夏期に島周辺の海上で見られ、時に島や属島を小群で周回飛翔することがあるものの、繁殖の回復には至っていない。ロシアが実効支配する歯舞諸島を除く国内唯一の繁殖地である天売島でも、1950年代の約5万羽から現在の10数羽までその数は極端に減少した。激減の要因は詳しくわかっていないが、流し網や刺網による混獲の影響は大きいと思われ、個体数激減後はカラス類やオオセグロカモメ等による捕食も影響を与えている可能性がある。

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 北海道の繁殖個体群は消滅寸前の状態にあるが、それらとは別に、冬鳥として渡来するものは少なくない。海上の主に沿岸部に分布し、漁港や海岸近くで見られることもある。
 全長40cm以上とウミスズメ類としては大型で、白黒のツートンカラーの体色は光線が良ければ遠くからでもよく目立つ。冬羽では目の後下方に細い黒線が出る以外、顔の下部は白く、体が十分に浮いていれば非常に白っぽい鳥に見える。そのため、遠距離や波浪等の観察条件が悪いと、ケイマフリ冬羽と見間違うことがある。


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 鳥体が沈んでいたり、波間に見え隠れしていると嘴と首の長さが特に強調されて見え、それに逆光等の悪条件が重なるとアビ類や大型カイツブリ類のように見えることがある。


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 顔の白色は後頚にまで及ぶが、後頚の中央部は暗色であるため、背後から見ると後頭部から後頚にかけて2つの白斑があるように見える。本種の黒色は、ハシブトウミガラスの炭のような漆黒とは異なり、チョコレート色みを帯びる。夏羽で特に顕著だが、冬羽でも褐色みが強い。


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 冬の北の海は一見凪いでいるようでも、所々細波が立って鳥を見づらくする。本種のような大型種でもボディが完全に隠れ、頭部のみ見えるということも珍しくない。
 本種の冬羽への移行はかなり早いようで、8月中旬には冬羽の個体が観察されるようになる。8月下旬に同じ海域で、単独個体は冬羽、雛連れの個体は夏羽だったことがあり、非繁殖鳥や若い個体は早く換羽するのかもしれない。


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 ハシブトウミガラスとの比較画像。ハシブトウミガラスの撮影データは画像を参照。このハシブトウミガラスの羽衣は不明。夏羽とも冬羽とも微妙に異なり、やたら磨滅していることから若鳥か?顔の黒色は磨滅・褪色により褐色みを帯び、典型的な本種の色ではないが、嘴その他の形態は本種の特徴をよく表している。ウミガラスに比べて嘴は厚みを帯び、嘴峰は上嘴の前半で顕著なカーブを描く。ウミガラスの上嘴はより直線的。下嘴角の位置はハシブトウミガラスでより前方(半分程度)になるが、個体や角度によってはこの特徴は確認しづらい。ウミガラスの嘴は全体的に直線的で、やや上向きに見える傾向がある。ハシブトウミガラスでは嘴峰の下方への湾曲が大きいため、まっすぐに見える。上嘴基部の白線はハシブトウミガラスのわかりやすい特徴だが、逆光等の条件次第では見えないこともあり、不明瞭な個体、またウミガラスであっても同部分が淡色な個体もいるため注意が必要。


(2012年1月4日   千嶋 淳)