鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

十勝の自然96 ウミスズメ

2016-12-06 22:33:36 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.

ウミスズメ 2012年11月 北海道十勝郡浦幌町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月23 日放送)


 北西の季節風が強まり、時化模様の多くなる初冬の海上で目立つ海鳥の一つにウミスズメがあります。全長25cm前後と、14cmのスズメよりはだいぶ大きいのですが、広い海上では確かにスズメのように小さく見えます。ウミスズメの仲間には他にもウミバト、ウミガラス、ウミオウムなど、大きさや形を陸鳥になぞらえて命名されたものがいくつかあります。適当なネーミングともいえますが、生涯の大半を海上で過ごし、人との接点が少なかったためでしょう。もっとも、「ウミスズメ」の名は安土桃山時代には既に知られており、魚群を追って密集する群れを出漁の目安としたといいますから、漁師には馴染み深い鳥だったようです。

 羽幌沖の天売島をはじめ、北海道から東北の島で少数繁殖しますが、大部分は極東ロシアやアラスカから冬鳥として渡来します。数羽から数百羽の群れで行動し、潜水して水中を飛ぶように泳ぎ、餌を捕えます。岸近くで見る機会は少ないものの、外洋よりむしろ、水深50m前後の沿岸域に多い鳥です。

 沿岸を主な生活の場とし、水中を飛ぶように餌を捕える習性のため、幾多の受難にさらされて来ました。その一つが刺し網など漁網への絡まりです。水中に張り巡らされたナイロンの網で溺死した鳥は、一回の水揚げで多い時に何十羽にも上ったといいます。海洋汚染も沿岸の海鳥には脅威です。1997年に島根県沖の日本海で発生したタンカーの原油流出事故では、わかっているだけでも500羽近くが犠牲となりました。

 世界でも北太平洋沿岸にのみ生息するので、その地域以外の人にとってはたいへん珍しい鳥です。数年前、アメリカ人の海鳥研究者を冬の根室沖へ案内した時のこと。船べりの、手の届きそうな距離にウミスズメが現れました。彼は北大西洋のニシツノメドリという海鳥の保全に関する世界的権威ですが、大西洋にはいないウミスズメの出現に興奮する熱い眼差しは、まるで少年のようでした。


(2015年11月22日   千嶋 淳)

十勝の自然95 フッキソウ

2016-12-05 10:09:05 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
フッキソウ 2015年11月 北海道十勝郡浦幌町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月23 日放送)


 まだ昼前というのに、谷間を低くから射る陽光が黄金色に染める一面のススキの穂は、まるで夕方のようです。山あいのわずかな平地に残る草原は、数十年前まで炭鉱とそこで働く人たちの生活が確かにここにあった名残り。不思議な感傷にとらわれながら山奥へ車を走らせていると、枯れ葉を敷き詰めた林の地上に緑色の絨毯のような一角がありました。高さ20cm程度の植物ですが、厚みのある葉は陽の光に照らされて、11月には似つかわしくない艶のある深い緑色をしています。フッキソウの群落です。

 フッキソウは一年を通じて緑色の葉を茂らせることから、繁栄のシンボルとして漢字で「富む」、「貴い」、「草」と書き、吉事、良き門出などの花言葉を持ちます。ところが、多くの図鑑にフッキソウは「ツゲ科の常緑小低木」と説明されています。地を這うような、「草」そのものの外見でありながら「木」とはこれいかに?草と木の区別は厳密なものではないのですが、一般に草は冬に地上部が枯れ、多年草でも地下茎として過ごします。また、木には樹皮の内側に形成層と呼ばれる組織があり、この部分が成長することで年輪になります。フッキソウは実を付けたまま地上で冬を越し、根に近い部分は木質化して年輪らしきものも認められることから「木」になるのです。

 熟すと白くて光沢のある果実にはアルカロイド系の毒が含まれるとされ、食用にはしませんが、アイヌは茎や葉を、婦人科系の病気の薬として煎じて飲みました。また、葉を煎じて便秘や胃痛の薬としたり、風邪の時にキハダの皮と一緒に鍋で煮立て、その湯気を吸い込んだりしたそうです。

 春先、雪の中からいち早く姿を現し、林床を緑に彩ったフッキソウは4月から5月に白っぽい花を咲かせますが、花びらを持たないそれは、エゾエンゴサク、キバナノアマナなどスプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれる鮮やかな春植物が咲き競う中ではあまり目立ちません。


(2015年11月22日   千嶋 淳)

十勝の自然93 冬を待つ水辺

2016-12-01 19:51:13 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
晩秋の湧洞沼 2015年11月 北海道中川郡豊頃町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月17日放送)


 麗らかな陽光に誘(いざな)われるように、豊頃町の海岸部にある湧洞沼へ繰り出しました。防寒具を着込むと汗ばむほどの陽気でしたが、収穫を終えた畑や葉を散らした木々の茶色が、白く染め抜かれた日高山脈まで続く風景は、たしかに初冬のものです。

 早春、ミズバショウの花が地表を白く彩ったハンノキ林(りん)も、夏の風が瑞々しいヨシの穂先を震わせた湿原も、今は周囲と一体となってじっと、長い冬の訪れを待つばかり。空の青を映した鏡のような水面には三々五々、水鳥が群がっています。カモの仲間に混じって、クイナの一種オオバンの姿も目立ちます。不器用な潜水を繰り返しては餌の水草をくわえて浮上しますが、近くで待ち構えているヒドリガモに奪われてしまうことも少なくありません。

