鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

若鶴たちの夏

2006-06-23 16:26:28 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All photos by Chishima,J.
対峙する3羽の若いタンチョウ 2006年6月 北海道十勝川下流域)

 曇天は、晴天時には空の青や樹林の濃緑にかき消されがちな、色濃くなり始めた農耕地の緑色を引き立てる気がする。そんな曇り空の下、採草地で3羽のタンチョウが前傾姿勢でしばし対峙していた。次の瞬間、3羽は翼を開いて勢いよく跳躍した。緑の牧草地を背後にぱっと開いた白花が、目に鮮やかな対比を作り出す。3羽はぶつかり合うような体勢で1メートルほど舞い上がると着地し、今度は何事も無かったかのように採餌や羽づくろいに戻った。縄張りをめぐる争いみたいな光景だが、3羽のうち2羽は首の黒い部分が褐色味を帯び、翼にも黒色部の多い前年生まれの若鳥だ。もう1羽も一見成鳥のようだが、翼を開くと初列風切や初列雨覆の先端に黒色の残る、2歳鳥である。
緑を背後に白の咲く…(タンチョウ
2006年6月 北海道十勝川下流域
写真1の前後の行動

ジャンプしてぶつかり合う
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2羽での踊り
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 大型のタンチョウでは性成熟に3年以上を要するため、1・2歳の若鳥は越冬地を離れた後も繁殖活動に従事することなく、ぶらぶらと夏を過ごしている。根室地方では風蓮湖や野付半島などの干潟が餌も豊富で、こうした若鳥たちの人気スポットとなっているようだが、十勝にはこのような広大な湿地は少ない。そして、数少ない海岸部や十勝川下流域に残された湿地には繁殖つがいが既に過剰なまでの密度で縄張りを構えている。そのためだろう、この時期の若鳥は繁殖鳥の縄張りとなっていない農耕地や堆肥などで見ることが多い。それらの一部は作付け後の畑を踏み荒らしたり、そこで採餌したりして農家との軋轢を引き起こす原因にもなっている。


前年生まれのタンチョウ3点

2006年5月 北海道十勝川下流域
風の強い5月上旬の午後、デントコーン畑で2羽が踊っていた。
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2006年3月 北海道十勝川下流域
僅かに解け始めた湿地で貝を食べていた。しかし、繁殖つがいの縄張り内にあるこの場所では、じきに姿が見えなくなった。
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2006年5月 北海道十勝川下流域
農耕地内の堆肥に飛来した。餌が豊富なのだろう。
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 農耕地などでふらふらしている若鳥は主に2~3羽で、文頭に紹介したような争いと見紛うような舞を演じている姿をよく見かける。このような行動には何がしかの社会的な意味があるのだろうか?それとも、ただ単に退屈を紛らわす、意味の無い「遊び」にすぎないのだろうか?踊りには、「緊張とそれに続く弛緩が引き金となり得る」(「タンチョウ そのすべて」正富宏之著)そうなので、先の場合には私たちが通りかかったことも影響しているのかもしれない。
 ちなみに、ゼニガタアザラシでは3~5歳前後のオスに、海中でもつれ合うように泳いだりマウントしたり、あるいは海上へジャンプするなどの遊び行動が多く観察されており、オスが上陸場へ定着してゆく過程で、互いの体力などを推し量るなどの将来の繁殖につながる効用があると考えられている。


ゼニガタアザラシの遊び行動
2005年5月 北海道東部
遊び行動には何種類かあるが、これは2頭がもつれるようにグルグル回る「ローリング」と呼ばれるもの。
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 いずれにしても舞を踊ったり、農家の庭先で餌を食べたりと人間の目には気楽な青春を謳歌しているように見える若鳥たちも、今年生まれの幼鳥が飛べるようになって親子で農耕地へ姿を現わす頃になると(もっとも最近では生後間もないヒナのうちから農耕地に出入りしている「生まれついての畑タンチョウ」もいるのだが…)、ぱっと見では成鳥と区別がつかなくなる。そして越冬地で冬を過ごした翌春、それらのあるものは嫁さんもしくはダンナを伴って十勝に帰って来る。


畑に現れた「新世代タンチョウ」の親子
2006年6月 北海道十勝川下流域
分かりづらいが、2羽の成鳥の間にまだ小さなヒナがいる。
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5月中・下旬の花

エゾキケマン
2006年5月 北海道帯広市
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ムラサキケマン
2006年5月 北海道中川郡豊頃町
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コンロンソウ
2006年5月 北海道十勝群浦幌町
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マルバネコノメ
2006年5月 北海道十勝群浦幌町
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(2006年6月19日   千嶋 淳)