この本を書店で見つけた時、
「これはなにやら面白そうだ」
という予感がした。
面白そうな本は「面白いよ」というオーラを放っている。
それは新聞や雑誌の書評、広告に影響されることなく威厳のように漂っているものだ。
この本もタイトルに秘められた謎が大いにそのオーラを発散していたのだ。
ヘンリー・ペトロフスキー著「フォークの歯はなぜ4本になったのか」はまさにそういう一冊なのであった。
私たちが日常使っているもの。
表題にあるように例えばフォークやジッパー、ポストイットなどがどのようなきっかけで生まれ、デザインされ、改良され、商品として出回っきたのかということを語っている。
フォークは人がナイフで食べているところからスタートしたという。
でもナイフだと後ろから「おっ!」とか言って食べている最中に後頭部を叩かれたりすると悲劇が起こりかねない。
このようにナイフの悲劇を避ける、というか、そんな鋭いものではなくモノを固定するため、口に運ぶためだけの役目でフォークが誕生した。
その歴史はカトラリーの歴史である。
もしかすると本書よりも詳しい書籍があるのかもしれないが初めて知る者(私)には新鮮で大いに驚くものがあった。
ジッパー、ポストイット、アルミ缶などどれもこれも普通に存在しているにも関わらず生まれは他の商品と同じく難産で、その過程はプロジェクトXもびっくりな血と汗と欲と涙の塊だ。
今回様々なモノの誕生を知ったわけだが、最も印象に残ったのが缶詰の物語。
食物を保存する手法として誕生した缶詰。
その最初の商品に使われていた鉄板はなんと5mmもあったのだという。
ものを保存するために密閉性を保たなければならない缶詰は試行錯誤の中で誕生。
容器に入った食物を光熱で殺菌処理するところは現代と同じだが、その圧力や熱に絶えうるために使用した鋼板のなんと厚いことだろう。
5mmの鋼板というと1メートル角だと16キログラム弱もある。
現在の規格寸法の鋼板だと4.5mm厚さというのが一番ちかいものになるが、よほどの強度を要求するものではないかぎり使用されることはない。
だから最初の缶詰は開封するのも一苦労。
だから缶詰は専用の器械で開封するためお店にお願いしないと行けなかったのだという。
しかも時にライフルを使って破壊していたのだともいい、なんのための缶詰なのかわからなくなる。
これではまるで紛失防止チェーンのついたコードレス電話みたいなものだ。
他にもジッパーの開発話がなかなかな感動ではあるが、あとは読んでのお楽しみ。
素敵なデザイン読み物なのであった。