 寂寥の中に赤く萎れたハマナスの実が点在する草原をかき分け、細波(さざなみ)打ち寄せる湖岸に出ると、数百m沖合に水鳥の大群がひしめき合っていました。魚が好物のカモ類、カワアイサが約1000羽、ごく狭い範囲に密集し、しきりと潜水を繰り返します。それを取り囲んで数百羽のユリカモメが乱舞し、水中へ飛び込みます。水面下にはワカサギか何か、小魚の群れがいるのでしょう。突然の闖入(ちんにゅう)者に驚いた水鳥たちが飛び立つ羽音や飛沫が、長閑な静寂を破ります。

 沼と太平洋を隔てる砂丘に広がる草原へ出る頃には適度な風が吹き始め、猛禽類のノスリがあちらこちらでフワフワと舞い、ネズミを探していました。つい先日までアキアジ釣りの竿が林立した浜は閑散とし、シシャモ漁で賑わった海上は強いうねりを伴い、クロガモやカモメなど、沼とはまた違う海鳥たちが波間を舞っています。冬を待つ湧洞沼の水辺は、思いのほか生命の賑わいに満ちていました。

 それも束の間。沼への道が通行止めとなる12月には水面も固く凍(しば)れ、鳥たちもさらに南へ渡ることでしょう。


(2015年11月16日   千嶋 淳)

十勝の自然92 ホシハジロ

2016-11-29 22:27:48 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
ホシハジロのオス 背後はオオバン 2015年11月 北海道中川郡豊頃町)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月16日放送)


 国際的な野鳥保護団体「バードライフ・インターナショナル」が作成する絶滅のおそれのある鳥のリスト、レッドリストに今年、カモの仲間のホシハジロが新たに加わり、驚かされました。ホシハジロは、オスでは赤茶色の頭、黒い胸に灰色の体がよく目立つ中型のカモで、潜水して水草やその種子を食べます。ヨーロッパからアジアまで、ユーラシア大陸に広く分布し、日本でも普通の冬鳥として都市公園の池などで見ることができます。

 ところが、ヨーロッパではこの20年あまりで個体数が30~49%も減ってしまったことから、新たに絶滅危惧種に指定されたのです。激減の決定的な理由はよくわかっていませんが、狩猟や水面のレクリエーション利用、湖沼の富栄養化などにくわえ、地域によっては外来種のミンクによる捕食も影響を与えています。ヨーロッパほどではないものの、日本や韓国を含むアジアの個体群も減少傾向にあります。

 たしかに、十勝では春と秋を中心に十勝川やその周辺の湖沼で割と普通で、15年以上前の湧洞沼では秋に1万羽を超える大群が水面を埋め尽くさんばかりでしたが、最近では多くても数百羽程度のまばらな群れしか見られなくなりました。市街地にありながら少数が子育てしていた釧路市春採湖での繁殖も、20年近く途絶えたままです。これらも世界的な減少傾向の反映かもしれません。

 それなのに日本では依然として狩猟鳥のまま、銃口が向けられています。同様に減少著しく近年、国際自然保護連合のレッドリストにノミネートされたクロガモも、日本では未だに狩猟鳥です。日本のレッドリストは、国内繁殖数が少ない種や昔から希少な鳥は網羅していますが、これら2種のカモのように、最近になって危惧されるようになったものの整備が進んでいません。種の保全を目指すのであれば世界的な傾向に目を向け、それらをすみやかに国内での保護に反映すべきです。


(2015年11月15日   千嶋 淳)

十勝の自然91 庭に小鳥を

2016-11-27 12:19:34 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J
庭の餌台に飛来したアカゲラのオス 2015年1月 北海道中川郡池田町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月11日放送)


 小春日和の続いた先週から一変しての日曜日の雪には、間近に迫った本格的な冬という現実を突きつけられましたね。冬は鳥たちにとっても飢えや寒さの厳しい季節。野鳥への餌やりには、感染症が広まるリスクや本来の生態を変えてしまうといった否定的な意見もありますが、私は個人の庭やベランダの範囲内で、節度を持って野鳥に給餌するのは特に問題ないと考えています。森の中ではなかなかじっくり見られない小鳥を、暖かい室内から間近に眺めるのは、彼らを知り、親しむ良い機会でもあります。

 我が家の庭でも11月下旬から3月頃まで、餌台や数台のバードフィーダーを設置しています。果物、小鳥のエサが中心の餌台にはヒヨドリやスズメが、ヒマワリの種を入れて物干し竿から吊るしたバードフィーダーにはシジュウカラ、ゴジュウカラなどがひっきりなしに訪れ、牛脂はアカゲラの大好物です。ただし、ヒマワリは外来植物ですので、近所に広がってしまっていないか、日々の散歩でチェックしています。

 餌台やバードフィーダーを作る際には、あまりに鳥が密集すると糞や羽毛から感染症の広まるリスクが高まるので、餌の量をほどほどにして、定期的に清掃するなど周辺環境を清潔に保つよう心がけましょう。また、近くの木まで持って行ってから食べる鳥もいるので、糞や食べ残した餌でご近所に迷惑をかけないよう、配慮する必要があります。

 時にはハイタカなどの猛禽類がやって来て、犠牲になる小鳥もいるかもしれません。しかし、猛禽も厳しい冬を生き抜くのに必死なのです。自然の摂理に任せましょう。

 以上の話は個人の庭・ベランダで野鳥と親しむための餌やりに関するもので、公園など公共の場所、自然の中での撮影や私物化を目的とした餌やりは厳に慎まなければなりませんし、十勝川温泉のように観光の一環として餌やりが行われている場所では、その場所のルールに従って下さい。


(2015年11月10日   千嶋 淳)