鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

海鳥を読む⑪「Skuas and Jaegers -A Guide to the Skuas and Jaegers of the World」

2014-08-06 23:02:36 | 海鳥
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NPO法人日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより184号」(2014年3月発行)掲載記事「海鳥を読む」を分割して掲載)


「Skuas and Jaegers -A Guide to the Skuas and Jaegers of the World」(Klaus M. Olsen and Hans Larsson著、240×171mm、190ページ、Pica Press、1997年)
 デンマーク人鳥類学者とスウェーデン人画家の共著による、世界のトウゾクカモメ類7種のモノグラフ。従来1種とされて来たオオトウゾクカモメは4種に分けられ、北大西洋で繁殖する1種をのぞき南半球で繁殖する。13枚のプレート(2枚はカラー)に描かれたイラスト、150枚を超える写真(モノクロが中心だがモノがモノなので特に問題ない)にくわえ、野外識別、換羽、渡りに重きの置かれた解説は、変異が多く、年齢により羽色の変わるトウゾクカモメ類の難しい識別に重宝することは必定である。野外でのトウゾクカモメ類の見方や識別の着目点を含む総論や、渡りコースも示された種ごとの分布図も興味深い。つい最近も、霧多布沖で撮影したトウゾクカモメ類の幼鳥を、本書をはじめ幾つかの文献と照らし合わせてシロハラと同定できた。ちなみに、タイトルのskuaは英国ではトウゾクカモメ科全般に対して使うのに対して、米国ではオオトウゾクカモメ類にskua、それ以外の種にjaegerを用いる。同じ鳥の英名と米名が異なるのは、アビ類のDiver(英)とLoon(米)、ウミガラス類のGuillemot(英)とMurre(米)など多くあり、世界共通の英名が浸透しない一因となっている。著者らによる作として「Terns of Europe and North America」(207ページ、Christopher Helm、1995年)「Gulls of North America,Europe, and Asia」(608ページ、Christopher Helm、2003年)もあり、前者は未見だがアジサシ類の識別ガイドとして評価が高く、後者は多数のイラストとカラー写真を用いて、最新の知見に基づいて書かれたカモメ好き必携の大部の著だ。欧米にはこのような特定の分類群や種を対象としたモノグラフが数多く存在するが、日本ではまだまだ少ない。バードウオッチング文化が醸成されていないことの裏返しなのだろうか。なお、イラストを担当したLarsson氏は本書の出版時、20歳だったというからその早熟な才能には驚くしかない。


(2014年3月   千嶋 淳)