鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

沖縄本島での7日間~やんばるエコツアー+αな日々(前編)

2009-04-29 21:19:38 | 
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All Photos by Chishima,J.
ソリハシセイタカシギ 2009年1月 沖縄県豊見城市)


(文章は、日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより」166号(2009年4月発行)より転載、一部加筆・修正)


 やんばるツアーへの参加を決め、折角の機会なのでフリーという立場を利用して、早めに現地入りすることにした。本来ならこの期間に、石垣島をはじめ八重山の島々を回りたかった。都会や米軍、自衛隊といった喧騒に曝されずに「島の時間」を満喫でき、なおかつカンムリワシやムラサキサギ等ご当地の鳥も楽しめるからだ。しかし、この計画はあえなく潰えた。那覇から石垣へのフェリーが、先年をもって廃止されていたのである。夜那覇を出港し、朝石垣に着く船便は、安く移動できる上宿代の節約にもなって、僕のような貧乏旅人は大いに重宝したのだが。飛行機での短期訪問ができるほど懐に余裕は無い。こうなったら沖縄本島をできる範囲で楽しもう。とりあえず、ツアーと合流する日までのレンタカーの手配だけして、あとは宿もろくに予約せぬままの、いい加減な旅立ちであった。
1月19日:朝起きると十勝は大雪だった。荷造りもそこそこに、妻に空港まで送ってもらう。カウンターで確認すると、帯広空港の除雪待ちで飛行機の到着は遅れるものの、運航とのことで胸を撫で下ろす。結果、45分遅れでの離陸。羽田から予定していた便には間に合わないが、事情が事情なので次便に変更してもらい、16時過ぎには無事那覇に到着した。この間、大の飛行機嫌いの僕は、少しでも恐怖心を和らげようと呑み続けていたので、到着時にはかなり酩酊していた。空港から市内までモノレールで移動。以前は時間通りに来ることの無いバスか、タクシーしか無かったため、必然的にタクシーになってしまったものだ。ホテルに荷物を放り込み、牧志界隈に繰り出す。まずは公設市場へ。この、あまりにも有名な市場は観光化されている印象は否めないが、それでも所狭しと並べられた豚の面の皮や、青や赤だの原色の魚を眺めていると、あぁ己は沖縄・那覇にいるんだなぁとの実感に捉われる。市場の2階は食堂。刺身盛り合わせにオリオンビールを注文。刺盛にサーモンが入っていたのには閉口した。もっとも、その後ツアーで立ち寄った、ある道の駅では「北海道産ホッケ」を大々的に売っていたから、こうした傾向はここだけではないのだろう。国際通りの泡盛屋さんで試飲させてもらう。適当なコメントを付しながら、最後は一本一万円以上する古酒まで飲ませてもらった。泡盛屋のお兄さん、あの時僕が発した「また一週間後に来て、その時買います」という言葉は、決して出まかせではなかったのですよ。予定変更が重なって、再訪できなくなってしまったんです。この後更に、宿近くの居酒屋で地魚の刺身とともに泡盛を、ボトルで頼んだ気がするが、この辺になると、記憶が不鮮明で詳述できないのが残念である。


イソヒヨドリ(オス)
2009年1月 沖縄県豊見城市
海岸をはじめ、市街地や公園など平地の開けた環境でもっとも普通に見られる小鳥の一種。熱い太陽の照らす、エメラルドグリーンの海を背にこの鳥の朗らかな歌声を聴くと、南国情緒満点だ。
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1月20日:おもろまちの沖縄DFSで、レンタカーを借りる。ここはレンタカーの手続きと配車の場所がかなり遠く、しかも互いの場所がわかりづらく、非常に不便を感じた。何とか車を借りた後は那覇市内を横断し、最初の目的地である三角池を目指す。那覇市内の交通マナーは酷い。ウインカーを出さずに車線変更など普通である。しかし、人間の適応力というのは実に恐ろしいもので、数日後には僕自身がこのような運転をしていた。三角池は道路に囲まれた、ホントに小さな調整池。それでも、水辺が貴重な本島南部では、水鳥の楽園となっている。到着すると早速30羽ほどのセイタカシギの群れが出迎えてくれる。その中に異様に白いのが1羽。双眼鏡を当てると嘴が上に反っている。ソリハシセイタカシギではないか!思わぬ珍客に気を良くし、その後廻った南部の干潟や河口でも、クロツラヘラサギやハジロコチドリといった顔ぶれに出会え、初日から満足の行く鳥果となった。この日の泊まりは中部のうるま市。午後には移動を開始し、途中沖縄市の総合運動公園に立ち寄った。ここの海側は、埋め立て問題で名高い泡瀬干潟。埋め立て箇所は鉄条網で囲まれ、出入り口には厳重なまでの警備員。沖縄本島の海岸では、何ヵ所もでこのような光景を見て来た。開発問題云々の以前に、関係者以外の立ち入りを何としてでも拒否しようというこのような姿勢は、見ていて悲しくなる。それはそうと、この公園では比屋根干潟で水辺の鳥を、公園内で小鳥類を多く見ることができるので、探鳥地としてはお勧めである。日没まで園内をほっつき歩き、うるま市のゲストハウス(旅人向けの安宿)へ。宿のオジィと泡盛を傾けながら、いつの間にか話は泡瀬干潟にも及ぶ。彼曰く、「人間に計り知れない恵みを与えてくれる海を、どうしてそうまで埋め立てるのか」。こうした意見の人と、これまで数多く会って来た。それなのに一向に埋め立てが止まらないのは何故だろう…。


シロガシラ
2009年1月 沖縄県糸満市
八重山諸島には自然分布するが、沖縄本島の個体群はおそらく人為的に導入されたものが、南部で1976年頃より増え始め、現在はかなり北部まで分布を広げている。
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キジバト(亜種リュウキュウキジバト)
2009年1月 沖縄県沖縄市
キジバトやシジュウカラ、ハシブトガラスなど見慣れた鳥の、亜種が異なるのも沖縄での鳥見の楽しみである。「リュウキュウ」や「オキナワ」が付く亜種の多くは、このキジバトのように、九州以北のものより濃色だ。
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泡瀬干潟
2009年1月 沖縄県沖縄市
此処だけでなく、多くの海岸や干潟が埋め立てや開発の危機に曝され、そして失われて来た。
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1月21日:朝から金武町の億首川河口周辺で鳥見。ここはツアーの最終日にも訪れたが、河口にはマングローブと干潟、周辺には田イモ畑や水田が広がり、水辺の鳥が大変多い場所である。それに加えて、鳥との距離が極めて近いのが魅力で、この日もシギ・チドリ類をはじめ、サギ類やクイナ類、セキレイ類などを、普段では信じられないくらいの距離で観察・撮影できた。ちなみに、この日の昼食は近くのコンビニで調達した「フーチャンプルー弁当」。前日は「ゴーヤーチャンプルー弁当」だった。「チャンプルー」はフやゴーヤ(苦瓜)、ソーメン等を、野菜、卵、豆腐等と炒めた沖縄料理で、それぞれメイン具材の名を冠している。午後遅くにうるま市に戻り、まだ時間があったので勝連半島の、照間付近の水田を目指す。現地に到着した時点で、空を覆い始めていた暗雲からの雨により、殆ど探鳥できないまま終了せざるを得なかった。冬の沖縄は、東シナ海から湿った空気が入ることもあって、基本的には天気が悪い。それにしても、以前(2004年)訪れた時より湿田が大きく減少したのを痛感させられた。沖縄では近年、農地の花卉や果樹への転作が盛んで、イネや田イモ、イグサ等の水田は大幅に減少している。名物の泡盛だって、輸入米に頼っているのが現実である。食糧自給、また生物多様性を確保する場としての水田に、生産者だけでなく国民全体がもう少し価値を見出せないものだろうか。夜、妻より電話があり、身内に不幸があっため沖縄には行けない、かといって今からキャンセルも出来ないので、漂着アザラシの会若手のT嬢が代わりに来るという。考えてみれば初めから予定変更ばかりの旅だった。こうなったらなるようにしかなるまい。


ヒバリシギ(冬羽)
2009年1月 沖縄県国頭郡金武町
夏羽や幼鳥ではない、完全な冬羽のシギ・チドリ類が多く見られるのも、冬の沖縄の魅力である。
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ムナグロ(冬羽)
2009年1月 沖縄県国頭郡金武町
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クロサギ(黒色型)
2009年1月 沖縄県糸満市
サギといえば白いと思われがちだが、この海に住むサギは真っ黒である。クロサギには普通に黒い黒色型のほかに、白い白色型(白いクロサギ)もいる。
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(続く)


(2009年4月10日   千嶋 淳)